書評・ハウフ『隊商 キャラバン』岩波少年文庫


 これは、ミステリーの歴史の中でも、もっとも古い時代に書かれた、ミステリーなんです。

 印象的な挿絵とともに、子どもの頃に何度も読んだ本です。

 「岩波少年文庫 創刊 60年記念復刊」というものがあって、その候補リストに入っていたのを見つけ、リクエストハガキを送りました。すると願いが通じて、復刊していただき、大喜びで買い求めました。

 35年ぶりに再読してみたら、ラストのどんでん返しの、ミステリー的要素に魅力を感じていたのではないかと気づきました。

 砂漠を旅する隊商の商人たちのもとにやってきた一人の旅人。商人と旅人が、退屈しのぎに、順番に不思議な物語を話していくという構造で、6つのお話が語られます。タイトルだけでワクワクさせられます。

 中でも、「切り取られた手の話」と「ファトメの救い出し」というお話は、先が読めない、冒険ものなのです。
 このオリジナル性が高い二つのお話が、のちの展開の伏線になっています。ここに作者の、見事な仕掛けが施されているのです。
 最後のお話が終わった後、驚くべき事実が明らかになります。そして、それだけでは終わらず怒涛のラストへと突入していきます。

25歳で亡くなってしまったドイツの作家、ハウフによる19世紀初頭の物語集です。
 もっと長く活動してくれたら、さぞ、面白いお話をたくさん残してくれたのではないかと、思わずにいられません。民話的要素を取り入れながら、ミステリー的エンタメでもあるという、独自のスタイルが洗練されていったら、どんな作品が生み出されたのでしょうか。

 ちなみに、推理小説というジャンルを作ったのは、ハウフと同世代のエドガー・アラン・ポーだということになってます。推理小説の草分けとされる、ポーの「モルグ街の殺人」はハウフが亡くなった後に書かれた作品です。

 でも、「隊商」には、事件も、裁判も、謎解きも描かれています。実は、ポーよりも前に、ハウフはミステリーを書いていたのではないでしょうか。

 今日ご紹介したのは、童話のようだけど本当はミステリーである、ハウフ『隊商 キャラバン』でした。


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