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ロック・イン・ジャパン・フェスティバル2021中止に感じること(無責任の体系と専門家集団の暴走)ー茨城県医師会/ROCK IN JAPAN FESTIVAL/尾身提言/丸山眞男

ちょっとこれは…と思ったのでノートを書いています。
いつもの楽しい感じのアイドル分析でなければビジネスに関するTipsでもないので、政治的な匂いが苦手な方はこちらの記事はスキップください。

最初に、私はコロナ対応にあたっておられる医療従事者の方々に深い感謝と尊敬の念を抱いていますし、コロナ対応に最前線で戦っておられる皆様は全力を尽くされていると信じています。

その前提を置いたうえで、今回の茨城県医師会の要望は間違っているし、その原因は「茨城県医師会が無能にも関わらず要望を出したいと思ってしまう誤った使命感が生まれたこと」にあると考えています。

要約するとこんな感じです。

《本件に関する認識》
①従前、イベントの開催自粛・延期の要請は自治体が行っており、専門家は単にアドバイザーに過ぎなかった
②そこに、オリンピックを巡る政府分科会の「独自提言」(尾身提言)が行われ、表面的に見ると専門家が施策の提言まで独自に行ったように映った
③尾身提言は政府側との調整を経て発表された提言だったが、世間では専門家が蔓延防止対策の提言まですべきとの認識が広まってしまった
④この誤った認識に基づき、施策立案能力やステークホルダー間の調整能力のない茨城県医師会が、最悪な形で暴走を起こした

この「無能力の専門家が誤った認識を元に暴走してしまう」ことは古くより日本で起きてきたことです。最後の方で、この構造を学者の丸山眞男氏が唱えた「無責任の体系」を元に一般化して考えていきたいと思います。

7/9追加:京都大作戦が前日に中止に追い込まれましたね。本当に茨城県医師会の罪は重いと思います。

https://kyoto-daisakusen.kyoto/21/news/detail/170/

▶何があったのか

FireShot Capture 2793 - 「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2021」に関する要請について - 医療機関の皆様へ,県民の皆様へ - 茨城県医師会_ - www.ibaraki.med.or.jp

「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 」は日本最大級の野外ライブ。コロナ禍前は5日間で30万人規模を動員するビックイベントだ。

本年は政府ガイドラインに従い、規模を縮小して「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2021」を茨城県ひたちなか市で行う予定だったが、茨城県医師会などからの要請を受け、開催1か月前に​開催中止を決定した。

運営側は、会場である国営ひたち海浜公園、地元自治体の茨城県やひたちなか市と協議を重ねて開催の承認を得て、既にチケットも発売し完売した日も出ているなかでの出来事だった。

そんななか、7月2日(金)に突如として茨城県医師会の代表の方がフェス主催者である茨城放送の本社に訪れ、フェスに対する要望書を茨城放送の代表に手渡したそうだ。

この要望書の内容は上のリンク先にありますが、要望内容は

1.今後の感染拡大状況に応じて、開催の中止又は延期を検討すること。
2.仮に開催する場合であっても、更なる入場制限措置等を講ずるとともに、観客の会場外での行動を含む感染防止対策に万全を期すこと。

の2点で具体性に欠けるものだった。
この要望に対し、運営側で協議した結果

①具体的な基準がないなかで「感染拡大状況に応じて中止」という抽象的なリスクを、多くの会社と金額が動いていることに照らして負えないこと
②チケット発売が始まっており、再抽選する時間的余裕もないことでこれ以上の入場制限が不可能であること
③会場外での行動を「万全に」制御することが不可能であること

が理由となり、開催中止を決定して参加アーティストたちから声が多く上がっている状況だ。
主催者からの詳細な説明は下記をご覧ください。

▶なぜ自治体では無く医師会から要望が出たのか?

