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長文感想 『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』岩崎夏海

2009年に出版された当時の大ベストセラー。
高校野球をネタにした本の読書イベントに合わせて手に取った次第。

この本の装丁、主人公の女子高生のスタイルに時代を感じさせますね。
正直、抵抗がなかったかと言えばうそになります(笑)。


舞台は、イマイチ覇気が上がらない、都立高校の野球部。

病気がちで、今も入院中の野球部女子マネージャーの親友・夕紀の後を追って、マネージャーに就任した主人公・川島みなみ。

7月末から夏休み、そして年が明けて夏の甲子園出場をかけた地区予選へ。
みなみクンと仲間たちの奮闘を追う青春小説です。

みなみクンはそれまで野球とは距離を置いていた高校生でしたが、「マネージャー」という言葉から、ついドラッカーの名著『マネジメント』を手に取ります。

最初は難解な本を買ったことを後悔していましたが、経営学と野球との共通点に魅了され、それを野球部という「組織」に一歩ずつ反映していくのです。

そもそも、イマイチなこの野球部を「甲子園に出場させる」と意気込むみなみクンに正直びっくりしたのですが、それだけ実は野球が大好きだったことがのちに分かります。

それはある事情があり、心の奥にしまっていたのです…。


そもそも、野球部の「マネジメント」とはなんぞや?

みなみクンはまずそこから入ります。

ドラッカーは経営の基本として「顧客」をまず定義しなければいけない、と説きます。

野球部の「顧客」って? 

非営利団体の野球部の顧客…雲をつかむようなみなみクンの疑問に力を貸す野球部員が現れます。

万年補欠のキャッチャー、正義クン。

彼もドラッカーの信奉者…というのはちょっとご都合がいいかも? でしたが、野球に携わることで体育会系の人脈づくりになるなら…と割り切る彼の姿がとても頼もしい(笑)。

彼の助言を得てみなみクンが見出したのは―――

「野球部の顧客とは、親・先生・学校・都道府県・地域住民・高校野球ファン、そして野球部員。高校野球に携わるすべての人が顧客であり、提供するのは『感動』である」

ここからスタートして、野球部を中心に、次から次へと「マネジメントのドミノ倒し現象」を追っていくのは読んでいて実に爽快! 

あっという間に物語の中に引き込まれました。

個人的には、ドラッカーが組織を活性化させるのに必須の要素・「イノベーション」を野球の世界にどのように起こすのか? 

野球好きの私にもなかなか興味深い展開。

ここはぜひ読んでいただき、堪能して欲しいところ。


具体的には「送りバント」と「ボール球を打たせる投球術」がその対象なのですが。

そこには積年の思いを秘めつつも、現状を嘆く顧問の先生がキーパーソンに…。

高校野球に限らず、プロ野球を含めた現状へのアンチテーゼにもなっていて、経営学の枠を超えた野球論として、とても深いものがありました。


物語はここに至り、主人公のみなみクンの手を離れて、野球部そのものが革新の波に乗った感があります。

その中で、みなみクンが気づいた、こころの中に秘めていたものとは。。。

単なるハッピーエンドとはちょっと異なる味付けに、びっくりしたのは本音です。

その先は、読み手それぞれの胸のうちに委ねられたように思いました。

個人的には、「ドラッカーから始まってアドラーに至る」と言った感じでしょうか?

組織を構成するのは、やはりひとりの人ですからね。

【以下、余談】


みなみクンのキャラクターを追っていくと、ドラッカーを読みこなす稀有な女子高校生のイメージが最後にガラリと変わります。

その辺りは、著者の岩崎氏の来歴に答えがありました。

そもそも、あの秋元康さんの下で放送作家をされていて、AKB48のプロデュースにも関わった方。

道理で、若い女の子のこころの描写が巧みだったわけですね。

ショービジネスの中で悪戦苦闘する若い女の子の実相を知る岩崎氏だからこその物語。

大人びた女子高生に見えたみなみクンも、ようやく大人への一歩を歩み出したひとりの女の子。

岩崎氏が関わった頃のAKB48のメンバーのその後を考えると、いろいろ複雑な思いもよぎりますが😅、まずは「真摯な」みなみクンに幸あれ、と願う自分がいました。


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