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エーザイに学ぶSECIモデルを回す実践知 #ワイズカンパニー #SECI #世界標準の経営理論

どもっ、しのジャッキーです。本記事は、知識の創造の理論である「SECIモデル」に関する個人的な学びをアウトプットする一連の記事の第8弾です。

私は、去年(2021年)に、「世界標準の経営理論」を読んで、「すげぇ!」と思ったいくつかの理論の一つがSECIモデルでした。野中郁次郎氏と竹内弘高氏はSECIモデルを「知識創造企業」(日本語版1996年、リンク先は新装版)の中で描き、そこから約4半世紀たった2020年に続編として出版されたのが「ワイズ・カンパニー」になります。前著が知識「創造」について書いたのに対して、本書では知識「実践」について拡張したとしています。

本投稿は、「ワイズ・カンパニー」を読み解きながら、学びをアウトプットしていく連載記事となります。

<ワイズ・カンパニーまとめの過去記事>
第1回:世界唯一の知の創造の理論「SECIモデル」をまとめてみた
第2回:知の実践企業に立ちはだかる3つの問題の克服に必要なこと
第3回:ホンダジェットの成功からみる知の実践の勘所とは
第4回:実践力のための知の源流、アリストテレスのフロネシスとは?
第5回:実践知と暗黙知とルーティンとダイナミック・ケイパビリティと
第6回:JAL再生に学ぶSECIモデルを回す実践知
第7回:60年でSECI6回転のシマノに学ぶSECIモデルを回す実践知

前回の振り返り

前回は、知識創造のプロセスである「SECIモデル」の「共同化」「表出化」「連結化」「内面化」が、実際にどのようなものを指すのか「シマノ社」の事例についてまとめるとともに、知識を実践して得られる実践知について、私自身の新規事業開発での経験から棚卸をしてみました。

エーザイにおけるSECIスパイラルモデル

今回は、エーザイ社の事例です。この事例は、SECI「スパイラル」モデルと呼ばれています。何が、スパイラルなのか、見ていきましょう。以下が、いつもどおり、SECIモデルのプロセスにそって、エーザイの事例を整理したものです。

以下の4つのSECIモデルの回転が取り上げられています。

  1. 筑波研究所:アルツハイマー病の進行を遅らせるアリセプトの開発

  2. ミッションステートメントの効果:CEOに就任した内藤は、従来と同じやり方では生き残れないと考え「エーザイ・イノベーション宣言」を行い、「世の中は変わります。あなたは変われますか」というメッセージとともに「ヒューマン・ヘルスケア(hcc)」を打ち出す。

  3. アリセプトの発売後:アリセプトのマーケ、販売促進活動を行う42人のリージョナル・アリセプト・マネージャー(RAM)を組成

  4. 次世代の治療:アリセプトの特許は2013年に切れたが、エーザイは継続して認知症の問題に真剣に取り組む

篠崎の解釈が入りますが、ここでのポイントは、SECIモデルの回転の度に、知識創造の範囲が広がっていくこと、高次元になっていくことがポイントです。

1週目では、研究プロジェクトのリーダーの母の介護という経験が、研究開発チームに内面化されていきます。次に、それがCEOによる新しいミッションステートメントの打ち出しと相まって、組織全体に広がります。

3週目では、認知症の患者を支えるコミュニティへと広がっていきます。4週目では、認知症の進行を抑えるだけでなく、病気そのものを治すという高みへ向かっていきます。

SECIスパイラルとフロネシス

このSECIモデルを回していくと、知識創造の範囲が広がり、より高みに向かっていく特徴は、前作にあたる「知識創造企業」にはなく今作「ワイズ・カンパニー」で取り入れられたものです。

この高みに向かっていく原動力となるのがアリストテレスが3つの知の一つとして取り上げたフロネシスだとし、日本語としては実践知と呼んでいます。

アリストテレスによる知識の3分類

  • エピステーメー:普遍的に通用する科学的な知識
    →「なぜ、を知る」知識

  • テクネー:スキルに基づいた技術的な知識
    →「いかに、を知る」知識

  • フロネシス:価値観や原則、モラルに即した行動をとることを可能にする経験的な知識
    →「何をすべきか、を知る」知識

エピステーメーとテクネーに関しては、絶対的な答えがあったり、定量化が可能な知識だと思いました。それに対して、フロネシスというのは絶対的な解がない、定性的なものだと思います。それが故にとらえどころがないものであることも確かです。

このあたり哲学的な部分やその歴史は当方のnoteでは、以下、第4,5回で取り上げましたので、興味のある方はご参照ください。

第4回:実践力のための知の源流、アリストテレスのフロネシスとは?
第5回:実践知と暗黙知とルーティンとダイナミック・ケイパビリティと

YKKの精神“善の循環”

ダイナミック・ケイパビリティという経営理論の勉強で取り上げたファスナーのYKK社の事例では、YKKの精神「“善の循環”:他人の利益を図らずして自らの繁栄はない」創業者からつづくこの考え方が、従業員のマインドに浸透していることで、YKKが顧客のためのビジネス・エコシステムの一部になる、というビジネスモデルの思想を支え、取引コストを低減する効果があるといいます。

今回のエーザイの事例でいえば、SECIの3週目において、アリセプトのマーケ、販売促進活動を行う42人のリージョナル・アリセプト・マネージャー(RAM)が「認知症を支えるために本当に社会に求められることをしようとしていること」が行動の実践を通して、関係者に伝播していくことで、真に求められている情報が集まるようになり、4週目のSECIにつながっていっています。

経済学の系譜にあるダイナミックケイパビリティにおいては、取引コストの低減としてとらえられるし、ワイズカンパニー(認知心理学?)のとらえ方でいえば、知識創造・知識実践の範囲が広がる、ととらえられていて、同じような事象も多面的にとらえられて興味深いと思いました。

おわりに

ということで、今回は「エーザイのSECIスパイラル」の事例について学びのアウトプットをいたします。次回は、SECIスパイラルとフロネシスについてまとめたいと思います。

このほか、当方の経営理論に関する記事は以下のマガジンにまとめていますので、もしよかったらのぞいてみてください。またフォローや記事への「スキ」をしてもらえると励みになります。

ということで「形のあるアウトプットを出す、を習慣化する」を目標に更新していきます。よろしくお願いします。

しのジャッキーでした。
Twitter: shinojackie

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