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良い会社の条件とは

「良い会社」とはそもそも誰にとってのこと言っているのでしょうか。社会にとって、株主にとって、従業員にとって、取引先にとって、顧客にとって、等々、観点は多岐にわたります。これらを順番に見ていきましょう。

1.まず「社会にとって良い会社」とは、社会の「課題」を解決することが主たる観点となるでしょう。例えば一般的には、武器を売ったり、高利の消費者金融を行う会社よりは、ライフラインを供給したり、生活必需物資を売る会社の方が「良い会社」とみなされるでしょう。では、スマホでの通信やゲームなどの娯楽を提供する会社はどうでしょう。あるいは洋服や装飾品またはクルマなど、高級品を売るのと大衆向けの商品を安く売るのとでは、社会にとっての「良し悪し」の判断は異なるのでしょうか。また、大きな利益を生む会社と、顧客のために利幅を小さくして安く商品を提供する会社とでは価値が異なるのでしょうか。
最近話題になっているダイバーシティ(多様性)の促進に取り組んでいることは、世間で良いこととみなされますが、そのことで会社の収益力が落ちたり、逆差別が露見したりと課題もたくさん残されています。このように「社会にとって」という価値基準は極めてあいまいであり、個々の人にとって意見が大きく分かれることになります。

2.次に「株主にとって良い会社」とは何でしょう。これは比較的考え易いです。株主にとって良い会社とは、継続的に好業績で、株価が安定的に上昇し、配当率が良いことが基本となります。ただ、昨今は機関投資家と経営者との間に、会社の将来についての考え方の相違から、収益率の低い部門の取り扱いや利益の分配について、激しいやり取りが多発していることからすると、「株主にとって」何が良いことなのかについても、多様な考え方があると認めざるをえません。
また、オーナー会社の場合は、急成長して内部留保が厚くなり、オーナーの資産は莫大になったとしても、従業員は過酷な就労環境で悲鳴を上げているケースも多々見られます。彗星のごとく現れて、たちまちの内に急成長して世間を賑わしている会社は目立ちます。しかし何かの拍子に突然破綻してしまうようでは「良い会社」とは言えません。

3.「従業員にとって良い会社」とは、一般的に言って適正な利益を背景に持続的に高めの給料を払い、福利厚生も充実していて、ワークライフバランスが取れている会社ということになるでしょう。決して業績が悪いのに高給を払い続けてくれる会社ではありません。
中高年になった時に、それなりのポジションを与えられるということも重要な要素です。銀行や総合商社などの優良大企業は、給与レベルでも一流です。しかしある年齢になったときに、役職定年制によってそれ以上の栄進ガ限られてしまうケースが多く、関係会社の役員になって経営者の道を目指せるのも、ごく一部の選ばれた人材のみです。
 最近ジョブ型雇用の推進が叫ばれています。従事する業務を特定して、それについて契約を取り交わしたうえで、業績次第で昇給・ボーナス・昇進を決めていくという制度です。従来の日本企業に見られた年功序列賃金・昇進による悪平等を破棄しようという動きですが、反面、高年齢層の職と生活の安定を脅かす事態になりはしないでしょうか。人間は将来の楽しみを胸に抱いて今を生きるという傾向があります。欧米の経営方式を金科玉条のごとく祭り上げて、それを真似るという追随型で、日本の企業は生きていけるのでしょうか。

4.「取引先にとって良い会社」については様々な観点があります。何でも言うことを聞いてくれる、良い製品やサービスを提供してくれる、値段が安い等々です。取引先の身になって誠心誠意、心を尽くして商品やサービスを提供した結果、相談相手として貴重な存在になったという例は多く見られます。しかし、それは提供する側から発注する側への一方的な忠誠心になりがちです。取引関係にある両社がいかに平等の精神で協力できるか、単純な公式はなさそうです。

5.最後に「顧客にとって良い会社」とは何でしょうか。顧客は「キング」であると世界中が認めています。しかし、その顧客の「キング」である度合いは国や地域によって異なります。欧米や中国に比べて日本の会社の顧客に対する忠誠心は群を抜いています。会社や商店において、顧客のクレームには絶対に反論をしてはいけないという教えが今も一般的です。つまり顧客にとって日本の会社や商店は天国であり、わがまま言い放題となっているのです。これは果たして望ましい状態なのでしょうか。逆に会社の成長を阻害していることもあるでしょう。近江商人の「三方良し」の精神は、この風潮に一石を投ずる考え方ではないでしょうか。

 このように見てくると、「良い会社の条件」は、見る人の立場によって大きく変化するもので、一概に定義できるものではないことが明らかです。ではどうしたら「良い会社」になれるのか。
私は、これらの条件がバランス良く適度に満足できている会社が良いのではないかと考えています。どの条件も完全に満足しようとすれば、必ず他の条件に大きなひずみが現れてしまいます。そこそこに条件を満たしていることで、環境変化に柔軟に対応でき、長い歴史の中で生き残る会社となると考えます。
 実はこれこそが、日本が長寿企業を生んできた極意なのではないでしょうか。良いと思われることをビシバシとトップ主導で追及する会社には、トップの加齢とともに判断が曇る日が必ず来ます。そうなる前に、様々な考え方を持つ社員と社外のステークホルダーが長いお付き合いを通じて、その時の環境に対応して柔軟に揺らぎながら会社を変化させていく。これを「良い会社」と呼ぼうではありませんか。

#COMEMO #良い会社の条件

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