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詩|短篇小説

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ひさしぶりに詩を書きたくなりました。昔はよく詩で表現していたのに、しばらく散文ばかりで。これからはまた、自然にことばを紡いでいけたらと思います。散文詩的なごく短い読み切り小説も、… もっと読む
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#希望

短篇|Christmas Eve〈クリスマスの夜〉

 いつものように星がきれいな夜だった。しかし正確にはいつも以上に、いや特別に、とびきり美しい夜だったことを、少年は知ることになる。  ベツレヘムの郊外で、彼はその夜も野宿をしながら、仲間と交代で羊の番をしていた。やわらかな毛に覆われて、むくむく太った羊たちが獣に襲われないように。盗賊に盗まれないように。やんちゃな1匹が群れからはぐれないように。  汚れたマントにくるまって、大きな岩に背中をあずけ、少年は満天の星空をながめた。ちらちらと瞬く光が今にも天からこぼれてきそうで、

いま、ここ、その先

10月の朝の光は 羽があるみたいに軽い ひんやりと澄んだ空気に 透明な羽がいくつも いくつも跳ねている こんな朝 昔なら 「ここじゃないよ」 そのささやきに誘われて 遠い空の下を目指した 10月の朝の光には羽がある そして、いま、わたしはここに 昔のジブンにありがとう ここへ 連れてきてくれてありがとう そして、ここから その先へ どんなミライへ続いていくのか 道はそなえられているはずだから 勇気をふるって 祈りを抱いて 感謝を捧げて 進んでいこう もしも道を見失った

ことばと希望

ことばで傷つけられて 育ってきたわたしだから ことばで人を救っていこう 救うなんて 大それたことだけれど、ここでは そんなに大それた意味ではなくて 自分自身を信じてみようよ 救いとは いたわり、はげますこと 明日を信じて生きてみようよ 救いとは 希望の存在を示すこと だって希望は 信じることで 生まれてくるから まだ見ぬ明日を 信じるために ことばは人の助けになる わたしたちは ことばで心を整理して ことばで希望を抱くのだから ◇私自身の生い立ちから思ったこと、

雪のヒミツ

雪ってヒミツの匂いがするよね まっ白な目かくしで いろんなものをつつんでしまう きっと宝石みたいに きらきらしたヒミツを かくしているんだよ これまで生きづらいと 感じていた人たちが 生きやすくなる 時代がくるよ ときがきたら 雪は透明になって とっておきの ヒミツをときはなつの あなたに わたしに 泣いている人 くるしい人に やさしい愛がとどくんだ おひさまは笑い 風はうたう 光に心があたたまる そのときは必ずくるよ だから あきらめないで 息をしよう ◇◇◇

風はつながっている

今朝の風がそうだった 記憶のどこかに存在している 遠い時空につながっている そんなふうに感じる風 この匂い この音 この温度 いつだって風は新しいはずなのに かつて知っていた そんなふうに感じる 過去の1点と いまを結んでくれる 〝ここではないどこか〟に あこがれていたあのころ つらい環境から脱出したくて 未来へ希望を託したあのとき この風は吹いていた ――連れて行って ――おいでよ、自分で それがどこなのか いつなのかは 知らない けれど 大切なのはきっと 知ること

いつかの宝石

誰でも とりかえしのつかない傷を 後悔でいっぱいの過去を ひとつやふたつ ひきずって 忘れたはずの    恋と一緒に ◇35年ほど前、高校生のときに書いた詩です。真剣に恋して失恋したり、人間関係で失敗して落ち込んだり、いろいろなことがありました。自分の弱さに負けて、ひどく悔やみ、自己嫌悪に陥ったことも。つらいことや悲しいことがいっぱいあったはずですが、当時は耐えがたいと感じたこともすべて含めて、いまはきらきらした宝石のように思えるから不思議です。 主は打ち砕かれた心に近

きぼう

それは うなだれて立ち尽くすとき 足もとに咲く小さな花 泣き伏した夜に知る 静寂のきよらかさ カーテンのすき間から降る ひとすじの月の光 闇夜の星 水面のまたたき 雨音のリズム 風がはこんでくる 遠い森のにおい 春の陽のなかで舞うほこり 名まえを知らない葉の上のしずく 凪いだ海の音 眠っている人の息 あなたの手のぬくもり 梢を渡る疾風 小さな生きものたちの命 彼らの優しさ たくましさ 雪原につづく足あと それは インマヌエル どんなときにも そばにある 感じること

あなたが生きていてくれてよかった

わたしは 雲になりたい こどものころ そう考えていた だって 太陽はきまったところを走るけど 雲は自由に流れていける 大きな空を どこまでも だから 雲になりたかった 現実はうらがえし 自由なんてなかったから わたしは雲になりたかった かなうなら あのころの自分を 抱きしめてあげたい だいじょうぶだよ できるよ つらいことがいっぱいあっても あなたは 自由に なれるから 雲のように自由に 雲よりも 自由に あなたの翼で はばたける かなうなら あのころの自分に 伝えた

ひとかけらでいいから

パンドラの箱のように 一度開けたら もう何も もとにはもどらない けれどパンドラの箱に 希望が残っていたように 私にも 残っていないかしら ひとかけらでいいから ◇高校生の頃に書いた詩です。35年ほど前、このころはまだクリスチャンではありませんでした。アドベントのいま、この詩を選んだのは、希望の御子の降誕を祝うクリスマスに、イメージが通じるなあと思ったから。当時(聖書の時代)、格差社会でつらい暮らしをしていた人びとにとって、暗い夜空に輝いたベツレヘムの星は、それ自体がひとか

飛蝗 ~べきべきないない

青空に白く輝く点がある 北極星? まさか 地上は見渡すかぎり キンエノコロの草原だ 風に踊る金の穂に 見え隠れする一本の道 白く輝く点のもとへ 続いている 歩いていく そこへ向かって きのう、父が死んだ 妹と話さねばならない わたしの右手の内にいる いつから妹は こんなに小さくなったのだろう ふんわりと手を握り 落とさないよう つぶさないよう 注意深く包んでいるのに 高い声でまくしたてる べきべきべきべきないないない るべきるべきるしかないない どうしてそんなに怒りた

生きていて

子どものころの 日記帳に ところどころ 詩が書いてある あのころのわたしが 書いていた詩 《私には、太陽は見えない どんなに晴れた日でも 太陽は見えない 私の目に映るのは とてもきれいなくもり空 私は雲が好き 空を流れる雲が好き 私にも、あの雲のような 自由がほしい 太陽は、決まったところを走るけど 雲は、自分の思ったとおりの道を 自由に走る 私にも、あの雲のような自由がほしい》 空を見ていた 四角い窓から それが、世界だった いつも 四角い窓枠に切り取られた 彼女に、許