FireShot Capture 2795 - 新型コロナ_ 国と県が自粛要請のK-1開催 埼玉県知事「残念」_ 日本経済新聞 - www.nikkei.com

こちらの画像は、感染拡大が叫ばれ始めた2020年3月に埼玉県で開催されたスポーツイベントに関する記事だ。
このイベントに限らず、堀江貴文氏が関与するベンチャーのロケット打ち上げ延期要請など多岐に及びイベント類の開催自粛が要請されたが、多くのケースで自粛要請をするのは自治体と政府だった。

そのため、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2021」への要望書を提出したのが茨城県医師会であることに違和感を覚える方も多いだろう。なぜか?

オリンピックの開催是非を巡る動きの中で、政府・都・組織委員会と専門家分科会が真っ向から対立したことは記憶に新しいだろう。
そのなかで、専門家分科会は政府意向に反する形で「独自提言」(通称:尾身提言)を発表した

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この動きは「尾身の乱」や「専門家分科会のクーデーター」として好意的に報じられ、オリンピック開催に懐疑的だった市民からは歓迎の声が上がった。

このことで私は「専門家であってもアドバイザーに留まらず施策提案まですべき」という世論が高まったのではないかと考えている。

この流れの中で、「自治体が何もしないのであれば我々が動くしかない」という誤った義憤に駆られて茨城県医師会が暴走したのではないか。

この仮説に基づいて考えを深めていきたいが、そもそも尾身提言は本当に「反乱」だったのだろうか?

▶尾身提言は丁寧な調整の上で発表された

FireShot Capture 2796 - 尾身氏提言にちらつく政治の影 五輪開催前提「現実路線」の事情 - 毎日新聞 - mainichi.jp

「独自提言を出す」と言い出した直後は「反乱」だったのかもしれない。
しかし、実際の提言を見てみると当初言われていたような五輪開催自体の是非を問う内容や、政府が受け入れられないような具体的な感染防止策の記載は見送られている。

この点に関して、尾身会長は

当初の文書では、「五輪開催の有無も含めて検討してほしい」との文章があった。しかし菅義偉首相がG7サミットという国際的な場で開催を表明し、開催の是非を検討することは実際的にほとんど意味がなくなった (毎日新聞)

と自身の言葉で語っている。

その他にも、作成に当たっては西村担当大臣とすり合わせがあったことが知られており、事実、観客の上限数について具体的な表記をしなかった。

つまり、「クーデーター」や「暴走」と語られていた尾身提言は、政府側と丁寧なコミュニケーションを積み重ねて、政府がおかれている立場を加味したうえでのメッセージだった。

これは「骨抜き」などとは言わず、実効性のある丁寧に作り上げられた提言であると思う。

▶一方で圧倒的に無能だった茨城県医師会

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尾身提言は、反乱に見えるようで実は丁寧な調整をしたうえで発表されたものは先ほど説明した。では、今回の茨城県医師会の提言はどうだっただろうか。

茨城県医師会の会長に記者がインタビューした記事が下記だ。

一部を抜粋するが、主催者側の事情や取り組む内容は一切考慮している様子はなく、要望書の提出前のコミュニケーションは取っていないようだ。

――今年開催された『JAPAN JAM』ではクラスター感染が起きていない。さらに現在、県内では他に様々なイベントが催されているが、なぜこのタイミングで「ロッキング・オン」だけに要請を?

「実は、茨城県医師会がフェスが開催されることを知ったのが、6月18日ごろだったのです。ひたちなか市医師会の役員の先生から『フェスが開催されることになって、医療提供体制とかそういった点から不安が大きいんだよ』という話がありました。県内だけでなく県外からも人が来るので、その話を機に『これは一医師会の話だけではなく、県内の医師会全体に関わる問題だろう』となり、何回か会議も行い要請書を取りまとめました。あえてこのタイミングで要請した、というわけではないんです
――要請書にあった「観客の会場外での行動を含む感染防止対策」とは具体的にどのようなことを指しているのか?

