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#野生の月評

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「月評」スピンオフ企画。新建築社刊行の雑誌『新建築』『住宅特集』などの掲載作品・論文にまつわる感想などの記事をまとめていきます。「#野生の月評」とつけてご投稿いただけると嬉しいで… もっと読む
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記事一覧

勝手に月評 新建築2019年5月号

5月号ではすべてで16題からなっており,前半4題を終えると「地域の建築は設計できるか」という特集記事より,12題の地域の拠点が掲載されています. 塚本由晴氏の特集記事「地域の建築は設計できるか」は,今月号の作品の読み方に大きな指針を与えるものだと感じたので,簡単な要約をします. 本記事で述べられているのは,そもそも今現在でも「地域の建築」という枠組み自体に焦点が定まっていないこと,そのため何かとの対比によって補完的に「地域の建築」を浮かび上がらせる手法が取られていたことが

建築巡礼の旅、話題の荘銀タクト鶴岡

鶴岡駅の南側。 水田テラスとは反対側の鶴岡の中心街にある、妹島和世建築設計事務所の建築作品。 事業費や施工の問題でさまざまなニュースを提供してしまったプロジェクト。 ※気になる方はご自分でぐぐってください。 触ってみると外装の素材は柔らかく、専門家ではないですが、施工は難しい感じがしました。たしかにボコってます。 一方、室内空間は隣の藩校 旧到道館の借景が映えるロビーや、贅沢な自習スペースなどSANAAが手掛けた金沢21世紀美術館にも通じる美しいデザイン。 ホールは

勝手に月評 新建築2019年4月号

・趣旨 まず先にこの勝手に月評の趣旨を書きます. まず第1にあったのは,「建築雑誌をもっと読み込もう」という意思です.今まで研究室などに新建築などの雑誌は置いてありましたが,なんとなく流し読みをしていたような気がします.作品だけ何となくチェックして,表面上から読み取れる潮流だけを掬い取って自分のボキャブラリーにしようとする考えが,中々危ないんじゃないかと思い始めたのもきっかけの1つです. 次に今私にはすごく時間があります.ゼネコン設計部勤務1年目であり、さらに現在は現場

有り触れたもの と 有り触れないこと                                                      -(仮称)古澤邸の場合-

『(仮称)古澤邸』(設計:リライト_D +日本大学理工学部古澤研究室,2019年竣工)について、そこでの体験と建築家・古澤大輔氏により執筆され、2018年度に発表された博士論文「再生建築における <転用> の建築論的分析及び実践的検証」を通して、実際の建築と手立ての建築(創作論)について幾ばくかの読み解きを試みたい。 幽体離脱した建築 唐突な比喩であるが『(仮称)古澤邸』を訪れてみて最初に思い浮かんだ言葉は、[幽体離脱]であった。 幽体離脱-生きている人間の肉体から、霊魂

Expo'70

 2019年3月9日発売の「JA(THE JAPAN ARCHITECT)」113号は日本万国博覧会、通称大阪万博が開催された1970年5月号の「新建築」と同年5-6月号英文版「JA」を再録している。  冒頭の丹下健三氏と川添登氏の対談が興味深い。  丹下は言わずと知れた日本建築界の巨人である。広島ピースセンター、代々木体育館、東京カテドラル聖マリア大聖堂など、日本近代建築の名作を連投し続けた。  川添は「新建築」編集長を務めたこちらも日本近代建築史を代表する建築評論家

ナリワイながら暮らすとは

つばめ舎建築設計+スタジオ伝伝によって手掛けた練馬の職住一体型アパートリノベーションプロジェクト「欅の音terrace」。晴れて『新建築2019年2月号』に掲載していただきましたが、そこに載っている解説文とは違う文脈の、このプロジェクトの背景となる思想について個人的にまとめました。 ***** 住居と労働を切り分けるという都市計画の機能的分離が推進されたのは、1933 年に実施されたCIAM 第4 回会議における成果である「アテネ憲章」に依るところが大きいだろう。 ここで都

MUSTARD@SHIBUYA BRIDGE

THINK GREEN PRODUCEが展開するマスタードホテル。現在は渋谷ブリッジに1件、浅草に建築中も含めて2件の、合計3件。だけれど、どれもびっくりするぐらい違うのです。 「アパホテル」って別に選ばないけれど、だいたい勝手が分かっていて、期待値の調整ができ、そして実際に行ってみると期待値を大幅に裏切る事はない。それが強み。みたいな事を、「ジャケ買いするホテル」の天才、龍崎さんが仰っていた。 でも、いくらチェーン展開しているといっても全くその期待調整が通用しない。それ

