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伊豆天城山でハイキング-33

朝6時、目覚ましが鳴る。

消す。

まだ眠たい。

もう一度寝るか。

あぁ、でもお風呂入りたい・・・・・・。


自然光が届き部屋は薄明るい。カーテンを開けてみると昨日は真っ暗で何も見えなかった場所にたくさんの緑、緑、緑。確か海までもそう遠くないはず。
なんて素晴らしい環境なんだろう。
そんなこと知りもせずに一夜を過ごしたことが、なんだか勝手にもったいない。

一度ベッドから離れてしまえば頭は動き出す。今日はささ家族お勧めの店で昼食を頂くだけだから、チェックアウトギリギリまでゆっくり過ごせる。

「たぁはお風呂行く?」

「うーん、いいや」

ベッドから動く気配を見せずに、言葉だけが返ってきた。

それなら一人で行くか。


昨夜はラッキー独占風呂だったけど、夕食時の混み合いからいってやはり多くの人が利用していることに間違いはない。
レセプションを通り、階段を下りて風呂場の暖簾をくぐるといくつかのスリッパが置いてあった。脱衣所には二人の姿。どうやら別々のグループのようで互いに話すことはない。幸いだ。これならゆっくり静かに浸かることができる。

服を脱いで体を洗い、湯へと入る。

うーん、気持ちがいい。

やっぱりのんびりゆっくり静かにお湯に浸かると疲れが癒されていくのを感じるよ。


水を飲もうと脱衣所に向かうとささとららがやってきたので、互いに手を振りあう。露天風呂に浸かっていると二人がやってきたので、今まで静けさを共有していた女性になんだか申し訳ない気持ちになりながら、つい話が始まってしまう。話題はもっぱら昨日のハイキングの話だ。

大変だったね。でも、がんばってね。やっぱりあの所要時間はおかしかったね。らら、きつい言葉をかけてごめんね。

同じ風呂で誰かが話していたら聞きたくなくても耳に届いてしまうせいか、もう一人の女性は静かにその場から去っていった。

癒しの時間を奪ってしまいごめんなさい。


長湯が苦手なららは風呂の横に座って、足首をさすっている。そこは赤く擦れていた。聞けば靴のトップラインが原因らしい。慣れないハイキングシューズ、彼女にあった履き方が見つかればいい。

のんびりした時間を共有し続けたいけど、先にお湯に浸かっていた身、のぼせないよう適当なタイミングでお風呂を後にする。


外に出るとれんがこちらに向かってゆっくり歩いてきている。

「鍵忘れちゃったの」

ささたちが鍵を持っているってことかな。
女子風呂に彼が入れるわけないし、いいタイミングで私と会ったね。

「私、もらってきますよ」

「本当?」

「はい、たぁが部屋にいるから私たちの部屋で待っていてください」

「わかった、ありがとう」

折角、お風呂で温まった体が湯冷めしてしまうのはかわいそうと小走りでお風呂へと戻ると、二人はすでに脱衣所にいた。

「れんが部屋に入れずに困っているよ」

「えぇ。『受付に鍵を預ける』って決めたのは彼なのに」

へっ?そうなの。

急いで上へと戻るとれんは建物のすぐ傍まで来ていた。

「鍵、受付にあるそうですよ」

「そうなの。ごめん、言葉足らずで」

れんは長風呂だと聞いていたから、ささたちが鍵を持って先に部屋へと戻る予定だと思っていた。しかし彼は、“受付”に預けた鍵を受け取るのを忘れて部屋へと戻って行ってしまったらしい。

それにしても彼の歩き方は違和感があり、遅い。

「筋肉痛で歩くのが辛くて、つい頼んじゃった」

そういうことですか。
まぁ、無事に鍵を受け取れて何よりです。


部屋に戻るとたぁがルンルン笑顔でギターを弾いてる。彼はマイブームであるギターを旅行先でも弾きたいとコンパクトギターを購入し、今回も持ってきていた。だけど部屋は散らかったまま、何も準備をしていない。8時ちょっと前には朝食を食べに行くのに。

「どうしていつもやらないといけないことをやる前にやりたいことをやるの?」

それが原因で彼は忘れ物が多く、私に怒られやすい。

文句を言っただけでは部屋は片付かないので、一人コツコツを片付けていくと「わかったよ」と言わんばかりの横柄な態度で彼も準備を始めた。

「いつも僕を動かす」

言われる前にやれば文句を言われないのに。
もし何も言わなかったら私が片付けるまで待つくせに。

人と一緒に暮らすって妥協も必要だけど、良い環境を求めたら相手に理解してもらえるまで説得する根気だって必要だ。


主な登場人物:
私-のん、夫-たぁ、
姉-ささ、姉の夫-れん
姪っ子-らら、甥っ子-ぼう


これまでのお話



【無空真実よりお知らせ】

いつもご覧いただき、ありがとうございます。

Amazon Kindleより二冊の電子書籍を出版いたしました。



長年にわたり心の深い場所に重たいしこりがあり、一時は「もう真から笑うことはできないんじゃないか」と思ったほど。
だけど日々の生活や旅行を通じ、一筋の光が現れてちょっとずつ自分を取り戻し続け、今回の旅は私に人生の節目を与えてくれた。

神話の土地から届くエネルギーを通して、私は一体、何を体験できて、何を知れるんだろう。

準備は整った、さぁ旅にでよう。

人生を模索しながら生きている二人の旅をどうぞお楽しみください。






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