No.005「猫舌クマさん」

　


みんなは　「辛口」　だいじょうぶ？
俺は　からいの　苦手なんだよ
ついでに舌も　猫舌なんだ
クマがネコジタ？なんか変だね

熱い辛口カレーとか
激辛ラーメンなんてのは
食べたらきっと　火を噴くよ
舌も火傷で　大変なことに…

だから絶対　家でも外でも
食べないようにしていたんだ

ある時　仲のいい友達が
「猫舌なんて　ないんだよ
　努力でなんとか
　なるんだよ」　という
ようなことを言っていたから

猫舌だけでも　克服しようと
頑張ってみることにしたんだ

とりあえず　熱いラーメンを
辛口じゃない　ふつうのやつを
ふうふうしながら食べてみた

それでも少し　口の中では
舌や唇が　ヒリヒリするんだ

結局少し冷ましたあとで
のびたラーメンを　すすって食べた

次に　甘口ではちみつ入りの
カレーライスを食べてみた

まだ　あっつあつの　
冷めてないやつ
パクっと口に入れてみた

やっぱり舌や喉のほうが
後でヒリヒリしてきたので
冷たい水をゴクゴク飲んで
汗をかきながらゆっくり食べた

ああ　俺って何をやっても
うまくいかない　ことばかり

それを見ていた　別の友達が
俺にこんなことを教えてくれた

「クマさん　よくよく考えてみな
　お前の体はタンパク質で
　大方出来ているのだから
　煮えたぎった油とか
　熱いお湯などを口に入れたら
　ただれてしまって当然だろう？

　煮えたぎった油の中に
　ひき肉入れたら　すぐに固まる

　熱湯に生の卵を入れたら
　かき混ぜるだけで『かきたま』になる

　それとまったく同じことだろう？」

確かにそうだ　そうだよなぁ
ああ俺はなんて　馬鹿なんだ
馬でも鹿でもないクマが
馬鹿なクマなんて聞いて呆れる

ずっと一生　猫舌のまま
これも個性と笑い飛ばして
生きている方がずっといいんだ

こんなことばかり気にしてしまって
要らない努力をするよりは
自分に合った温度や辛さで
美味しく食べることのほうが
本当はずっと大切なんだと
今さらながら　わかった気がする

できる友達に聞いたことは
ある意味　嘘ではないだろう
きっとそうして克服できる
人も中にはいるだろう

それとまったく　同じように
できない人が　いてもいいだろう

ただ猫舌の自分のことを
自分で「よし」と　するだけのことだ
　
　

（20220301／私之若夜＝しのわかや)