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第60話 「旬のサンマ」

(松本市民タイムス リレーコラム 2020年9月10日掲載分)

9月。夏日が続く信州ですが朝夕は幾分穏やかになりました。
7月の長雨で日照不足が心配だった稲も、今は無事に穂が色づいて頭を垂れてきています。 

田んぼや畑仕事には直接の関わりがない自分でも、やはり作物の実りは心が浮き立つような幸せな光景として目に映ります。 道路脇の田んぼの黄金色を見て、何とも言えない嬉しさとともに作物を苦労して育てている皆さんへの感謝が湧いてきます。

9月は実りの季節の始まりです。1年を通してその季節ごとの旬を食べるのは楽しみなことですが、とりわけ秋には様々な美味しいものがあります。 
数日前、旬のものに目がない細君が新物のサンマを仕入れてきました。まだ少しスリムな体型ですが目が透き通りくちばしが黄色く体がピカピカしています。 
その年に初めて出回る頃のサンマは当然価格も少し高めです。おいしそうだけれどちょっと躊躇するくらい。1匹300円以上。 
価値判断は人によって違うと思いますが、食いしん坊の我が家はこの事案に対して積極的な投資をします。2人で700円。 以前は安くなるまで待って買っていたのですが、最近は時期による味の違いに気がついてきました。
以前板前さんから聞いた話ですが、豊漁期に網で大量に捕獲されたサンマは仲間同士がぶつかり合い傷つけ合い、お互いの剥がれた鱗を飲み込んでしまったりで強いストレスにさらされているそうです。 
だから焼きサンマにしてワタ(内臓)ごと食べると、口の中がウロコだらけ。味も苦味が強い気がします。 
対して、漁獲量が少ない走りの時期のものは少し細身ですがワタ(内臓)の苦味が少なく格別な旨さがあります。胃袋にウロコは入っていません。
旬に手に入れた美しいサンマは細君の手により柔らかく美味しく焼き上げられます。 

今は便利な世の中でネットでもレシピを検索できますが、薄めた本ミリンをサンマに塗って焼くと、身が柔らかなまま外はこんがりと。焼き上がったところを大根おろしと共に皿に盛り食卓へ。ワタが旨い! 好みの純米酒あたりと合わせると格別なご馳走になります。

美味しいサンマを食べながら、豊漁続きの今までが不要な乱獲だったんじゃないのかなと考えます。自然のものを適時適量に美味しく頂く。値崩れするほど獲る必要があるのでしょうか。最近のサンマの不漁も自然からのメッセージなのかなと思えます。

いつもよりも割高な価格は漁師さんたちの生活にそのコストが必要だからです。今夜は少し奮発して旬のサンマをじっくり味わってみませんか?

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