四文転結創作ノート

初めに

小竹田は「四文転結」という、四つの文からなる起承転結を踏まえた物語・文芸形式を提唱しています。
リンク先の記事では、四文転結を含めた短い文芸を念頭に置いて、おもしろい作品を書くためのツールとして、新しい起承転結を提唱しました。しかし、先の記事は長文になってしまい、具体例を載せる余裕がなくりました。そこで、この記事で、新しい起承転結に則った小竹田流の四文転結を書く方法を、詳しく説明していきたいと思います。

まず最初に、小竹田の提唱する新しい起承転結です。

小竹田夏の起承転結
起:日常からの変化
承:起からの小さい変化
転:承からの大きい変化
結:別方向への変化

では、早速、物語を作っていきます。

ありきたりではない出だし

まず「起」ですが、ありきたりにならない出だしを考えます。

ありきたりでないものを生み出す簡単な方法は、意外な二つを組み合わせることです。これはなにも、地球のものと、地球外のものという大袈裟な組み合わせにする必要はありません。

例えば、川端康成の『雪国』の冒頭。

国境の長いトンネルを抜けると雪国であつた。

普通、「トンネル」を抜けるというと、「明るくなる」「視界が開けた」など視覚に関するイメージが浮かびますが、「雪国」を組み合わせたことで、意外性が生まれ、魅力的な冒頭になっています。さすが、ノーベル賞受賞の大文豪です。

せっかくなので、「トンネル」と「雪国」を元に「起」を作ろうかと考えたのですが、そのままだと問題が生じるかもしれませんので、「雪」=「寒い」のイメージの逆をいって「暑いトンネル」を「起」にします。

全体が先

起承転結という枠組みがあると、順番通りに「起を考えて、次に承を考えて」と作っていく手もあると思いますが、小竹田は最初に全体を考えてから、起承転結に合うよう物語を形式に落とし込んでいきます。

全体から個別へという問題解決法は、受験数学のテクニックでも使われています。数列の問題で、段階を追って一般項を求めさせる問題で、先に一般項を求めてそこから途中の問題の答えを導いてしまうというアレです。

では話を膨らませていきます。
「暑いトンネル」から、暑い、狭い、通り道と考えていると、地面に穴を掘って、地球の深くまでマントルを進んでいったら、暑くなりそうだなと思いました。

地球に穴を掘って進んでいくのは、普通は大掛かりなことになります。そこでこれも逆をいって、ごくプライベートなことで地球の深くまで進んでいったらおもしろそうだと考えました。

このように小竹田は、物事を分解していって、逆の事、反対の事を考えるようにしています。

プライベートなこと、恋人、深さ、あたりから、二人の愛の深さを確かめるために、地球の深いところまで潜って調査をしに行くという物語の大筋が見えてきました。

転以降の驚き

物語全体が決まった後は、どう見せていくかを考えます。

小竹田の起承転結は、以下の図のように、物語が立体であることをイメージしています。

画像1

なので、物語全体を空間として捉えたときに、どの方向から見るのが一番広がりを持って読者に提示できるかを考えます。

具体的に言うと、小竹田の起承転結は、最初から最後まで変化を要請していますので、どうすれば、転と結が大きな変化、読者を驚かせるような変化になるかを考えます。

男女二人が、自分たちの愛の深さを確かめるために、地下深くまで調査に行く物語

この筋書きの中で、読者に意外性を与えられそうな要素は、

プライベートな目的のために、地球の奥深くまで潜っていく

ことでしょうか。ですから、このことは起承では一切触れずに、転結まで取っておきます。

意外性を生む簡単な方法は、隠していた情報を開示することです。よくあるのが、「人間だと思わせておいて、実は〇〇だった」という手法です。

小説の場合、特に断りがなければ、
現代の、地球における、人間の話で、よくありがちな状況
として読者は読み進めますので、そこを逆手に取ることになります。

現代と思わせておいて過去の話だったとか、地球の話と思わせておいて火星の話だったなど、読者の前提から外れる情報を後出しすれば、意外性が生まれます。

これをあざといと見る向きもありますが、物語を書きなれないうちは一つの技法として押さえておいて損はないと思います。

結は難しい

起承転結でうまい結末をつけるのは難しいです。起承転結の提唱者とされる、13-14世紀の詩人・楊載も「詩は結もっとも難し」と言っています。
機械的な手順で、誰でも良い結末が自然につけられることは当面なさそうで、だからこそ挑戦のしがいがあるし、個性が発揮される場だと思います

小竹田も結がパッとしなくて没にした作品は、バーゲンセールするほどあります。ですから、みなさんも諦めずに書き続けてほしいのです。

とはいえ、一般化は難しくとも、目的を限定すれば、うまい結末をつける手はいくつかありそうです。
例えば、楊載が理想とした、余韻が残るような結末にする一つ方法は、物語を途中で切ってしまうことです。

彼女は頬を赤らめて、彼を見ていた。
「私、先輩のことが……」

ありがちですが、ここまで書けば、「彼女は先輩が好き」ということを、読者は想像で補ってくれます。また読者が想像で補ったときこそ、作品世界は広がりを見せるのだと言えましょう。

ただし、想像の余地が広すぎる場合は、ぼんやりとした結末になり、ともすれば意味不明になってしまいます。途中で切る場合は、十分、先が予想できる状態まで物語を展開しておく必要があります。

完成

以下、暑いトンネルから生まれた四文転結作品です。

二人乗りのカプセルで、長い長いトンネルを下りていくと、次第に暑くなっていった。
地下深く、上部マントルを超えて、初の調査が行われている。
調査隊員の若い男女二人は、真剣なまなざしでお互いを見つめ、調査目的を再確認する。
愛がどこまで深く達しているのか、見届ける二人。

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