書評・チェスタトン『ブラウン神父』シリーズ ちくま文庫/創元推理文庫チェスタトン『ブラウン神父』シリーズ ちくま文庫/創元推理文庫
チェスタトン『ブラウン神父』シリーズをご紹介します。特に、「新訳と旧訳どっちを読んだらいいのと迷っている」あなたのために、読みくらべてみます。
結論から言いますと、旧訳をおすすめします。
ブラウン神父はミステリーの古典中の古典で、シリーズ一作目の原著は1911年発行です。主人公は、冴えない風采で、周囲からは軽く見られがちなブラウン神父。その神父さんが、見事な推理で謎を解くというスタイルです。名探偵といえば、シャーロック・ホームズですね。でも、かっこいいホームズとは違った、名探偵像を作り出しました。
ちくま文庫版は2012年に出た新訳です。ブラウン神父シリーズといえば、長らく創元推理文庫版でした。
そうなると、新訳と旧訳、どちらの訳で読んだらいいの、という問題が出てきます。
昨今、ミステリーも含め、古典の新訳が刊行されています。同じ出版社から新訳が出たならば、迷わずそちらをおすすめします。たいてい、わかりやすくなっているからです。
私は両方の版を読んでいましたが、読み比べたわけではなかったので、今回、同じ短編を続けて、新訳と旧訳で読んでみました。
はじめにちくま文庫版から。シリーズ一冊目の本は、『ブラウン神父の無心』です。
読んだのはたぶん3回目くらいですが、やっぱり面白かったです。新訳なのですが、意外と古風な日本語でした。それもそのはず、「訳者あとがき」には
もう百年前のサビのついた原作だから、翻訳も少し古くさい方が良いと思って
と書いてありました。
訳者の一人、南條竹則さんは、ラヴクラフトなんかも新訳していますが、古風な文体が好きなのですね。
そして創元推理文庫の中村保男訳。創元推理文庫だと『ブラウン神父の童心』というタイトルです。こちらが、予想とは違って、平明な文章でした。ただ、どちらの訳もある程度、読みにくさがあるのは、どうも、訳文のせいではなく、原文のせいなのでしょう。考えてみると、明治時代の文章なのですから、鴎外とか漱石とか思えば、そりゃあ、読みにくさもありますよね。
ということで、予想に反して、意外に古風な新訳と、意外にわかりやすい旧訳でした。それぞれの良さがあって、どちらも良かったです。
では、どうしたらいいのか。
ブラウン神父シリーズは5冊あります。そのうち、ちくま文庫版は、2020年8月現在で、2冊目までしか出ていません。もちろん、創元推理文庫版は、5冊全部出ています。
だから、旧訳をおすすめします。全部読めるので。
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