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タイルも壁紙も全て一枚ずつ選んだ。誰でも入りやすい銭湯に。ーーー「千年温泉」深澤さん

千年温泉(ちとせおんせん)」は、天然温泉のある銭湯としてオープンして約50年。2018年に建て替えをし、2019年にリニューアルオープンをしました。今回は、両親の後を継いで建て替えを決意した、深澤さんにお話をお伺いしてきました。

深澤実千枝さんプロフィール
武蔵新城生まれ、武蔵新城育ち。大学卒業後はメーカーの企画部で働き、展示会を企画や販売促進、パンフレットやカタログの制作をしていた。

人を幸せにできる商売っていいなあと。

深澤さん「仕事で一時期武蔵新城を離れていたんですが、結婚して仕事をやめて子どもも大学生になって落ち着いたので、お店を手伝い始めました。当時、父が80歳近くなっていたので、ここ(千年温泉)を続けるのか廃業するのか、家族で話し合っていて。」

―――銭湯が減ってきているという話はよく聞きます。

「昔は家にお風呂がなかったから銭湯に来る人が多かったけど、今は家でお風呂に入れるから。うちみたいに高齢化でどうしようかってなると銭湯をやめて、マンションにしている人が多いんです。マンションにすれば多少楽だしね(笑)」

―――お父さんから継いでほしいって言われたんですか?

「いえ、言われたことはありませんでした。なので、最初は継ぐつもりなくて。働いているうちに、銭湯って面白いなと思い始めたんです。お風呂からあがってきたときのリラックスした顔を見たり、『ありがとうございます、いいお湯でした』って言われたり、そうやって人を幸せにできる商売っていいなあと。」

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銭湯は、なくしちゃいけない庶民文化のひとつなんじゃないかなって。

「あと、銭湯って昔からつないできた日本の文化だと思ったんですよね。テレビのコマーシャルやドラマとかで、銭湯で牛乳を飲んでたり富士山が出てきたり、なくしちゃいけない庶民文化のひとつで、これを残していくことも銭湯の大事な役割なんじゃないかなって思ったんです。まあ、色々理由はあるけど、最終的にはね、運命かなって(笑)私の名前に『千年温泉』の『千』が入ってるじゃんって思ったりね。」

―――最近、銭湯とかサウナとか流行ってきていますよね。私も月一くらいで千年温泉にお世話になっています。

「今 “コト体験” ってよく言われていますよね、体験に価値があるって。物はネットで買えるけど、お風呂に入るっていう体験はネットでは買えない。みんながそういうものを求める時代になってきていると思うと、銭湯にも勝機がある気がしたんですよね。」

伝統は残しながら、『大正ロマン風』の内装に。

「銭湯はおじいちゃんやおばあちゃんが来る場所っていうイメージがあると思うし、建て替える前はうちもそうだったんですよ。2階にカラオケがあって、おじさんたちが入り浸っているような(笑)私は、若い人や家族、幅広い年齢層の方に来てもらえるお店にしたいってずっと思っていました。リニューアルするときに決めていたのが、女性がひとりでもふらりと入れる銭湯にすること。女性がひとりで入れれば、誰でも入りやすくなるんじゃないかなと。」

―――とはいえ、内装のリノベーションだけではなく、全面更地にして建て替えるってあまりないですよね・・・?それが本当にすごい。くじけたりしそうだなって。

「お店のイメージを統一したかったんです。外観も内装も。『大正ロマン風』をコンセプトにして、タイル一枚、壁紙一枚から全部自分で選んだんですよ。例えば、壁紙はウィリアム・モリス、あとアール型の窓とか入口のステンドグラスとか。ショールームに行ったり、職人さんに直接会いに行って作ってるところを見せてもらったり。それがすごく楽しかったんです。」

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―――えええ!全部!

「入り口のステンドグラスは本物で、特注したんですよ。あれ、すごい高いんです、実は(笑)もともとガラス細工を趣味でやっていたのと、お客さまをお迎えするところにあるので、特に作り込みました。」

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「気を付けたのは、スタイリッシュというかおしゃれにしすぎないこと。やっぱり銭湯なので、伝統は残したいなと。私が特にこだわったのは、下駄箱の木札。あとは、体重計、富士山、ビン牛乳も。柱時計は、50年以上前からあるんですよ。」

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ゆるキャラにソフトクリーム、色々な人に愛されるための小さな工夫。

「ゆるキャラの『ゆぱんだ』も作りました。女性の方やお子さんに親しみを持ってもらえたらいいなと。描いてくれているスタッフが関西人なので、たまにボケたことを言っていたり、注意書きにゆぱんだを使うことで柔らかいニュアンスにしたり、色々なところにいるのでぜひ探してみてください。2階にはキッズコーナーも作りました。」

