十月の記憶
十月の記憶 小山伸二
夜の道は淋しい
言葉にしてはいけない約束だから
地面に落ちた果肉を
臆病な猫たちに食べられないように
用心深く拾い集める
甘い蜜の秘密の壷
人差し指を濡らして
しずかにかき混ぜたことを
忘れない
計画された道で
地中に根を張る
街路樹たちの影の濃淡を数えて
蛇行する自転車と
黒ネクタイの男たちを
器用にすり抜けながら
寄り添うふたりも
どこかへゆらゆらと消えてしまった
敷布を突き破り碇を下ろした海で
異国の香りがした
どこにでも飛んで行ける心と
とじこめられた喉をならして
水をひと息に飲んだ夜のことは
忘れない
夜の道は淋しい
先生が黒板にたくさんの文字を書いた
学園の正門前を過ぎる
こどもたちの季節は際限がない
木の葉が朽ちて土に還る法則と
だれも居ない音楽室から聴こえる旋律だけを残して
あなたの瞳のなかで大きく育っていったもの
水の雫のように
暗い十月のなかで
きらきらひかるものを
忘れない
◎国立ランブリング「創作ノオト」
国立市の十月はさまざまな樹々が色づきはじめて、
夜の大学通りは秋の気配に満たされていきます。
広くてまっすぐな舗道を夜のランブリング。
家路を急ぐひとたちに追い越されながら、淋しくて厳しい、そして
どこかしら甘い恋の詩が書きたくなりました。
写真は、一橋大学の構内で。
十月の雨粒をたっぷり含んだ蕾たち。
凍えそうな可憐な瞳がいつか大きく育てばいい。
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国立ランブリング【連載詩⑫】
http://ameblo.jp/kunitachihappyspot/entry-11945843981.html
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