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伊豆天城山でハイキング-39

満腹なお腹をなでなでしながらゆっくりしたいところだけど、隣の席にも人が来て、角に座る私の居場所は少ない。

お客さんは尽きることなくやってくるので、そろそろお暇しよう。

おあいそをお願いし、御勘定をもとに私たちの分を計算する。

「わぁ、高い」

いくら丼、他のどんぶりの1.5倍ほどの値段だわ。

「明日葉の天ぷらと烏賊のコロッケはどうやってわければいい?」

「それはいいよ。私たちが勝手に頼んだものだし」

確かにたぁは一口も食べず、私も少量もらっただけだ。でもなんだか悪い。
若い頃は人のお金を自分のように使っていた身だけど、年を取ったら逆に奢ってもらうのが苦手になった。

私とたぁのどんぶり代の合計は5150円。

「それなら5500円だすよ」

「はぁ」

あれぇっ~、なんか気の抜けた返事が返ってきたわぁ~。

初日の夕食でワインをご馳走してもガソリン代をちょっと多めに出しても、彼らの言葉からはありがたみを感じられない。唯一、「ご馳走様」を言ってもらえたのは昨夜の部屋飲み代だけだ。
別に恩着せがましくしたいわけじゃないけど、何かこう、気の利いた言葉の一言でもいただきたい。

「ねぇ、私、いいこと言ってるんだよ。もっと有難みがってよ」

脳を通さずついつい思いが言葉になってしまった。

なんて小さな人間なんだ、私って。


後でたぁに聞いた。

「いくら丼、おいしかった?」

「うーん。いくらは思ってるほど乗ってなかったら、これならみんなと同じ丼を頼めばよかった」

なんとっ、高いお金を出したのに満足していなかったとは。

ロシアとの関係のせいで、サーモンの価格は上がっているから仕方がないのかもしれない。

ちなみにお食事処「錦」は夜になると居酒屋へと変わるらしい。

「今度は夜来てみたいね」

「僕はいい。そんなにおいしいと思わなかったし」

あぁ、そうなんだ。ちょっと残念。


全員、お店のトイレで用を済ませた後、ささが伊豆熱川の周辺マップをくれた。お店の入り口に置いてあったそうだ。

お散歩にもってこいのアイテム、有難くいただきます。

昼食を終えたということはここでささ家族とお別れだ。
彼らは車で小田原に戻る途中、家電量販店に立ち寄って地域共通クーポンで何か購入するらしい。その後、明日予定があるららは家へと戻り、ささとれんはぽうが借りているのに、今、彼が海外にいるせいで利用されていない、とんでもなくリーズナブルなお家賃の藤沢のワンルームに一泊してから帰るらしい。

弁財天様隣の墳泉塔の前でみんな揃って記念撮影。

この中にぽうがいないことが寂しい。今度はみんな揃ってお出かけしようね。


ららにとお別れの深いハグを交わす。会ったとき、別れ際の恒例行事だ。彼女もそれをわかっているから喜んで私を受け入れてくれる。

大好きな姉家族が車に乗り込み、去っていくのを手を振りながら見送る。

「バイバイ。気を付けてね」

「うん。のんも楽しんでね」

曲がり角まで見送れば、お世話になった車は姿を消した。


ポツーン。


私とたぁの二人だけに戻った。

いつも通りなのに、なんだかちょっと寂しくて、空間が広い。


私とたぁには子供がいない。それは私たちの選択だ。
子供がいないせいか、甘やかすという感覚がわからない。

小さな頃から成長を見守ってきた大好きな姪っ子と甥っ子だから、すごく大事に扱うけど、彼らの態度に問題があればしっかりと言葉にしてそれを伝えることがある。彼らからしてみればきついと感じることもあるだろうけど、それでも一緒に旅を楽しんでくれる。


私はとってもラッキーな環境の中にいる。


ありがとう。


これからも一緒にたくさんの思い出を作っていこうね。


懲りずにまた山も一緒に行きましょう。




主な登場人物:
私-のん、夫-たぁ、
姉-ささ、姉の夫-れん
姪っ子-らら、甥っ子-ぼう



これまでのお話


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