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ジャズの情景-ウエス・モンゴメリー/ボス・ギター

僕は高校生の時、福岡の中洲に通っていた。
猥雑な雑居ビルと辻々に立つキャッチの誘いを避けて、向かうのはジャズクラブだ。
道端で掴み合う男たちを女が「喧嘩するなら店の中に入り」と宥める。
2000年代前半の博多の繁華街はまだ昭和らしく人間臭かった。

ハモンドオルガンの音が漏れる階段をあがり木の扉を開ける。
煉瓦の壁に煙草の煙が染み込んだソファ。
点々と置かれたライトがテーブルと隅の電話を照らす以外は
得体の知れない何かが潜んでいるような暗さだった。

ウエス・モンゴメリーのLP「ボス・ギター」を聴くといつもあの店内を思い出す。
スモーキーなギターと気怠いオルガンの音色、襟元を正した大人が叩くスウィング。
初めて耳にした時「これは今まで聴いてきた音楽とは何かが違うゾ」と感じたのを覚えている。
ブルースやロックに夢中になっていた少年がジャズに出会った瞬間だった。

以来、僕はあの「何か」の正体を追っているのではないかと思いながら、
ギターを抱えたウエス・モンゴメリーのジャケットを眺める。
ネオン街のジャズクラブ、トリオが鳴らす生暖かい音楽ー
間違いなく、僕にとっての「ジャズ」の情景だ。

ウエス・モンゴメリーについて:
https://ja.wikipedia.org/wiki/ウェス・モンゴメリー

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