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私の本棚 #7 鴨居羊子の生き方百科

人との接し方を、根底から考え直させるエッセイ集です。

鴨居羊子の生き方百科(PHP研究所 鴨居羊子 著)

この記事は
Part1 構成と特徴
Part2 印象的だった内容
Part3 この本を読んでの私の意見

という構成になっています。

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1.構成と特徴

著者である鴨井羊子さん(1925〜1991)は、下着デザイナー、エッセイスト、画家などの様々な肩書を持つ、
今で言うところの「スラッシュキャリア」の持ち主。

本書では、そんな彼女が毎日新聞で連載していた「生き方百科」から抜粋された、
選りすぐりの人生相談を読むことができます。

一つの相談につき見開き1ページと、一つ一つの分量は少なめですが、
「人生相談」というだけあって、その内容は不倫、DV、貧困、イジメなどかなりディープなものばかり。
質問や回答を読んで「どうしてこう思っているか」「自分だったらどう考えるか」と想像を膨らませるから、
ページをめくる速度は自然と緩やかになっていきます。

どう見ても「サクサク読み進められる」というものではなく、
読書のボリュームとしては非常に充実しているように感じられました。
一冊をじっくり読みたい人にはとてもオススメと言えるでしょう。

また、これはご本人の人柄故だと思いますが、
あらゆる回答において、とにかく歯に衣が着せられていません(笑)
質問者に対して「そもそもあなたが間違っている」と断言することも。
白黒はっきりつけられない「グレーゾーン大歓迎」の私は、読み始めで何度も面食らいました。

しかし、連載が続くほどたくさんの質問が届くということは、
そんな明確でストレートな意見を欲する人がたくさんいるということです。
背中を優しく押すだけではなく、時にバシッと引っ叩いてやるくらいの勢いが、あっても良いのかもしれません。私がそのスタンスになるかは不明ですが。

ちなみに、この本を読む時に
1.質問だけを見る
2.自分で回答を考える
3.実際の回答を見てみる

という順番で進めたところ、とても楽しかったです。
私は十中八九同じ回答になりませんでしたが、自分の体に新しい価値観がどんどん入り込んでいる証拠と言えるでしょう。

2.私にも響いた言葉たち

質問者に投げかけたはずが、私の心にもぐさりと刺さった、
そんな言葉を二つ紹介していきます。

一つ目の質問者は、一部の男子生徒にきらわれていることに気づいた女子中学生。
清潔感のある身なり、学年で十番以内に入る優秀な成績と、きらわれる理由が見つからない…それでも机をこわすなどのいやがらせを受け、学校に行きたくなくなった、彼女に対する回答がこちら。

例えば、劣等生なら、あなたが十番いないの優等生であるだけで嫌いになるかもしれないし、ハンカチを毎日とりかえるのはキザだと思い込んでいる子は、清潔好きのあなたにマユをしかめるでしょう。不潔でだらしない子は毎日髪をとき、フケのフの字もおとしていないあなたにいらだつかもしれません。
人の好き嫌いはこのような不条理な「好悪」の感情から生まれたものである以上、人に好かれることがそのまま善だとはいい切れません。〜中略〜
だれかが好いてくれているなら、だれかにきらわれているものです。〜中略〜
だれかにきらわれることを喜べとはいいませんが勇気をもって怖れるなかれ!と言いたいところです。

好かれるか、きらわれるか。どちらがよいかと言われれば…大体は前者でしょう。
しかし鴨居さんの言葉にある通り、人の好き嫌いは「好悪」からくるもの。自分が全ての人に「好き!」という感覚で接することができないのと同様に、全ての人に「好き!」と思われるようにするということは不可能なのです。

いじめは別で裁かれるとして、「きらわれること」自体を特別思い悩んだりしていると、時間を損してしまうように感じました。
自分が思いも寄らない言動をする人に対しては、「いろんな人がいるなぁ」程度に受け止め、さらっと流してしまいたいものです。

