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耳を澄ます言葉

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2021年下半期に東京国際芸術協会会報に連載していたエッセイ・評論「耳を澄ます言葉」
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#声楽

「今ここ」ではない場所へ(「Tiaa Style」連載「耳を澄ます言葉」より第3回

「今ここ」ではない場所へ(「Tiaa Style」連載「耳を澄ます言葉」より第3回

 リヒャルト・シュトラウスの『4つの最後の歌』を知ったのは、大学三年のソルフェージュの授業のときだった。先生が、ピアノで第3曲「眠りにつくとき」の冒頭の一節を、巧みな転調の例として弾いたのである。聴いた瞬間、絡み合う官能的な音が生み出す魔力に惹き込まれ、授業が終わっても旋律と和声が耳から離れなかったのをよく覚えている。
 全篇、ロマン主義の極限と言うべき魅力に満ちた作品だが、中でもその第3曲は格別

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