見出し画像

海にたくさんの語りはいらない – 鎌倉旅行記1

海の街にしては潮風の匂いのしない街だった。

小町通りは観光客向けの食べ歩き用フードとたくさんの人とで賑わっていたが、私たちはまっすぐ海へ向かう。
なんせ海をみるために来たと言っても過言でない。
大通りをまっすぐ行くと、いきなり海が広がっていた。11月の鎌倉の海。
私はすぐさま着ていたコートと靴を脱いで波打ち際へ向かった。
素足で踏む砂浜が柔らかくて気持ちいい。
犬と子どもとサーファーしかいない浜辺で、ふくらはぎまで海に濡らす。

市場でひと玉100円のキャベツを見つけ、背中を丸めたおばあちゃんから買う。
おばあちゃんに、この辺にお肉屋さんはないですか?と訪ねると、丁寧に説明してくれた。肉屋へ向かう。

ひき肉が100g97円。「えーっと、1.2キロください」と伝え、ポケットからお金を出す。これが今夜の10人分の肉だ。一緒に買い出しに来ていたホソカワさんが「バンバンジーサラダも食べたい!」とすかさず言ったのでそれも一緒に買った。こういうのは言ったもん勝ちだ。彼はそういう甘え上手なところがある人だと思う。バンバンジー、これが本当にうまかった。肉屋の惣菜が美味しいというのは初めて知ったことだった。
そして、肉屋といえばコロッケ。実は、みんなの食費に着服してこっそり肉屋のコロッケを食べようと目論んでいたのだが、残念ながら売り切れていた。おとなしく残りの食材をスーパーで揃え、宿へのバスへ乗り込んだ。

宿となる古民家に着くと、ちょうどみんなが海へ行こうと靴を履いていたところだった。一息つく暇もなく、私も食材の袋をすぐさま置いてみんなについてゆく。10人もいるから、誰についていけば正解なのかわからない。でもわたしは面白そうなことには嗅覚が効くのだ。「あ!となりのワイン屋さん!5時に閉まるから急いでいかなきゃ!」と走り出した人がいたので私は子犬のように付いていった。小さなお店に入ると、普通くらいの背の男性がひとりいて、たくさんのワインに囲まれていた。「自然派ワイン」と「通っぽいおじさん」の威厳に圧倒されて、若者たちは一瞬怯む。「あの…餃子と一緒に飲むのを探してるんですけど…」と気まずそうに話しかけると、的確に教えてくれた。若者たちはこうやって少しずつ大人に近づいてゆく。少しの勇気を後押しする先達者たちに背中を押されながら。

夕暮れ時の鎌倉の海は息を飲むほど美しい。海と太陽を前に、私たちはしばし無言になった。ひとしきりカメラのシャッターを切ったあと、ポツポツと皆が感想を言い合うけれど、そういう時というのはなぜ決まってありふれた言葉しか出てこないんだろうか。「ほら、地平線が丸いのがみえるね、本当に地球って…」「波の音聞いてるとなぜだろう、心が…」

私は鎌倉の海が好きで、なぜかというととっても美しいからだ。海の素晴らしさについて、これ以上の複雑な語りが必要だと思わない。海は美しく、それはみようとするものにしか分からない。湘南の海はゴミだらけだとか、観光地だから汚いだとか、そういう風に思っている人にはずっと届かない。

以上の文章は「表参道現代ジャズフリーク鎌倉合宿」に参加した時のものです。旅行記2に続く。

めいちゃんのツイッターみてね!
https://twitter.com/farb_

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?