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与えられるものこそ与えられたもの/「帰ろう」藤井風

与えられるものこそ与えられたもの
ありがとう、って胸を張ろう

「帰ろう」藤井風

先日、子供用の小さな机を注文した。子は1歳半を過ぎ、そろそろ作業台が欲しいだろうと妻が提案したのだ。

子が寝静まり、ご飯とお風呂をすませた9時頃。日中に届いた段ボールを開封した。机の構造は単純で、いくつかの板をネジで留めれば完成する。

単調な作業の中、母が机を買ってくれた日のことを思い出した。

それは小学校に入学した日。その頃の母は仕事に家事に朝から晩まで働き続け、とても忙しそうだった。たまに座っていると思ったら、家計簿を書いたり資格試験の勉強をしたりで、休んでいる姿や遊んでいる姿を見たことはなかった。

振り返ると、厳しい経済環境だったのだろうと思う。

小学校に入学したのをきっかけに、母が立派な勉強机を買ってくれた。初めて自分の城を手に入れたような気持ちで、とても嬉しかったのを覚えている。教科書を並べ、漫画本を引き出しに隠して、小さなフィギュアを飾った。

宿題があれば学校で済ませて帰ってきて、夕飯までテレビを見続けるような子供だったので、あまり机に向かう姿は母に見せられなかったかもしれない。

それでも母から「勉強しなさい」と言われたことは一度もなかった。その代わり、「勉強だけが身を助けるよ」と教えてくれた。母が勉強している姿をよく見ていたので、その言葉はすんなり自分の頭の中に入った。

高校受験を機に、勉強机に座る時間が増えた。それから勉強机にしがみついて大学受験を乗り越え、大学の進級試験を乗り越え、医師国家試験を乗り越えた。18年間使い込んだ机はさすがにボロボロになったが、いまも実家の片隅に置かれている。


話は少し変わって、藤井風の「帰ろう」と言う曲の中にこんな歌詞がある。

与えられるものこそ与えられたもの
ありがとう、って胸を張ろう

「帰ろう」藤井風

とても豊かな歌詞だと思う。私が子供に渡せるものは、これまで母から貰ったものでできている。そして子供に何かを与えるとき、自分は素晴らしいものをもらってきたことに気が付く。

私は子供の机を組み立てて初めて、あの厳しい経済環境で立派な勉強机を買ってくれた母のありがたさに気がついた。学びの大切さと環境を母は与えてくれた。

せっかく買った机を私が満足に使わない時には言いたいこともあっただろうに、余計なことを言わずに見守ってくれた。勉強だけが身を助けるという言葉のおかげで、自分に向いた良い仕事にも就けたと思う。

母には感謝しかない。そして母から教わったことを子に残せることが誇らしい。


机が完成した翌朝、早起きした子供が机に飛びついた。一丁前に座ってお絵描きする姿が嬉しかった。

これからどんな子に育つのだろう。まだまだ教えたいことがたくさんある。教えるたびにまた母のありがたさに気がつくのだろう。子とともに成長しながら、母に何かを返していけたらと思う。

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