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友井川拓 note 〜ラグビー以外〜 Vol.5 『異文化理解のすゝめ』

今回はエリン・メイヤー氏の著書『異文化理解力』という本に、妻の勧めで読んだ『妻のトリセツ (著 黒川伊保子)』にも劣らない衝撃を受けたというお話。笑

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ラグビーは多様性のあるスポーツ。

ラグビーは多様性のあるスポーツだと表現されます。それは日本代表を見るとわかるように、様々な国籍・人種の選手が日の丸を背負って共に戦ってくれています。多くの外国人選手が日本の為に死力を尽くしベスト8に進出した2019年ラグビーW杯は記憶に新しいと思います。ただこれは日本だけが例外なわけではありません。日本以外の多くの国も様々な国籍・人種の選手で代表チームが構成されています。国の代表には当該国・地域に36ヶ月間継続して居住という条件を満たすと資格を得る事が出来ます。これは他のスポーツには類を見ない特徴ではないでしょうか。

もちろん、多様性とは国籍や地域だけの違いではありませんよね。
スポーツに留まらず、難解な問題解決を行う時や何か大きなものを成し遂げる時、そして新たなものを創造する為には、同質性の高い組織より多様性の高い組織の方がより優れた成果を生み出す可能性があるとされています。これは多くの研究やイノベーションを起こした企業の事例からもわかります。

新しいものを生み出すには、今までに無かった新しい視点や考え方・価値観が必要です。これは同質性の高い組織と多様性の高い組織のどちらが良い悪いではなく、どういうものを作り出したいかでチームの構成は変わるべきです。

そういう意味では、スポーツは創造的なものだと思っています。ラグビーに留まらず、常に新しい考えを柔軟に取り入れ前進していくことがスポーツの楽しみであり使命であると思っています。

私のボスは南アフリカ人。

多様という観点については選手に限ったことではなく、ラグビートップリーグにも多くの外国人コーチがリーグのレベル向上に貢献すべく来日し、トップリーグという舞台で仕事をしています。

シャイニングアークスも例外ではありません。私のボスは南アフリカ人です。
そして同僚はオーストラリア人と大阪の人です。私を含めた計4名のコーチングスタッフで日々選手と一緒にチャレンジさせてもらっており、本当に刺激的で学びの多い日々過ごさせてもらっている事を幸せに感じています。

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ただ、まぁ難しい...。本当に難しい。面白いくらいに上手くいかない。笑
なんて時もありました。

それは何故か...。まず言葉が違う。
同じ単語でも意味が少し異なる事もあり、そういう小さな違いが大きな解釈の違いを生むことも少なくありません。英語を完璧に話せればもっとスムーズに仕事が進むのになんて思うときもありました...が、なんかしっくりこない。笑
モヤモヤの1番の原因ではない気がしていました。

そこで先に紹介した『異文化理解力』という本に出会い、なんとなく正体がわかった気がします。

文化の影響は我々が思うよりもなかなか大きい説。

それは、文化(Culture)の違いは我々が思う以上に、我々に大きな影響を与えているということです。
まず、前提として人はみんな違います。
同一の文化であっても、ひとりひとり性格や考え方は違うということは誰もがわかっていることですよね。同じ日本人でも性格は人それぞれです。

しかし、文化の根底にある価値観というものは我々に大きな影響を与えています。文化の根底にある価値観とは何かを考えるとき、オランダの社会心理学者のホフステード氏の玉ねぎ型モデルがよく使われていますね。

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文化とは、たまねぎの層のようになっていて、シンボル(ファッションや食べ物、建築物、言葉)、ヒーロー(みんなに尊敬される人々)、儀式や慣例は目に見えるるが、価値観というのは最も芯の部分にあり目に見えず非常に分かり難いが、文化の核になっているという考え方です。

その価値観については、国や地域によって異なってきます。
『異文化理解力』のエリン・メイヤー氏は文化の違いを認識するために8つの指標で表しています。

エリン・メイヤー氏の8つの指標
 1:コミュニケーション・・・ローコンテクスト VS ハイコンテクスト
 2:評価 (ネガティブフィードバック)・・・直接的 VS 間接的
 3:説得・・・原理優先 VS 応用優先
 4:リード・・・平等主義 VS 階層主義
 5:決断・・・合意志向 VS トップダウン
 6:スケジューリング・・・タスクベース VS 関係ベース
 7:見解の相違・・・対立型 VS 対立回避型
 8:信頼・・・直接的な時間 VS 柔軟な時間

『異文化理解力』での8つの指標で日本を表すと、コミュニケーションはハイコンテクスト。ネガティブ・フィードバックは間接的。事例を通じて納得感を引き出す説得の仕方を好む。リードは階層式。決断は、合意志向。タスクよりも関係ベースで信頼を築く。意見の対立は避けたい。スケジュールはきちんと。といった感じです。もちろん、個人によって異なることはありますが多くの日本人に当てはまるような気がします。

参考までにエリン・メイヤー 氏の8つの指標を日米中3ヶ国を比較したのが下記の図です。アメリカとの違いは一目瞭然ですね。
(*図は監訳者の田岡先生が教授されているGLOBIS HPより)

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一方で玉ねぎ型モデルのホフステード氏は6次元モデルという6つの指標で表現をしています。こちらの考えもわかりやすく面白いです。