「例えば、主催者が観客の行動にいちいちついて回って注意するとなんてできないことは承知しています。ですので事前に、開演時や終演時に声かけをしっかりしていただくなどの感染防止対策をお願いしました。あるいは観客の方にお願いすることになるかもしれませんが、そこは主催者としてもしっかりお願いしていただきたいということです」

指摘しておきたいのが、6月18日から医師会間で3週間もの時間をかけて調整を重ねた要望がこちらの2項目ということだ。

FireShot Capture 2793 - 「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2021」に関する要請について - 医療機関の皆様へ,県民の皆様へ - 茨城県医師会_ - www.ibaraki.med.or.jp

3週間、自治体にも主催者にもコミュニケーションを一切取らず、突如として主催者の会社へ乗り込み紙を一枚提出するために仕上げた要望がだ。
しかも、当然主催者が想定しているような対応策について、わざわざ書面に記載し提出することで提出先を委縮させることも想像していない。
これが自治体からの要請書ならまだわかるが、卑しくも専門家の仮面をかぶった医師会からの要望がこの低レベルだ。

『圧倒的に無能』と言わざるを得ない。

尾身提言に感化され、自分たちも動かなければという医者としての使命を果たしたつもりだったのだろう。
ただ、その使命を完遂するには茨城県医師会は、あまりにも無能すぎた。

100歩譲って、この時期の提案がどれほどのインパクトをもたらすか想像ができない無能さは許そう。

せめて、自治体と調整することはできなかったのか?
せめて、もっとまともな要望を作ることはできなかったのか?

「英断に感謝」などふざけたことを言っていないで、今すぐ自身の無能さを詫びるべきだろう。

▶こんな悲劇を繰り返さないために(専門家は専門家であって意思決定者ではない)

有名な政治学者である丸山真男氏の「無責任の体系」という概念を紹介したい。

何故無謀な第2次大戦に進んでいったのか?という命題の中で丸山氏は「無責任の体系」が原因であるとしている。簡単に説明する。

《無責任の体系登場人物》
神である天皇=神輿
大臣・役人や官僚化した軍人=役人
軍部の過激派など=無法者

《ざっくりとした内容》
当時は天皇は神であったので、全責任は天皇が負っていた。
当然、国の全責任を負うなんてことはできないので「神輿」として政府の役人たちに権限を委譲する。
この結果、最終責任者は天皇だが、実際の事柄を決定していくのは役人という権限と責任が分離していくこととなった。

非常に有能な役人が介在することで、この状態が成り立ってきたが該当する人物がいないと、最終責任者である天皇の名を借りて役人が各領域で好き勝手を始める。
それが深刻化すると、天皇の名を借りて軍部の過激派が好き勝手やりだすようになるが、政府もバラバラでワンボイスで止めることもできない。

その流れを止めることができず、日本は戦争へと突き進んでいった。

この内容、今回の医療専門家と政府の間で同じような構造が出来上がっていると感じている。

政府のコロナ対策に嫌気がさし、「コロナに勝つ」という神輿を担いで専門家が好き勝手やり始める(ように見せてしまった)。
それを見て、茨城県医師会のような無能な追随者が神輿を担いで更に勝手なことをしだす。この流れが始まりだしてしまっている。

こんな状況では、今回の茨城県医師会の行動をとがめることは誰にもできないだろう。役人に任せでは、他に起きる暴走も止められない。第二第三のロッキンが生まれることは想像に難くない。

こんな悲劇を繰り返さないためには
①神輿に担がれっぱなしにならない意思決定できるリーダーを置く
②スーパー役人が専門家を含めた全体調整を行う
の2つしかない。

コロナ対応が2年に及ぶ中、めぼしい人材が出ていないので②が絶望的だとすると、①に賭けるしかない。

ということで、みなさん次の衆議院議員総選挙は投票しましょうね。


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