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聖夜

歌はどこにあるのだろう
ぼくらのことを見ているんなら
そこから降りておいで
そう呟いた彼も
いまは町から失われてしまった
美しい電飾から逃げるようにして
バスがギアをあげていく
十二月の夜に降り立ったぬけ殻たちを残して

あしたの天気を気にしない
北の海から流れて来る者たち
枯葉のような小舟に命をあずけて
汚れた手が機械をいじる
海峡を流れて漂着した者たちに
区別をしない神さま
パンとテレビをあげてください
ぼくたちなら間にあっているから

歌はどこにあるのだろう
壊れかけた自転車が
たまらん坂から風を連れてやって来る
肩も膝も痛い
地下の店をさがしまわる酔いどれたちが
狭い路地を曲がる
扉をとざしたビルの階段で
蹲っている影に挨拶するみたいに

九番目の雲のうえで
千の夜をつないで
千の希望を書きつないだ
どんなときでも
ヘルシンキの泣ける小犬を抱いて
見送るひとはいなくても
生きてきた時間が
中央線に乗り込んでゆっくりと地上を離れて行く

歌はどこにあるのだろう
手のひらの青いひかりのメッセージ
まだ生きているよ
タイムラインには店主のいなくなった
古めかしい喫茶店がアップされる
時計を捨てた天使たちが
奇跡をさがして
深夜の大学通りを南に向かって歩きはじめた

この感情に名前を与えることはできない
欅の廃墟のしたでステップを踏んだ
死んだ詩人の数行を
古着屋の店先に吊るしておこう
答えにたどりつけない旅
正しさのかたちが見えないから
せめていとしいひとの肩を抱いていたい
神さまの祝福をそえて

メリー クリスマス
飢餓を忘れたあなたに
メリー クリスマス
ひとを殺して生きのびたあなたに
メリー クリスマス
枯葉剤を作ったあなたに
メリー クリスマス
死んだ海を返してほしいあなたに
メリー クリスマス
絶望さえも希望に変えてしまうあなたに
メリー クリスマス
まだこの町で生きているあなたに
メリー クリスマス
まだこの町で生きているあなたに
メリー クリスマス
きみに、ぼくに、あなたに


◎国立ランブリング「創作ノオト」
十二月。国立の大学通りもイルミネーションに彩られて。
なんだか、いろんなことがあって、そわそわする一年も、やがて終わる。

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