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四畳半の部屋から月は見えない

引きこもりが高じて大学を中退し、輝かしい青春のひとときをフルスイングでドブに投げ捨てる。」(『NHKにようこそ』滝本竜彦)

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高校を中退してから、人との関わりに飢えていた。寂しがり屋なくせにプライドの高かった僕は、元クラスメートたちの連絡先を全て消してしまって、かといってアルバイトもせずに日々を消費していた。

ニコニコ動画をみたり、YouTubeをみたり、2ちゃんねるに書き込んでみたりしていた。10代後半の若者が、平日の昼間に外に出ると浮いてしまうことは、高校を中退して5日も経たないうちから体感としてひしひしと感じた。外に出ずにできるほとんど全てのことはインターネットしかなくて、インターネットでできる無料で生産性のない日々を、ぼんやりとした目で過ごしていた。

中退した高校は、進学校だった。開成高校に落ちた人たちの掃き溜めを、進学校と言えればの話だが。とりあえずみんなが東大を受け、学年の半分くらいが医学部にいって、残りは「中学受験でも受かったところに、6年越しにいくw」と自虐しながら早慶に吸収された。

その高校に入れたからには、それなりに勉強ができると自負したかったが、高校の途中から心が折れて学校に行かずに山手線をぐるぐる回りながら村上春樹とデイヴィッド・カッパーフィールドを読み耽っていた自分に、高校課程が頭に入っているとは贔屓目にみても思えなかった。

18歳になった。早稲田大学文学部だけ、願書を出した。試験当日の朝、高校受験で合格を取って、「東大に行きたい。今の自分の成績なら、射程圏内だ」と全国4位の成績表を見せながら親を説得した数年前の自分が脳裏に浮かんで、そんな過去を寒くて手が真っ赤になった山手線のホームで、缶コーヒーと一緒に飲み込んだ。

しばらく後に、ネットで結果が発表された。不合格の文字が無機質に映し出されたパソコンの画面を1時間ほどぼんやりと見つめていた。過去問を解いたときや入試を受けているときから、10〜20点ほど足りない手応えは感じていた。冷たくなった珈琲を飲み、二度寝した。布団にくるまってもとても寒かった日だということだけは覚えている。

包まった布団。自慰行為の残骸として湿ったゴミ箱のティッシュ。切れた蛍光灯。

目に映るのは友達のいないトーク履歴のLINEの中身と同じくらい、面白みに欠けた部屋。

天井を仰いだ。四畳半の部屋から月は見えない。

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