Shinri.S

社食で麺を食べがち

Shinri.S

社食で麺を食べがち

最近の記事

石を舐める

 かこさとしさんのエッセイ「だるまちゃんの思い出 遊びの四季」を読み、幼い頃のことを思い出した。草花をおもちゃにして外遊びをしていた、あの頃。  いちばん古い記憶は時計が読めないころの記憶だ。幼稚園に行っている姉を待つ間、一人遊びをしながら置き時計の盤をのぞきに行っていた。  いちばん細い針は目に見えて動く。次に細いものは、家じゅうをぐるぐると駆け回ってから戻ってくると針が移動している。太い針は、時計のことなんて忘れているよというくらい辛抱強く部屋を行ったり来たりして、よう

    • 発言を撤回してお詫び申し上げる。

       古い小説や映画には、しばしばお断りの文句がつく。――この作品には一部、不適切・差別的な表現がございますが当時の時代背景や作者の意図を尊重し、そのままの形で……云々。  作品中に差別が当然のように時代背景として描かれているものもある。当時、差別とも思っていなかったもの、当たり前と思って疑っていなかったもの。今を生きる私たちが、「そういう時代だったから」と一言で片付けるのは妙な話で、そういう時代を生きてきた当の本人たちは気付かずにいたかもしれないけれども、今の私たちなら知ってい

      • 葉賀さんのこと_ショコメヰト結成10周年にあたり

         と銘打ちつつ私の話をするが、元来、凝り性で飽きっぽい性格である。食べ物にハマれば毎日そればかり食べ続け、ある日ぱたっと食べなくなる。時間やお金を費やした挙げ句、途中で急に飽きて放りっぱなしなんてことも。だから、ずっと書き続けていることには心底驚いている。  ここまで続けてこられたのは、まずは絵本制作の勉強がしたくて入学した専門学校で、私を児童文学を書く世界へとのめり込ませた恩師・K先生の存在を語らねば話は始まらない。  人生で初めて書いた物語を先生に褒めてもらっていなければ

        • 「サイレントマジョリティー」

           よく聴いている。私は平手友梨奈ちゃん好きである。  さて、眼鏡を新調した。10日後にできるという。右の乱視が進んでいて、仮の眼鏡を試したら床が少しふわっとした。掛けていれば慣れると思いますよ、と言われ、そうなのだろうなと頷いた。マスクを着けることもすっかり慣れてしまった。  美しく並んだ眼鏡のフレームの傍に、空のケースがあった。試し掛けした眼鏡を入れる場所で、そこに置かれた眼鏡は消毒が施され、またきちんと並べられる。とても不思議な棚で、温かみと静寂が共にある。緊急事態宣言

        石を舐める

          ぶどう酒か、それともワインか

           ぶどう酒を選ぶか、それともワインを選ぶか。  12年ほど前から児童文学を書いている。ここではない世界の、でも、ここと繋がっている世界の物語。食い意地の張っている私は、物語に必ず食べ物を書く。  その世界を仮にA島としよう。島にしたのは「あつまれどうぶつの森」で島の評判を上げるためにせっせと頑張っているからだ。シズエさんからは、散らかっているものを片付けろ、花や木を増やせとのご指示を受けております。ははっ、ごもっとも。  A島で最も賑わう通りで人気の料理は? メインストリート

          ぶどう酒か、それともワインか

          死ぬことは簡単じゃない

           危うく死ぬところだった。昨夜、家はもうすぐというところで、コンビニの駐車場でUターンをしようとした乗用車が、バックで歩道に突っ込んできた。  「車がいる」と目の片隅で捉えていなければ、「バックしようとしている」と気付かなければ、「道を譲ろう」と小走りにならなければ、そのまま加速気味に進入してきた車のリアバンパーにぶつかっていた(あくまでも主観)。その駐車場に止まっていたトラックの運転手さんも、エーッ!というをしていたし(あくまでも主観)、危うく死ぬところだった(2回目)。

          死ぬことは簡単じゃない

          柔らかなパンのかたい思い出

           食べ物が出てくる本が好き、と前回書いた。いちばん古い記憶の本は「からすのパンやさん」か、「ぐりとぐら」のカステラか……と考えていたが、ふと、ひらめいてしまった。もしかして「アンパンマン」ではありませんか?  思えば幼いころ、パン屋さんで買ってもらうパンといえば、あんパンだった。パンの上に載っていた小さな粒々。あれを昔ゴマだと思っていたが、あるときケシの実なんだと知ったとき、少し大人になった気がした。  今の自分のパン好きからすると、なぜあんなに嫌いだったのか謎だが、小学生の

          柔らかなパンのかたい思い出

          たゆたう白玉

           食い意地が張っているのか、食べ物の描写がある作品に食いつく。いちばん好きなのは本。小説からエッセー、漫画、絵本まで何でも読む。  思えば子どものころから、「わかったさん」シリーズが大好きだった。「夢水清志郎」シリーズに出てくる羽衣母さんのカレーを食べてみたい。「地下室からのふしぎな旅」に出てくる、粒の揃った大きな焼きとうもろこしにかぶりついてみたかったし、「霧のむこうのふしぎな町」に登場するトケの店のはちみつパイがどうしても食べたかった。ナータの、たくわんとマヨネーズを挟み

          たゆたう白玉

          夏の夜や鍋

           2週間ぶりに恋人に会った。久々に鍋が食べたい、という。  夏の熱気のこもった部屋で冷たいものばかり口にしていたが、冷房の効いた部屋で熱々の鍋を囲むのもまた至福。  おなかも冷やさず、ビールも進む。夏の長い夜に食べるキムチ鍋。  ニラ入りのカット野菜、舞茸、豚の薄切り肉、餃子、豆腐、そしてモランボン(鍋の素)。  煮立たせたキムチスープにポンポンと材料を入れていく。これだけ。  カット野菜の袋は封を開け、そのまま鍋へ空ける。餃子も同様。  舞茸は濡らしたキッチンペーパーでさっ

          夏の夜や鍋

          さらさらと冷たいもの

           蝉は姿が見えないくせに、いったいどこで鳴いているのだろう。  ガラスのコップにリンゴ酢の炭酸割りを注ぐ。  あるいは炭酸に梅酒をひと垂らし。  氷のカランと鳴る音が涼しくて好き。  アイスキャンディー、冷やし中華、素麺、冷奴、夏野菜、青じそ、茗荷、漬物……。  そういう冷たいものを、ベランダから入ってくる微かな風を感じながら食べている。  悲しいことに、冷房の効いた部屋で冷たいものを食べるとおなかを冷やす。暑がりのくせに。  だから、暑いなぁとぼそりとこぼしながら、冷たいも

          さらさらと冷たいもの