商品は “気づき”。人と偶然がつくりだす、不思議なお店。―――「灯台屋」まるおかさん
北口から出て駅から北口はってん会を真っすぐ歩いていくと、左手にちょこんと小屋のような建物が。こちらが今回ご紹介する「灯台屋」さんです。
以前は学校の先生をやられていたという、オーナーのまるおかさんにお話をお伺いしてきました。
まるおかよしこさんプロフィール
山梨県出身。大学では教育学部で心理学を専攻、卒業後は教職に就く。結婚して武蔵新城に住み始め35年。2013年に新城に灯台屋をオープン。カウンセラー・コーチ・占星術師として活動中。
このお店をどう感じるかというのは、人によって違っていていいなって。
―――灯台屋さんを友だちに紹介するときに『何屋さん』といえばいいか迷うんです。『うーん、占い屋さんかな…?』って言うことが多いんですが(笑)
まるおかさん「そうですよね、最近自分でもお店の肩書きがふわっとしているのはまずいと思ってはいるんですけど(笑)占いの館にしなかったのは、お客さんがここに来る目的を縛りたくなかったからなんです。解釈を委ねる、余白をつくっておくというか、ニーズがある人が見つけて入ってくれればいいなって。」
―――確かに、占いの館とすると、占ってほしい人しか来ないですもんね。
「強いて肩書きをつけるとしたら、エンカウンタースペース、かな。エンカウンターって『出会う』だけじゃなくて、『本音の交流』っていう意味もあるんですよ。そこに偶然居合わせた人同士で話して、一期一会で心がつながるのがうれしいんです。」
▲店内の様子
「例えば、ここでやってるワークショップのひとつにコネクションプラクティスというのがあって―――講師は私ではない別の方がやっているんですが、そこではふと感じた違和感やもやもやを話して、日常の中で埋もれがちな自分にとって大切な価値を見つけていくんです。それで、自分を取り戻していく。」
「参加者の方に『この講座のあとは穏やかに人と接することができるんです』なんて言ってもらうと、それがまさに私のつくりたい時間だと思うんです。一応わかりやすいように占いを掲げてはいますが、それは入り口であり看板でしかなくて。」
―――『灯台屋』という店名も個人的に好きです。
「とある人に、私は空に浮かぶ灯(ともしび)だって言われたことがあったんです。太陽みたいに熱く赤く燃えるんじゃないんだけど、人の闇を照らすような感じだって。そこから発想をもらって灯台屋にしました。」
偶然が積み重なり、理想としていた場に近付いてきた。
―――新城にお店を出したのは、住んでいたからという理由ですか?
「そうですね、最初はここの前にあるマンションのワンルームを借りていました。段々手狭になってきて、ここをいい場所だなってずっと見てたら、あるとき空いてテナント募集の掲示が出ていて。不動産屋さんに飛び込んで、『占いを勉強してて、占い店をやりたい』って言ったんです。占いって怪しく思われるんじゃないかなと不安だったんですが、どうぞって普通に受け入れてくださって。」
「大家さんにも会って話したら、その方も気学という占いをご存知で。不動産屋さんはお店の用途を申請しないといけないので、『占いだとちょっとあれなので、目的をカウンセリングと貸し教室にしました』と。それが、今思えばまさに私のやりたいことにビンゴだったんです。」
―――すごい偶然・・・!
「本当にラッキーでした。最初は、人がたくさん来て話せればいいくらいで考えていて、でもどうしたらそうなるかはわかっていなかったんですよ。だから、始めた当初は一人でやってて開店している時間もばらばらで、自分のもとからのお客さんがセッションに来るくらい。ただ、一人でいると落ち着かないし仕事もはかどらないし。空いてる時間を私以外の人に使ってもらおうと考え、占星術の先生や仲間、サイトを見た人たちが講座やWSをやりに来てくれるようになりました。」
地域のイベントをきっかけに、一緒につくってくれる人が集まってきた。
―――そこから順調にお客さんが増えていったんですか?