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「パブリックビューイング、夏休みには子ども向けの『あひる探しゲーム』とか、イベントもやったりしていますね。もちろんゆず湯とかしょうぶ湯とか季節ものもやるんですけど、行ってみたら面白いことがやってるかもって思ってもらえたらいいなと思っています。」

―――ソフトクリームの機械もあるんですね!セブンティーンアイスは置いてあるところたくさんありますけど、ソフトクリームは珍しいなと思って。

「そうそう、ソフトクリームは人気ですよ。おばあちゃんがお孫さんにねだられて買ったり、若い子が3、4人で来て『うまくできないー』ってわいわいしてたり。」

単身者のお客さんをもっと増やしたい。

―――いつ来ても賑わっているし、色々な年代の人がいますよね。さっきも下駄箱がほぼ埋まってました。

「リニューアルオープンして今1年半弱ですけど、ファミリーは確実に、若い友だち同士で来る方も増えました。全体的に見ても、お客さんは増えてますね。」

―――宣伝とかもされていますよね。駅の看板で見かけたことがあります。

「今は色々やっているんですが、最初の1年間は宣伝を打たないでやろうと決めてたんです。宣伝にお金を使っていいものかもわからない、それだけの売上があるのかも見えない状態で本当に不安だったので。お客さんが戻ってくれるか、借金を負って、ね。今はありがたいことにお客さんも増えてきているので、CREAに載せていただいたり、ラジオに出たり、色々やっています。」

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「今、私が増やしたいと思っているのが単身者。家に帰ってお風呂を沸かしたりお風呂を掃除するのがめんどくさい、みたいな人って結構いると思っていて。新城って単身の方も多いですしね。」

銭湯には微笑ましい光景がたくさんある。

―――実際、銭湯をやってみてどうですか?

「もちろん大変なこともあるけどね。営業時間が午後2時から夜12時までで開いてる時間が長いし、休みもなかなか取れないから。でも、幸せな感じがします。銭湯に一緒に入る家族は仲良しですよ、喧嘩しながらお風呂は入らないでしょ。普段ひとりで来ているおばあちゃんが、夏休みにお孫さん連れてきて、コーヒー牛乳買ってあげて、自分のテリトリーに連れてきたみたいな感じとか。あとカップルなんかも微笑ましいな、なんて。神田川じゃないけど。あ、知らないか!」

―――ごめんなさい、知らないです(笑)

「神田川っていう曲の中でそういうシーンがあるの、お風呂上りに待ち合わせをする、みたいな。よかったら聞いてみて(笑)」

お店を続けることが親孝行。

―――ご両親も受付にいらっしゃることがありますよね。

「父は80代なんだけど、仕事が大好きなんです。1年間仕事を休んでる間しょぼくれちゃって、銭湯をリニューアルオープンしてからのほうが顔艶がいいくらい。友だちに『お父さんに死ぬまで仕事をさせてあげて、仕事中に死ぬくらいの方が親孝行じゃない?』って言われたんですよ。私は楽させたほうがいいのかなと思ってたけれど、反対にこっちの方が親孝行なのかなと思い始めて。」

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武蔵新城は気取ってなくて居心地がいい。

―――新城にずっと住まれていて、変化とか感じますか?

「一時期活気がなんかなくなったというか、お年寄りの町みたいな感じになった時期があったんです。私が20代くらいのときかな。今は家族が住みやすい町になって、小学校の生徒も増えてきているみたいですし。個人で経営しているお店が多いのもいいなとか、主婦目線でいうと駅の周りで色んなものが揃えることができるのは便利ですよね。なんか、うん、すごい住みやすい。」

―――意外と交通アクセスがいいし、スーパーも商店街もあるし、私も住み始めてから、本当に住みやすいなと思って。家賃もそこまで高くないですし。

「そうそう、川を越えるとすぐ東京でしょ、でも川を越えると家賃が高くなる。どこにでるのも大体1時間位だし、東京も横浜も渋谷も、新幹線の発着駅も。だから、本当に穴場だと思います。」

「あとは、気取ってないのが居心地いいですね。横浜に住んでる友だちが宅配便を受け取るときもきちんとした格好をしないといけないって言ってたんだけど、武蔵新城は町中もちょっといい部屋着くらいで歩いても平気じゃない?(笑)脱力、みたいな感じがいいなあと。」

千年温泉
〒213-0021 神奈川県川崎市高津区千年新町20-4
平日 14:00〜深夜0:00 / 土曜・日曜・祝日 11:00〜23:00
金曜定休 駐車場10台収容

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編集・ライティング:外山友香/撮影:木戸真理子

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