北海道旅行を楽しむ

プロフィールに書いたんですが、私は建築に興味があり旅行先でその土地の建築を観に行くのが楽しみです。 今回は北海道の札幌市内に滞在したので、 イサム•ノグチがデザインした ”モエレ沼公園” へ行ってきました。 ここはモエレ沼公園内のガラスのピラミッドの横にある中央駐車場。 平日で人けがない為もありますが、静けさと建物の形状、駐車場中央の円形の吹き抜けから雪がチラチラと降ってくる様子から異国というより、他の惑星に来たような感覚に陥りました。 私的にはこの駐車場がとても

梼原・木橋ミュージアム

text by 島田 枯葉のしまだです。 今回は、隈研吾設計の梼原・木橋ミュージアムを見学した時の感想です。 刎木(はねき)は交互に少しずつ迫り出しながら47mの建築を支える刎木構造が用いられたデザインとなっています。 真下に立つと180×300の交互に迫り出した大きな組木の本数とスケールの迫力を感じる場所でした。 横のEVを登ると47mの一直線に伸びた橋の空間となっています。 天井の梁が均等に連なり抜け感のある美しい空間です。 ギャラリー部分の天井も少しずつ迫

ローカルな空気感と温かみのある設えを体験する|LOG / Onomichi

先日、気が合いそうな友人たちと、昨年末に開業したばかりの尾道の宿・LOGへ行ってきました。 気が合い“そう”と書いた理由は、SNSで交流があっただけの初対面の人もいたから笑笑 お付き合いいただいた面々がみんな素敵で最高でした。文末にご紹介します LOG / Onomichi インドの建築事務所 Studio Mumbai がデザインを手がけたという内装がとても興味深い作りで、日本の建物ではなかなか見られない色使いや、内装に使われていた土や紙の使われ方がとても面白く、建築

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#01 エストニア④ “負の歴史”に立ち向かうクリエイション

いま注目すべき取り組みを行っている街を訪れ、街づくりの未来を探るプロジェクト。 最初の訪問先は、“世界最先端の電子国家”として発展を遂げたエストニア共和国。 旧ソ連時代の巨大な廃墟、日本人の設計による悲願の国立博物館……リサーチメンバーの視点から、この国を突き動かす原動力の正体に迫ります。 ▶︎ 前編 ③ “仮想移民”とデザインが導く新たな展望 ▶︎「Field Research」記事一覧へ 「テクノロジー×街づくり」の歴史・文化的背景“世界最先端の電子国家”の現状を通し

竹林寺納骨堂を訪れて

text by シマダ 今回は、去年高知に見に行った竹林寺のはなしをします。 仕事終わりに夜行バスに飛び乗り、竹林寺に向かいました。 本堂のすぐ脇に小道があり、森の中に入っていくとひっそりと佇む納骨堂が見てきます。 入り口に段差をつけることで、建築を低く抑え森の中で主張しすぎないボリュームになっていました。 僕がこの建築で一番驚いたのが、玄関ポーチ空間です。12本ある柱が全て柾目がファサードに向くように建てられ、通路側には、板目が向くように構成されていました。もちろ

軍隊経験と建築家|菊竹清訓と清家清、それぞれの戦後民主社会な「格納庫」

新建築主催「12坪木造国民住宅」コンペで佳作に選ばれた菊竹清訓案(新建築1948.4)と、清家清の建築家デビュー作となる「うさぎ幼稚園」(竣工1949、新建築1950.4)(図1)。特徴的なシェル形の建築は、ともにそれぞれの戦時中の軍隊経験に由来しています。 図1 ふたつのシェル型屋根建築 敗戦を境にして、民主的変革を遂げたといわれる日本社会。でも、そんな社会の建設を担った若き建築家たちは、やはりそれぞれに戦争を体験し、自らもその技術・技能でもって「一億総火の玉」の一端を

木造建築の語られ方|昭和期日本の精神史 はじめに&目次

noteのマガジン「木造建築の語られ方」ほかに書き散らしていた文章たちを再編成して目次化してみました。佐野利器にはじまり三澤千代治におわる木造建築のお話しを書くという目標に向かってスケッチしてみた架空書籍の目次とその前書きになります。 はじめに 木造・昭和・語られ方たとえば、十数年ほどの前の住宅雑誌のページを開いてみると、今と比べて茶色や緑色の割合があまりに少ないことに驚きます。かつては無彩色でまとめられがちだった建築も、今では木質感にあふれています。それこそ、『住宅特集』