ホフステード氏の6次元モデル
 1:権力格差
 2:集団主義 / 個人主義
 3:女性性 / 男性性
 4:不確実性の回避
 5:短期志向 / 長期志向
 6:人生の楽しみ方

詳細は省きますが、どちらからも学べるのは文化の違いには濃淡があるということです。すごく当たり前のことですが、私もなかなか気がつかずにいました。
どういうことかというと、単なる日本人と外国人という違いではないということです。

『異文化理解力』で面白い話がありました。

あるチームはイギリス人とフランス人のコンサルタントで構成され、仕事のあいだずっとイギリス人はフランス人が無秩序で、まとまりがなく、時間の正確さに欠けると不満を口にしている。別のチームはインド人とフランス人で構成されていてインド人はフランス人が厳しく、柔軟性に欠け、締め切りやスケジュールに固執にして、状況の変化に応じて変えようとすらしないと不満を口にする。
なぜフランス人のメンバーに対してこうも認識の差が生まれるのだろう?
この話を別のチームでイギリス人と働いているドイツ人に伝えるとドイツ人は「それは笑えるね。だって僕らドイツ人はいつもイギリス人は無秩序で、まとまりがなく、時間に遅れるって不満を言ってるんだから。イギリス人がフランス人に対して言ってるのと全く同じ不満をさ。」*要約

この話からもわかるように、自分の文化と世界の文化という視点だけではなく、様々な文化がありそれぞれの文化がお互いをどう思っているのかという視点が必要です。本当に当たり前のこと。考えればわかること。でも意外と盲点でした...。特に日本人はそういう傾向が強いかもしれませんね。

前述の話で言えば、イギリス人・フランス人・インド人・ドイツ人がお互いに無能だと思っているでしょうが、これは文化のギャップがあるだけであり、それぞれ無能なわけではありません。ただの違いであるということを『知る』が大事です。

『病気が認識できれば、半分は治ったようなものである』

フランスには『病気が認識できれば、半分は治ったようなものである』という言い回しがあるようです。

題名を『異文化理解のすゝめ』としましたが、私は異文化を理解することは到底不可能だと思ってます。わかりあえません。笑
しかし、文化の違いが違和感を引き起こすものだと知っていれば、物事の運び方が変わってきます。知っていれば少し気を使うこともできますよね。

劇作家の平田オリザ氏の著書『わかりあえないことから』で対話についての記述があります。

対話が日本で起きにくいのは、お互いが同じ前提に立っていると思っているからだ。お互いにわかり合えていないことを認めることこそが対話には不可欠だ。
*要約

日本人同士でさえわかり合えないことばかりなので、文化が違うと尚更なのは当然です。ラグビーという同じ競技の中で人生を過ごしてきた者同士なのでわかり合えると思ってしまいますがそう簡単ではありません。わかりあえないと認める(知る)ということが大事だという視点は非常に参考になりました。

そして、自分の文化の価値観が正解だと思わないこと。そこに気づくのに私はかなりの時間を要した気がします。私自身、悪気はなくても自然とそう思ってしまっていました。相手にとっては、相手の価値観が当たり前であり、異なる文化の価値観は気持ちが悪いと思ってしまうことは当然だということです。

先日、ボスとこんな内容の話をしました。
「日本人は細かすぎると思うかもしれない。でもそういうものだと知っておいて欲しい。もちろん自分の主張が全て正しいとは思っていない。ただ知ってもらうことが必要だと思います。合わせて日本人は主張せずに抱えてしまう人も多いということも知っておいて欲しい、私はそうではありませんのでズケズケ言いますが...笑」と。

私はこういう文化で育ち、こういう価値観を持っているんだと ”知ってもらう” ことから始めてみてはいかがでしょうか。フランス的に考えると病気を告白するという感じですね。わかりあえないを前提に相手の文化や価値観がどういうものか、自分の文化や価値観がどういうものかをシェアすることが異なる文化の人と仕事をする上でオススメです。

間違えてはいけないのは、同じ文化で育ったとしても人はみんな違うという事実は変わらないということ。矛盾しているようですが、単なるステレオタイプで「彼はどこどこの国から来たから、この文化だ。だからこういう思考を持っていてこういう行動をするんだ」と決めつけてはいけません。ですが、文化の違いが物事の見方やコミュニケーションの取り方に少なからず影響を与えていると『知る』ことでよりその人個人を知ることができ、尊重できるようになると思います。

多様性はスポーツにとってもビジネスにおいてもその価値は計り知れないものでしょう。ただし、多様なだけがいいことを生み出すわけではありません。多様なだけでは組織を壊す要因にもなり得ると思います。違う文化を持ったもの同士がお互いの文化の違いを『知り』尊重することでチームがより素晴らしいものになるでしょう。

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みんなちがって、みんないい。   Creepy Nuts


最後に一言。

『異文化理解力』という本をご紹介させていただきました。もし異なる文化の方と仕事をしながらモヤモヤしているのであれば、手にとって欲しい一冊です。ただし、文化が我々に与える影響は大きいと話をしましたが、単に性格による部分もありますのでお気をつけて。笑

最後までありがとうございました。


【参考文献】

 1,『異文化理解力―相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』
  著:エリン・メイヤー
  監修: 田岡恵
  翻訳: 樋口武志
  出版:英治出版

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2,『わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か』
  著:平田 オリザ
  出版: (講談社現代新書)

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