九月の町を歩く

ぼくはみんなの話を聞きながら
眠る樹だ
みんなの楽しそうな議論のなかで
呼吸する葉っぱを
静かに揺すりながら
眠る樹だ

駅前のカフェでギネスビールを飲んだ夕方
ロータリーを時計回りに
ぷらぷら歩いた
かがやくビルの壁
賑やかなコンビニの店先を過ぎて
左斜めに行くと
まっすぐに伸びる旭通りがあって

ゆっくり歩こう
食べ物屋、ドラッグストア、花屋に靴屋
いろんな店を眺めて
いろんなひととすれ違って
前になり後ろになって
いろんなことをやり過ごして
みんなとお喋りをする
九月の会話は
とりとめもない
旅の話
懐かしいひとの話
ゆっくりと時間を刻むように
詩を読み詩を書くこの町で

フィッツジェラルドを買った古本屋が
なくなって空っぽになっている
そのビルの地下に通じる階段から
静かなジャズが聴こえる

おおぜいの仲間が待っている店で
ビール、烏龍茶、ワインと
さまざまな皿に盛られた
さまざまな料理のいろとりどり
誰かの挨拶がはじまる
祝杯をあげる
みんなの九月に

ぼくはみんなの話を聞きながら
眠る樹だ
みんなの楽しそうな議論のなかで
呼吸する葉っぱを
静かに揺すりながら
眠る樹だ