見出し画像

「ABC殺人事件」事件

 S市の独立系書店で働いており、書店員目線で本のことを綴っています。

 毎月、フェアを考えて実施しており、少し前に「こども」というテーマで選書をした。子どもに読んでもらいたいという本ということで、「ハヤカワ・ジュニア・ブックス」のクリスティーを選んだ。
 『そして誰もいなくなった』が売れたのだが、その後、うちの子ども用にも購入した。小中学生が読み、『アクロイド殺し』も買ってみたら、続けて読んでいた。
 実は、ぼく自身が中学生くらいのときに、誰かのエッセイ(本当は誰のエッセイかは覚えている。というか忘れもしない!)で、アクロイドの犯人を、作品を読む前に知ってしまったことがあり、一生の痛恨事となっている。
 だから、子どもたちには一刻も早くアクロイドを読んでほしかったのだった。

 無事に読み終えてくれて一安心していたところ、なんと息子が「小学校の図書室に『ABC殺人事件』田口俊樹訳、ハヤカワ・ジュニア・ブックスがあったよー」と嬉しそうに借りてきたのだ。
 実は、ぼくは未読の作品だったので、今度は自分が窮地に立たされた。いつもは子どもたちに「犯人教えてあげようか」とからかっていたのに、今度は逆の立場になってしまったのだ。
 これは、自分も早く読むしかない。まさか、子どもに先を越される日がこんなに早く来るとは思ってもみなかった。

 自分はジュニア・ブックスではない新訳で読もうと探していたら、すごいことに気づいた。ハヤカワ・ジュニア・ブックスは田口俊樹訳。ハメット『血の収穫』を新訳した方だ。
 ところが、ハヤカワ文庫―クリスティー文庫は、堀内静子訳。ジュニア・ブックスは、ジュニア・ブックス用に翻訳しているのだった。ジュニア向けに翻訳し直すなんて、早川書房は本気だ。

 ともあれ、息子にポロッと、ABCの話をされる前に読んでおかなければ。毎日、「言っちゃうよ」と脅かされている。こうして、ぼくの読書計画は変更を余儀なくされるのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?