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第47話 「フランスからの訪客」

   (松本市民タイムス リレーコラム 2019年7月28日掲載分)

「天気も今イチだし仕事でもするか」と工房に向かった土曜日の午後。
のんびり作業をしていると一通の英文のメールが届きました。

『僕はフランス人のギター製作家で、友達と一緒に自転車で日本を旅しています。今日松本駅であなたの作った楽器を見て、是非あなたに会いたいと思うんだけどどうでしょう?休みの日だとは思うけれど今日しかチャンスが無いんです。』と。

たまたま先月から松本駅のコンコースに展示してあった僕の楽器を見て、わざわざネットで工房のメールアドレスを調べてメールしてくれたんだね。

何だか面白いなーと思ってOKしてまもなく、ニコラス君自転車で到着。

1時間近く色々話したけれど、彼はフランスで生まれて学校を卒業しイギリスに渡り、何年かかけてギター作りを学んだ後ドイツに渡って、今はベルリンに住んで自分の工房で生徒にギター製作を教えながら自分の楽器をコツコツ作ってるらしい。

何人かいる生徒はそれぞれ週に数回彼の工房に通い、各々が好きにデザインした楽器を作り彼がそれにアドバイスをするという形。

「僕はギター作りという良い仕事を身につけたから、それを人に教えることで結構良い稼ぎになる。そして旅に出るのに十分なお金が溜まったら仕事は休みにして色んな国に旅行に行くんだ。日本は大好きで、この前来た時は3ヶ月間の滞在したよ。」

「ヨーロッパの中はどこに行っても暮らしやすいし、ギター作りはどこに住んでいても仕事が出来るからね。」と楽しそうに話す31歳の彼は、工房にしがみついて生きているような僕には何だかとっても眩しく見えました。

しかし話を聞くほどに日本人の(僕の)生き方を振り返って考えてしまう。

お国の違いなのか人種の違いなのか。僕らは頑張って小銭をためても、将来の生活の不透明さからかそれを上手に使うことも出来なくてただコツコツと貯める生活になりがち。ヨーロッパって老後の生活はどうなんだろうか。

でもね。
どこか世界を旅していてもやはり楽器作りの人間同士ってすぐに友だちになれるんだな、と実感した日でもありました。
去年南太平洋の島へ旅行した時も、SNSで知り合っただけのウクレレ製作家に1日あちこちと車で案内をしてもらってとっても楽しかったことを思い出した。世界中に仲間がいると思えるのはとっても幸せな事。

次は僕もふらりとスペインあたりに行って、ギター工房を訪ね歩くような旅ができたらいいなと思う。

「今夜の宿はどこかの橋の下かもね!」と言って笑いながら、荷物いっぱいの自転車を漕ぎ出したニコラス君。明日は伊豆へ向かうそうな。

良い旅を!   Bon voyage!

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