「いえ、今の形態になったのは1000ベロ※のおかげです。地域の人が1000ベロで知ってくれ普段も来てくれるようになって、『占いのお店として長い時間開けておいて、誰でもふらっと来れるようにしたいな』と思うようになりました。」
「そうしたら『お店番をしたいです』という人も出てきてくれ、何人かのセラピストさんや占い師さんにお店にいていただくようになりました。『おみせばん』という言葉を使うようになったんですが、お店を一緒につくる人という側面をうまく言い表していると思うんですよね。そうやって、来てくれる人の声をヒントに試行錯誤を繰り返し、今の灯台屋になりました。」
▲ほぼ毎日色々な方のワークショップや講座が開かれている。
―――ここで講座やワークショップをしている講師の方々やおみせばんの方々は、灯台屋さんにどういう期待をされているんでしょうか。
「みんなちょっとしたチャレンジをしに来るんだと思います。本業ではできないこと、ニッチなこと、枠にはまらないことや実験的なこと、とか。」
―――皆さん、ここが好きで一緒につくられているんですね。
「ここまでできているのは、皆さんのおかげです。おみせばんの方にお客さんが増えていくのが一番うれしくて、それで自分に自信がついてきたんですよ。自分が間接的にでも関わっていることで段々成果が上がってきたっていうのが、お金や数字とかで確実に分かってきて。自分も色々な人の力になれるんだな、という感覚を持てるようになりました。」
自分が面白いと思うことと、その人の好きで楽しいという気持ち。
―――占いの講座やワークショップが多いですが、他にも『大人のまんが部」とかお絵かきのワークショップとかもやられてますよね。
「そうですね、昨年は朗読劇と占いのコラボ企画もやりました。『多目的スペース』として、占いにとどまらず色々な方と面白い企画をやっていきたいと思っています。イメージとして近いのは、大人の学童、フリースクール。普通のスクールやカルチャーセンターではあまりないようなワークショップとか講座とかもっとできたらいいなって。」
―――まるおかさんにとっての「面白い」というと。
「想像すると楽しくなるような未知のこと、もっと学びたくなること、『これを提供したらどういう変化が起きるかな』という可能性を感じることですね。あとは、その人のやりたいことに対する熱さとか、好きで楽しくてやってみたいという気持ち。自分もそのエネルギーをもらうと、テンションが上がるので、ここ(灯台屋)のためにとか私が好きだろう、とかじゃない方が面白いものができる気がします。」
▲お店に置いてある本やタロット、不思議な小物たち。
「使ってもらう人には事前に、集客力はないということと収益にはなりにくいことは必ず伝えています。私がここを始めるときも3年は利益出ないよって人に言われてて、実際にはもっと出てないんですけど(笑)あとは私自身は全くおかまいせずに自由にやってもらっているので、それも伝えています。」
新城の魅力は ”ほっこり” と ”わくわく”。
―――武蔵新城のどういうところが好きですか?
「住宅地が多くて、人がたくさんいる気配があるところかなあ。公園で親子が遊んでたり、犬を散歩させてたり、そういうのを見ると和むんですよね。あと、程よく自然があって、飲み歩くのが好きなので飲食店がたくさんあるのも。東京にも横浜にも近くて、東横線や田園都市線にすぐ乗れるのも便利ですよね。」
「あとは、人がみんな優しいと思います。さっきの不動産屋さんや大家さんもですし、商店会の方々にも仲間に入れてもらえて、それがすごくうれしかったんです。居場所ができたって思えて。あとは、石井さん※が新城に新しい文化を作ってくれているので、なんかわくわくしますね。」
―――新しい文化、ですか。
「例えばmikotoさん※、第六南荘※みたいな、いいものを自分のコンセプトで置くっていうのがすごく好きで。もうひとつは、シンジョーアクション座談会※の、みんなで好きなことを出し合ってちょっとずつ形になるみたいな感じが好きでしたね。なので、石井さんから勇気をもらって頑張れていることあります。」
▲第六南荘の1階(写真:セシーズイシイラボ)
ずっとやりたいことは一対一で人と向き合うこと。
ーーーちょっと話が変わるんですが、まるおかさんはどうして先生から占いの世界へ?前から気になっていて。
「そうですよね、よく聞かれます(笑)私の中では全然不思議じゃなくて。教員のときは年2〜3回教育相談でカウンセリングをやっていたのですが、今はずっとそれをしている感じです。もともと発達心理を学んでいて、その子らしく成長していくのを支援したくて教員になったんですが、学校では個性より社会に適応するための教育が重視されますし、多忙になり子どもひとりひとりと密に触れ合う時間がなかなか取れなくなって。私の方向性とは違うんだなとあきらめがついて、教員をやめました。」
「だから今も、やっていることは占いというよりはカウンセリングやコーチングという言葉の方が近いですね。よく聞いて、質問して、話し込んで、一緒に考えて、相手の持っているものを表現してもらう。私が専門として学んでいる占星術は、心理学と相性がよくて、心の問題にも個性を伸ばすことにも使えるんです。時代も読めますしね。」
「実は、ここの契約が残り一年半で、耐震の問題もあるので、次の場所をどうしようか考えているところです。場所を変えると集まる人も雰囲気も変わると思うので、ここと同じように色々な人との出会いや偶然から場ができていったらいいなと思っていますね。」
灯台屋(HP:http://todaiya.com/)
神奈川県川崎市中原区上新城1-2-3(JR南武線武蔵新城駅から徒歩3分)
お問い合わせはTwitterのDMより:https://twitter.com/todaiya_m
※1000ベロ:武蔵新城で年に3回開催されている飲み歩きイベント。参加している店舗は飲食店だけでなく、マッサージ屋さんや不動産屋さんなども。それぞれのお店に1000円メニューが用意されている。
※石井さん:武蔵新城の大家さん。
※mikoto:武蔵新城にあるナチュラルチーズと食材のお店。
※第六南荘:築約50年のマンションの1階をリノベーションし、建築事務所やmikoto、洋菓子店などが入っている。
※シンジョーアクション座談会:新城で何かやってみたい方を集めて行っていたイベント。
編集・ライティング・一部撮影:とやまゆか/撮影:木戸真理子
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