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フォークダンスのあの背中、見送った。

 体育祭、高校三年生、最後の年にフォークダンス。ラブロマンスもあるかもしれない。
 入場ステップのあと、一度だけ踊るパートナーがいる。その後は一期一会のステップだ。
「お前、最近休みばっかだから振り付け覚えてないだろ。分からないことあったら聞けよ。」
と、私のパートナーは言うのだ。何とそのパートナー、私の高校一年のころからの片思い相手である。

 高校一年のころ、たまたま席が近くになったこともあり親しくなった人だった。手紙交換をして、他愛のない話をして、時々メールをして。めんどくさいかなその人を追いかけて寒空の中二時間も待っていたことがあった(もちろん相手は来ない)。よくあるベタな話しで、その人は幼馴染のことが好きだった。その幼馴染と私は友達で、なんとも気まずい関係になってしまった。でもその人とは一緒にたこ焼きをほおばるなど青春もなかったわけではない。
 高校二年生に上がるころには完全に連絡手段を失っていた。多分避けられている。私にできる事はただ相手の動向を眺めるだけ。皮肉なことに私とその人のコースは違えどクラスは一緒。例の幼馴染とは別のクラスになった。
 
 もう接点も何もなくなったと思っていた高校三年生の秋、体育祭、演目フォークダンスにて

「お前、最近休みばっかだから振り付け覚えてないだろ。分からないことあったら聞けよ。」

冒頭のあのセリフ

のセリフが降ってくるのである。その人の身長は175cm。

<ありがと>

不愛想な返事しかできなかった。いろいろあった挙句、今更好きですなんて言えるわけがない
 
 人生のどん底にいた高校三年生秋、それが誰にも言わなかった私だけのロマンスだった。

 最後のフォークダンスは、つつがなく進行した。いつも通りの順番で、巡り巡って相手は何を思う人ぞ。

 時は流れて卒業の日、何の連絡手段も持たない私は、最後の最後に誰にも見つからないように、

<三年間、ありがとう>

新町 圭

とだけ書いた手紙をその人の机に置いた。これが落ちてしまえば、ゴミだと思われたらもう本当に終わり。
 
 その人と何度も仲直りする夢を見ては、
<こんな楽しく話せるなんて夢みたい、だからきっと夢だね。>といって目を覚ました二年半。

 私は弱虫だから、本人に直接伝えることができなかった。友達にも言えなかった壊れた恋。

「新町、」

と呼び止められた。
その人との身長差がさほどなかったから、私が教壇にいたと思う。

まさか呼ばれるなんて思っていなかった、その声に。

<はい>

「こっちも、三年間ありがとな。」

<うん>

その人の友達は、
「お前、新町と交流なんてあったっけ」
みたいなことを言っていた気がする。

 『三年間』
 私たちしか知らない秘密のメッセージ。
 
 桜も咲かず、まだ冷たい風の残る教室。最後に見た背中はフォークダンスで見送ったあの背中だった。

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 たまには美談を書いてもいいだろうと思って思いついたのが、このエピソード。恋愛の対象は男女どちらでもOKな私。
 実話なので、この人に心当たりのある人はぜひコメントください(笑)。
 

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