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アイアンワーム 第八話 出撃前夜

それから数日後、最初に帰還したのはカズマサのチームだった。
彼らの姿が視界に入ると、施設内から歓声が上がった。
疲れた顔にもかかわらず、彼らは何かを見つけてきたのか、明らかに満足した表情を浮かべていた。
 
先頭を走るのは、カズマサが操縦する巨大な重機、コンクリートのビルも砕く、クラシャーだった。
その金属の爪はまるで巨大な獣の牙のようだった。
 
「ハハッ!見てくれ!これが何かわかるか?」と、カズマサは力強く叫んだ。
その背後には、同じく金属の獣、ブルドーザーを操る男たちが続いていた。
人々は彼らの帰還を歓迎した。
 
 
その日の夜、人々が寝静まった後、静寂が突如として切り裂かれた。
 
遠くから叫ぶような声が聞こえる。
「もうすぐ着くぞ、頑張れ!」
門番は固唾を飲みながら、闇から迫りくるその影を見つめていた。
 
「アリサか?」と門番の問いかけに、闇から疲れきった声が答えた。
「そうだ、追われている。開けてくれ」
鉄製の門がゆっくりと開く音は、仲間が帰還した喜びと同時に、外の世界への恐怖を再確認する瞬間でもあった。
 



アリサの姿は過酷な状況を物語っていた。
彼女の身に纏わりつく泥と血、体を覆う傷、それに伴う苦痛の表情。
彼女の背後には、疲れ果てた数人の生存者が追い縋っていた。
彼らの目には喜びよりも疲労と恐怖が浮かんでいた。
 
「よく戻ってきました」門番が息を呑みながら言った。
アリサは頷き、わずかに微笑んだ。
 
アリサたちの帰還が告げられると、たちまち人々が集まってきた。
人々の顔には、安堵と同時に帰らなかった人に対する悲しみ、ワームに対する恐怖の表情が浮かんでいた。
 
医療スタッフは活動的に動き回り、痛みに耐える傷ついた者たちを一人ずつ手当てしていた。
アリサは、医療スタッフの静止する手を振り払い、目を光らせながら周囲を見回し、力強く言った。
「レイジ、レイジはいるか?」
 
レイジも、アリサの帰還を聞きつけ、ちょうど、工場のドアから出てきたところだった。
アリサはレイジの方向へゆっくりと目を向け、ニヤリと笑った。
「おお、レイジ、マザーワームを見つけたぞ」
 
そのニュースに、レイジは力強く頷いた。
 
アリサは、一同の注目を集めると力を込めて話し始めた。
「我々が見つけたのは、ここから南東に約10キロ、大きな森の中だ」彼女の声は明瞭で、重要な報告であることを十分に示していた。
「そこには大型トレーラーくらいの大きさのワームがいた。その体からは次々と新しいワームが生まれていた」彼女はしっかりとした口調で、詳細を語り始めた。
「それが我々が探していたマザーワームだ」
 
皆は息を飲んだ。深淵を覗くような感覚が、その場に漂っていた。
 
「そこには、大小さまざま、色々な種類のワームもいた」彼女は一息ついて、再び声を上げた。
 
「聞いてくれ、我々は逃げない。マザーワームを破壊する!」
 
彼女の声は広場に響き渡り、それぞれの心に突き刺さった。
 
「私一人では何もできない。力を貸してほしい!」彼女の声は、決意に満ちていた。
 
その瞬間、人々は一斉に、声を上げた。
「わー!」「わー!」という歓声が空に響き渡った。
 
アリサは手を高く挙げ、続けた。
「出発は3日後だ!その間に全力で準備し、休息を取り、力を蓄えろ!」
 
最後に、アリサは力強く拳を突き上げた。
「勝利は我々にある!」その言葉に再び歓声が上がり、その響きは遥か遠くまで広がっていった。
 
夜が明けると、光り輝く朝日が施設の壁に当たり、人々が活動を始めた。
 
整備士たちは手際よく機械にオイルを注ぎ、ボルトを締め、金属部分を磨いていた。
 


重機の操縦席には、鉄板が取り付けられ、戦車のような鉄壁の防御を身に付けた。エンジンが始動すると、その唸り声が広大な施設内に響き渡り、揺るぎない信頼を与えた。
 
電気棒も一列に並べられ、熟練工たちが丁寧に調整を行なっていた。
その様子はまるでオーケストラの指揮者が一音一音、調律をしているかのようだった。
 
人々の動きは機敏で、しかし慎重だった。戦いのための準備が徐々に整えられていく。
 
一方、アリサの部屋には主要メンバーが集まり、机の上に広げられた地図の前で熱心な議論が交わされていた。
 
荒くて大きな手で地図を指さすのはゴンさんだ。
「ここだ、マザーワームがいる」
 
カズマサがふっと口角を上げて、
「ああ、それで重機でここから一直線に突っ込むか?」とざっくばらんに提案した。
 
しかし、アリサはぶっきらぼうに首を横に振った。
「バカだな。ただ突っ込むわけにはいかない。敵には大型のワームもいるんだ」
 
ワタナベは地図に一瞬目を落とし、即座に返答した。
「そうだな、ここから近寄って例のアレを使うのはどうだ?」
 
レイジは、ニヤと笑い「ここからならいけるかも知れないですね」と答えた。
 
議論は夜中まで続いた。

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