**********

二つ目の質問者は、お見合いで結婚が決まり、結納まで済ませた30代の女性。
夫となる彼を誠実そうと感じる反面、気になる点がいくつかあるということが今回の悩みです。
性格がどことなくいや、貯金が二百万程度しかない、運転免許証も持っていない。自分は短大卒なのに対し、彼は高卒。
彼とこれからを共にすることを考えて、憂うつになっている…そんな彼女に対する回答がこちら。

いまお話のある相手は、運転免許証もない男らしくない男だ。たった二百万ほどしか貯金がない。おとなしくて個性に欠ける。自分も兄弟も大卒なのに、彼は高卒だ−。
このように、見合いの相手をトランプのカードのように見比べているあなたを想像しますと、むなしくなります。〜中略〜
結婚は条件が優先するのではなく、人と人とのめぐりあいが先なので、それを大切に育てあげる努力が人間の知恵のはずなのですが、あなたの結婚観は逆転しています。
お見合いが悪いといっているのではありません。お見合いを一つのめぐりあいのキッカケとして、交際してみて、その人の本質をつかむことが大切なのです。〜中略〜
彼はあなたの観察とは、全く違った人格かもしれません。でも、いまのあなたの態度を知ったら、彼の方からサッサと去ってゆくでしょう。彼があなたの夫として価値がないというよりは、あなたの方が失格者なのかもしれませんよ。

もし自分を肯定してほしくてこの便りを送ったとしたら…今回の返事は酷かもしれません。しかし、この回答内容に反対する人もまた、あまりいないのではないでしょうか。
「人と関わって本質をつかむ」ことの重要性は、男女の違いがあっても、異性間の交際でなくても、全てのことに通じると考えています。

最初はあまり良いイメージを持たなかった人でも、いろいろな関わりを持つにつれてその印象は変わっていくもの。
その人の「核」となる性格が見えてきて、結局長所や短所はその性格から枝分かれしているに過ぎないことに気づきます。

それでも性に合わないというのであれば、無理な関わりはしなくてよいと思いますが…
早合点による機会損失はなるべく避けて、幅広い価値観で人と関わっていきたいものですね。

3.人付き合いの本質とは

私が本書を一通り読んで大切だと感じたことは、

・内省すること
・人を理解しようとすること

です。
鴨居さんが厳しい返事を送る方と言うのは、決まって
自分を省みずに他人の不平不満を述べる人
でした。

相性が合わない、けれども仕事の関係等で関わらざるを得ない…というような人は、必ずどこかにいるものです。
不思議なのが、一度その印象を持ってしまうとなかなか抜け出しにくくなるということ。
その人の立ち居振る舞い、発言など、その一部をピックアップしては「やっぱりこの人は嫌な人」というイメージをどんどん強固にしてしまうのです。

しかし、そんな時の自分というのは得てして
自分自身を変えようとは考えていないし、
そんな自分の枠からはみ出ている他人をただ忌み嫌っているだけ

なんですよね。

人を良く思わないということは、それなりの理由があるものですが、
他人にばかり変化を求めておいて、自分はそのままでいようとするというのは
ちょっと違うのかな、とも思うのです。

面白いことに、他人に感じる不平不満というのは、自分も同じ特徴を持っていることが多いのだとか。人は自分の鏡というわけです。

つまり、何かにイラッとしたらまず内省。
今 目の前のことを不快に感じたけれど、そもそも自分は大丈夫なの?と
胸に手を当てて確かめてみる。
「人の振り見て我が振り直せ」とはよく言ったもので、常に自分を省みるくらいの余裕は必要なのです。

人の気持ちを理解することも大切なのはわかるけれど、自分を理解する心のゆとりを作ることも忘れずに。
完全体なんてありえないから、「自分とはなんぞや」をじっくり見つめて、
できる限り良い人付き合いに努めたいものです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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