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#野生の月評

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「月評」スピンオフ企画。新建築社刊行の雑誌『新建築』『住宅特集』などの掲載作品・論文にまつわる感想などの記事をまとめていきます。「#野生の月評」とつけてご投稿いただけると嬉しいで… もっと読む
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2018年10月の記事一覧

好きな空間、好きな人

大好きな美術館がある、青森県立美術館。 作品のために作られた空間・一体感・穏やかさ。なんともいえない柔らかな空気が流れているように感じられる。一般的な美術館って、話しちゃいけない緊迫した空気感が漂う中で、つい作品についての感想が口からこぼれてしまいそうになる、温かさを感じるの。 なんで好きなんだろうなー、あぁ…あの空間自体が好きなのかも、建築家誰だろうと調べると青木淳さんという方。この人に会ってみたい!そう思い立ち先日DIC川村美術館へ。 企画展「言語と芸術ー平出隆と美

タテモノを [見る] テーマ : ガラス編(その②)

「ガラス・パビリオン」、正式には「トレド美術館ガラス・パビリオン」である。所在地はトレド・・といってもスペインではなくアメリカのオハイオ州。五大湖のひとつエリー湖のほとりにある街だ。シカゴからは車で4時間、一番近い主要都市のデトロイトからも1時間半くらいは掛かるので、観光ついでに立ち寄るには気合いが必要かもしれない。 トレドは元々ガラス産業が盛んで、デトロイトの自動車工場向けにガラス部品を納めたり、建材・瓶や工芸品などを製造していたらしい。それに関連してか、トレド美術館にも

徹底は気づかない

前回に続き、青森県立美術館の話。 日本のいろんな美術館や建築、場所に訪れた時に、人それぞれ違う感情が生まれると思いますが、僕は青森県立美術館に訪れた時は、「徹底された空間」というのを体と心ですごく感じました。 感じる、という言葉は個人的な偏った感覚で、理屈ではないようなのですが、今日は言葉にできる、その「徹底」を綴っていこうかと思います。 青森県立美術館の、その徹底ぶりは随所に僕は感じたのですが、その1つは館内のサイン計画でした。 あまり美術館では見ないような「傘立て

2018年10月29日

那須に行くというので、人を説き伏せて旅程を建築見学に変えた。この時、誘い台詞には細心の注意を払う。他業種が一緒に見てくれる建築には限度があることを前もって知っておきたい。気をつけておかないと旅が白けてしまうので注意を要するのだ。寺や美術館、商店はいいだろう。オフィスは駄目だ。大学施設も論外。図書館はよくても、公民館あたりはぎりぎりの線で、住んでる土地の公民館でさえ行かないだろう普通。土日閉まってるし。ならばと外観だけ見て帰ろうと言いだす。まあモテない。 その点、石上純也の「

江之浦へ

 杉本さんがあのへんの蜜柑山を買ったらしいよ、と聞いたのはもう12年ほど前のことで、その時わたしは知り合いの、まさに相模湾を見下ろす蜜柑山のアトリエにいた。  杉本さんは杉本博司さんのことで、日本で一番といってもいいほど影響力のある現代美術家。もともとは写真家だったのだろうし、今も彼の写真作品はとてもとても素敵だけれど、今はその枠組みには当てはまらない。美術家、と呼ぶのでさえ、十分でない気がする。建築や舞台、彫刻まで手掛け、アーティストであると同時にキュレーターでもある。デ

建築の"読み方"を学んだ本

いささか唐突ですが、建築を仕事にしている人や、建築の学生と旅行にいったり、美術館みたいなタテモノを見に行ったことはあるでしょうか。もし経験があれば、あなたはこう思ったかもしれません。「お前は一体ドコ見てるんだ」と。折角楽しみな展覧会なのにずっと外観の写真を撮ってる、名作絵画をよそに床や天井を見て「ふむふむ」とか言ってる、いつまでも階段やトイレから移動してくれない、など、迷惑な体験をされたかもしれません。 実際のところ、「建築のヒト」もその辺は自覚しています。「あ、なんか見る

見えない言葉

写真は青森県立美術館の手すり。 学生時代からずっと訪れたかった美術館は、美術館としてもよかったのですが、それ以上に、この美術館をいかに集中して作品を鑑賞する空間にするか、という、建築家とデザイナーの徹底した空間づくりに非常に感動していました。 今日はそんな素晴らしい空間の中にあった「見えない言葉」についてグッときたので、思ったことを語ろうかと思います。 美術館の設計は青木淳さん、タイポグラフィ、サイン計画は菊池敦己さん、と有名なお二人がこの美術館を設計されました。美術館

181022_門脇邸という虚の存在

 大学院時代の恩師である門脇先生の自邸を見学させて頂きました。訪れた際の率直な感想をまとめるならば、門脇邸とは絶えず変化を持つ有機体のような存在で、それが生み出す現象的な光景は訪れる人を童心に返らせ、好奇心をくすぐり、感動すら与えるものでした。  外壁は色や各部高さによって近隣と調和が保たれつつも各面の個別性が強く、全体としての共通項が見出し難いものでした。西面では部材の切れ目の見えない抽象的な表情を持っていたのに対して、北面、東面と外周を回るうちに徐々に具体性を増し、部材

十日町に行ったら雪の中に埋もれるおしゃれな木造建築「いこて」でランチ!

ちなみにお店の名前である「いこて」ですが、 いーこて:「よかったねー」「いいじゃないかー」 という意味の十日町の言葉 いこーて:「一緒に行こうよー」 という意味の十日町の言葉 という由来があるそうですよー笑

TAYORIへ。HAGISOへ。

さいきん仕事がバタバタしていて、更新頻度が下がっておりますが、昨日はオットが焼き鳥を買ってきてくれたりと、日々パワーチャージしながらまい進しております!! この前は、友だちの写真家西山功一さんの個展へ行ってきました。 西山さんの展示は1年ぶり、前回も同じギャラリーHAGISOで行われ、そのときも見に行ったので、HAGISOにも1年ぶりの訪問です。 HAGISOはもともと藝大の建築の学生さんの寮だった歴史ある建物(当時は萩荘)で、今はすっごーくおしゃれーに大人気のカフェギャラ

門脇邸を見て-エレメントの群像劇

竣工した後に見た「門脇邸」は、驚くほど周囲に馴染みながら建っていた。 空間をめぐると、柱と梁がクロスする吹き抜けや、天井と壁の隙間から自然光が入るリビングなど、非常にドラマチックな体験が散りばめられており、100㎡程とは思えないほど、濃密な空間体験であった。部分による全体性は可能かという仮説により生み出された空間は、まさに一つ一つの、部分としてのエレメントが複雑に混ざり合いながらそのままに放り出されている。部分部分で思考が分断されながらもそれぞれのシーンの記憶はあるところで繋