赤野シン

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赤野シン

フォローありがとうございます。 純文学や和歌が好きです。 短編小説を書いてみました。 お暇な時にどうぞ。 感想コメント、ハートいただけると嬉しいです。 その他SNSアカウント Instagram: shinn_akano Twitter: Shinn_akano

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雨の朝

 ヘッドホンを外すと、外から雨の音が聞こえる。車が道路脇の水たまりを蹴散らすように走っているらしい。時々、浜辺で波の音を聞いているかのような、そんな迫りくる音が聞こえてくる。雨の朝、カーテンの向こう側には海がある、そんな気がしてくる。そうすると億劫な朝でも、世界を許せるような感覚が押し寄せてくる。  麦茶を飲む。寝起きには少し冷たすぎるくらい。だが、この冷たさがこれから日が昇って暑くなるであろう事態に対して先手となる。世界は往々にして私には厳しい。  少し夢見ごこちな朝。こん

    • 本作りました

      • 「古典を学ぶ意義」に対する私見

         何か物事を考える際に参考になるのは過去である。「歴史から学ぶ」とか「失敗は成功のもと」といった、これまた先人たちの知恵を拝借しているわけであるが、いずれにせよ現在よりも古い時代から思考を巡らせるというのは、今日では当たり前のプロセスになっている。  例えば、販売業でいえば、前年比が成果の軸となっていることは往々にしてあるだろう。店を立てるときに「よい立地」というのは、やはり競合店が多いわけで、これも過去の先駆者の成功が影響しているに違いない。  かくして人々は思考、あるいは

        • ますらお

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        • 詩、いろいろ
          3本

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          好意は大体報われないの

          好きだなんて自覚しなきゃよかった それでいれば何もなかったのに 愛を知ると同時に痛みを知覚した 少しばかりの嫉妬を抱いていた あなたを想うと 胸が痛くなる そんな夜ばかり いつになれば寝れるの 素敵な恋を 歩んで気づいて 独りで勝手に 涙を流してる 優しい笑顔に まんまと騙されて 貴方はほんとに ほんとに悪い人 責任取ってよねって でも重荷にはなりたくない そんな不可思議な 不可思議な乙女を 許してほしいの 所詮酔った女の 女の戯言 幸せな時には 構ってくれないの

          好意は大体報われないの

          言い訳というか、戯言

           スマートフォンでSNSを開いてみれば、真っ赤なサンタのコスをした姿がたくさんありました。そんな動画や画像が蔓延る中で、ふと目をやると、一際輝いて見えたあなたの姿がありました。  思わずスクロールする手を止めて、画像をじっと眺めてみれば、どうやら誰かと食事をしていたようでした。可愛らしいお部屋が映ってあるのはきっとあなたのお部屋でしょうが、相手はどこの誰であろうかと、その興奮に勝る不安が積もっていくのをひしひしと感じています。まるで胃酸が逆流しているかのように、胸が痛くて吐き

          言い訳というか、戯言

          おこがましいの

           豪雨がやってきて、私を責め立てるのです。 「あなたは烏滸がましい」と。  七月の雨は降りやまないどころか、激しさを増し、排水溝が悲鳴をあげている。私は、角が一つ折れた傘を片手に、横殴りの雨に打たれている。暑い日中とは打って変わって、肌が冷える夏である。  雨、浸った体でようやく家に帰った私は、よくわからない空いたワインを飲む、しぶさと湿気が交わって胡散臭くなる。散らかった部屋には、空いたチューハイの缶と溜まった吸い殻が紅一点、無論私はタバコを吸わない。  夢のような夜で

          おこがましいの

          雪降らずして、ただ星にのみ告げる

           名古屋行きの夜行バスを降車した朝方、あまり寝つきが良くなかったので近くにあったネカフェでシートを借りて、三時間1000円にも満たないような値段で快適な眠りとまではいきませんが、それなりの眠りを頂戴し、地下鉄に乗って自宅へ向かいました。  ワンルームの部屋ですが、一人下宿する学生の私にとっては十分すぎるくらいに広く何もない部屋で、それはつまらないものでありました。テレビが一台、パソコンに冷蔵庫、電子レンジがあって、炊飯器が並んである、そしてラックにむやみやたらに積み重ねられて

