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演算的に世界を構築する─アンドリュー・ウィット氏ファカルティ・レクチャー

しなやかな建築の境界や新しいアプローチを検討するために、学際的な協力を通して将来の物理環境とデジタル環境の融合を調査するための国際的なシンクタンクとして設立されたxLAB。

xLABではxLAB サマー・プログラムを開催し、実験的な交流やアイデアの実証、知識の共有を通じて、将来の環境構築のための戦略を開発する、建築教育のための分野横断的な触媒として機能させることを目指しています。

2018年のテーマ「モビリティ」に合わせて開催された、xLABサマー・プログラムのスタジオ講師によるファカルティ・レクチャーの模様をお伝えします。
アンドリュー・ウィット
ハーバード大学デザイン大学院建築学科准教授/幾何学から知覚、建設、自動化や文化などの関係性について教鞭を執り、研究を行う/デザインや技術に置けるインキュベートを行う会社、Certain Measuresを共同設立/2015年チェルニホーフ賞にノミネート/最近では、彼の初の研究論文である「The Rhythmograms of German proto-computational photographic hacker Heinrich Heidersberger」を発表/前職では、Gehry Technologiesでリサーチディレクターを務める/T’s Parisのフランス支社ではディレクターを務める/GTeam (現在の Trimble Connect。Trimbleによって2014年に取得された)といった新たなソフトウェアデザインツールの開発を行う/ハーバード大学デザイン大学院からM.ArchとM.Desを受賞
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アンドリュー・ウィット氏は、「人間とマシンの知覚のギャップ」「マシン・ビジョン(マシン特有の認識の方法)をデザインのプロセスに深く関わらせること」をテーマに講演を行った。

アンドリュー氏の事務所では、顔認識技術を応用した空間認識ツールで、既存の建物の「最低限の認識」(シルエットなど)から、新しい建物をつくる実験を行う。ここでは人間の心理学とコンピュータ・サイエンス双方の視点を要するという。



廃材のデータドリブン

建築の経済性を加味して、「廃材が最も安い」ことに着目したデータドリブン・プロジェクト「Mine the Scrap」は、不揃いな廃材をスキャンして、読み取った形状の類似性で分類、マッピングを行う。

生成された系統図とサーチエンジン(Google画像検索の廃材版)を経て、まったく新しいストラクチャが形成されるというもの。

一般的な「つくりたい形があり、そのための素材を用意する」というものづくりのプロセスとは真逆のあり方が示された。


これに続くポンピドゥー・センターでのプロジェクトでは、実際に建物を解体し、パーツをスキャンしていった。これを「Landfil(埋め立て)」ならぬ「Cloudfil」と名付け、廃材を埋立地ではなくクラウド上に蓄積、引き出して再利用する仕組みを構築した。



マシン・ビジョンと人間の協働─「金継ぎ++」

次に、日本の伝統的な修復技法に発想を得た、陶器の破片からまったく新しい形をつくるプロジェクト「金継ぎ++」が紹介された。
陶器の破片をスキャンし、作成された系統図からストラクチャが構成される。当然、破片同士は綺麗に噛み合わないが、そこで、より理想的なものをつくるためのネゴシエーションが(コンピュータと人間の間で)実施される。

3Dプリントされたメタルと破片のはめ込みも人が行う。これはマシン・ビジョンで強化された、人の手によるものづくりの実験と言える。



「ビルの固有生体データ」

アンドリュー氏は、これを都市スケールにも応用した。
都市の膨大なビルの平面図をスキャンして、建築の「かた」の系統図(これは19世紀的なアイデアでもある)を作成。

ベルリンの10億ものビルの系統図は地層のように見える。データの欠落(ビルがない箇所)は、そこにあるべき形態が「(未だ)建築として実現していない」ことを示す。

ここから、建築において今までになされたことと今後なされること、ビルそれぞれを区別できる「ビルの固有生体データ」が見えるという。



マシン・ビジョンが表出させる世界

最後に紹介されたプロジェクト「Horizons」は、ある通りの全ての建物のファサードをニューラルネットに学習させ、マシン・ビジョンによる新しいファサードをつくり出す。
完全にコンピュータにデザインさせる、まったく新しい試みである。



演算的に世界を構築する

アンドリュー氏は、今日の建築の議論はポストモダン的であり、コラージュや反演算的手法への立ち返りが見られるが、世界に際限なく存在する廃材を、いかに演算的に活用して建築のベースとできるかに興味があるという。
そこで、単に思考するのではなく、デジタル・テクノロジーで可能性の限界を拡張すること、マシン・ビジョンで21世紀に相応しいクリエイティブなデザインプロセスをつくりたいと述べた。
(文責:ゆ/新建築社)



xLAB サマー・プログラムの概要は下記から!



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