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五月の階段

夕陽があたる場所
子どもという主題で歌ってみる
猫のようになって
顎を地面に置く
アメリカ製のジープで
神社の階段を登ってみせた父さんも死んだ
戦争は嫌いだと
教壇で声を詰まらせた
教師のいまを知ることもない

くだらない規制と作戦
結局、ながい階段がつづき
昇り降りするだけ
壊れた右目を再起動して
海にしずむことのない川をさまよう
やがて影が見える
駆け引きと脅しのゲームに負けた
ちいさなビロード色の虫たちが
ななめに走って逃げる影が見える

さあ新しいゲームをはじめよう
どうせ死ぬ世界の中で
いちばん高い階段から
うつくしく落ちていくゲームを
手のひらのなかの世界も
だれかに乗っ取られている
遺跡になった階段教室で
ぼくは逃げるスープをこの手で掬いとろう
飲み干すまでは死ねないと
眠りの井戸にしずむ学生たちに
語りかける

五月の階段のとちゅうで
ちいさなことばとおおきなことばが
すれちがうタイムラインに
そっと水を呼びこもう
たくらみの箱をとりだして
生きてるんだ、まだこの町に
きえた影が宵闇にとけこんでいく
だれも風景を歌わない町に

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◎国立ランブリング「創作ノオト」
五月の雨上がりの土曜日。
久しぶりに一橋大学の西キャンパスに。歴史のある講堂の階段に
ぼくの五月の階段の詩を接続してみました。

白い雲が浮かぶ空を眺めながら、シチリアに集う馬鹿どものこと
も思い描いて。
さあ、この世界の二億年後はどうなっているんだろうね。

https://happyspot.jp/blog/theme.aspx?id=%81E%8D%91%97%A7%83%89%83%93%83u%83%8A%83%93%83O

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