          雪降らずして、ただ星にのみ告げる

          水槽

           青い水槽に鰯の大群が頭を揃えて泳いでいた。彼らの泳ぎは寸分違わずに調律のとれたもので、遠目に覗けば大魚が悠々自適に泳いでいるようにすら見えた。 「こっちみて!サメがいる!」 鈴香は大きな声で水槽を指刺しながら私を呼んだ。どれどれ。私も彼女の声に従って水槽を覗くと、チョウザメがゆっくりと不適な笑みを浮かべているように見えた。 「チョウザメか。サメはサメでもチョウザメはチョウザメ科だから、種類は違うんだよ」 私は浅い知識の一つをひけらかしてみせた。彼女はそうなんだ、と一

          妻が子供を産んだ

          妻が子供を産んだ いつぶりだろうか、涙が出た 妻が子供を産んだ 私はタバコをやめた 妻が子供を産んだ 少し寝不足になった 妻が子供を産んだ 支持する政党が変わった 妻が子供を産んだ 残業しなくなった 妻が子供を産んだ 車で送迎する仕事が増えた 妻が子供を産んだ 最近はよく喋るようになった 妻が子供を産んだ 親父がまた仕送りしてきた 妻が子供を産んだ 友達を家に連れてきた 妻が子供を産んだ あまり勉強が得意ではないらしい 妻が子供を産んだ 反抗期がやってきた

          妻が子供を産んだ

          溺れているのか。【短編小説】

           気持ちのいい夜、それは夏の開た夜空でも乾いた風が鳥肌誘う枯れた松でもなく、鈴虫の鳴く秋の月に他ならないのでは。私はつくづくそう思う。  酔いと火照りの我が身体を差し置いて、心が先んじて秋風に攫われて、魂の抜けた身体が地にしがみついているのだ。私は弱虫である。無論、今宵の月は心酔するほどの美の象徴を語っている。  ある画家に絵を描いてもらった覚えがある。ラッセンやゴッホ程度の有名画家しか知らぬ私ではあるが、その絵は随分と古風な体裁で、筆遣いにまで気品が見て取れた。私は懐古主義

          溺れているのか。【短編小説】

          きっと嘘よ。[詩]

          最後に泣いてしまうのなら はなから笑顔を振りまくな 最後に別れを告げるなら はなから傍においてくれるな 最後に思い出語るなら はなからわたしを誘ってくれるな あなたの過去になるくらいなら あなたの今でなくなりたい 欲したものは 美しく流れる独りよがりではなくて 泥に塗れた二人の愛慕 大人な君が好きと言うから わたしは最後まで意地を張ったじゃない あなたの愛したわたしであろうと 罵倒の一つも出せやしない 我儘聞いてくれるなら はなから幼稚なフリし

          きっと嘘よ。[詩]

          「陶酔」の作品解説

          私の作品である「陶酔」の解説を、文活様のアカウントで投稿させていただきました。 作品について多くを語る機会もあまりないので、是非読んでみてください。

          「陶酔」の作品解説

          自分の本を作ってみたい。

          自分の本を作ってみたい。

          陶酔

           ありきたりな日々に飽き飽きし始めた金曜日の午後、私の仕事は完全週休二日制であるため、文字通りの花金を迎えて、溜まった鬱憤を晴らすべく、山手線上野駅で途中下車を試みた。  上京してはや八年、今年で三〇になる。小売店で働く傍ら、後から入社した奏音という気立ての良い女の子を恋人に据えて、かれこれ三年過ぎた。若いと信じて疑わなかった三年前、新宿に行ってつまらないアクション映画を見て、ふと頭が垂れた瞬間にそっと恋人つなぎをした。それ以来、奏音は私の名前の「弘樹」をあてにして、「ヒロ

          拝啓 こんな私を慕ってくれるあなたへ

          拝啓 こんな私を慕ってくれるあなたへ。今しがた時候の挨拶を考えてはいたのですが、そういった事柄には滅法弱くてだらしないようで。だから手紙にするというのは却下しようとも考えたのだけれども、ここまで書き進めたのもあってもう少しだけ、私はあなたに手紙を書いてみようと思うのです。  今年の夏は、中々外に出る機会に恵まれず、私は門外不出の身であって、それは何かを極めるとか、育児に励むとかでもなく、ただただ自堕落な日々の鬱憤、マンネリが夏の積雪のように溜まっていくだけで。退屈を凌ぐ方法に

          拝啓 こんな私を慕ってくれるあなたへ