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【小論文の書き方】バーバラ・ミントのピラミッド原則で論文を書く:その2

小論文のタイトルは、『電子書籍が出版社を救う』。
論文あるいは小論文と言われるようなきちんとした文章を書くためにピラミッドストラクチャーを使っています。原典はバーバラ・ミント著『考える技術・書く技術』。最終原稿だけでなく、そこに至るプロセスも解説します。

2011年2月にトレーニングを受けたときに書いた小論文なので、当時の世相も垣間見られると思います。
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ピラミッド原則の詳細は、その1『ネット社会は、リアル社会と同じように実名であるべきか?』で公開しているので、そちらを参照してください。

問題意識はなにか?

もはや隔世の感がありますが、電子書籍の是非が2011年当時議論になっていたので、「なんか違うんじゃない?」と思ったのが発端です。

電子書籍の普及が既存の出版業界の構造を壊すという論調で語られることが多く、視点が一方的過ぎると感じている。既得権益を守ろうとする目的で電子出版に反対することが、逆にこれまでのコンテンツ資産の有効活用の幅を狭めると共に、顧客である読者を減らしてしまうのではないかと考えた。

キーメッセージとなる”Thesis”を決める

ここは自分の主張です。
問題意識つまり”Question”に対する”Answer”となるのが、”Thesis”でしたね。

電子書籍が普及することは、本というコンテンツへの接触機会を増やし、結果的に読者の増加につながるはずである。

この時点では、この”Thesis”が本当に主張する価値があるかどうかは曖昧だったりします。最終的に”Answer”になるかは3つのBody次第ですが、まずは仮説や思いつきでスタートして構いません。客観的なデータ分析やFact Findingをしていくなかで当初の”Thesis”の裏付けができない場合もあります。その場合は、躊躇無く”Thesis”を変えて、”Question”に対する正しい”Answer”として再設定すればいいだけです。この推敲プロセスがまさにクリティカル・シンキングですね。

ピラミッド型小論文の骨子

- Thema
 - 電子書籍が出版社を救う
- Thesis
 - 電子書籍は読者数を増やすことに貢献する
- Introduction
 - 黒船来襲と呼ばれ、出版業界を潰すと言われる電子書籍。ところが、現在の出版流通の構造は自ら衰退していく仕組みであり、実際市場規模はピーク時より7000億円減って2兆円を割っている。
- Body1
 - 読まれなくなる仕組みの委託販売制度。新刊書籍は年間7万8555点出版され、返本率は40%、書店数は2000年が21,654店に対し2010年では30%減の15,314店にまでなっている
- Transition1
 - そもそも読者を減らす構造的な欠陥を持っていた
- Body2
 - リアルな本は、場所を取る、持ち運びづらい、流通コストがかかるという欠点がある一方で、一覧性や譲渡可能であるなどのメリットも合わせ持つ。電子書籍はまったく逆の特徴。内容によって相応しい媒体を選び、同じ内容でも時間的ズレを持たせたり、組み合わせることでより読者の目に届きやすくなる。
- Transition2
 - 接触機会が劇的に増える。お年寄りも読める
- Body3
 - 企画、編集、PRは売れる仕掛けとして必ず必要。絶版本や稀覯本も電子化によって復刻版を販売出来る。要は、どれだけ有用なコンテンツを資産として持っているか、それがもっとも重要。著作権が切れる前に電子化権を取得するなども出版社なら優先的に出来るはず。
- Transition3
 - 人の知識欲は際限が無い。ひとつを知れば、また次を知りたくなり、その知識を得る手段が電子だろうがリアルだろうが、読者に取ってはあまり重要ではない。
- Conclusion
 - 音楽を持ち出せるようにしたウォークマンが音楽の需要を高めたように、電子書籍は読める機会を著しく増やしてくれる。従来の業界構造が「読ませない仕組み」であったことを振り返れば、電子書籍こそがこれまでのコンテンツ資産を活かし、読者を囲い込むことが出来る手段として、出版社にとっての福音となるはずである。

この後は、最終原稿を全文掲載しておきます。10年前の世相がわかる内容もなかなか面白いですが、ぜひピラミッド原則を意識して分析しながら読んでみてください。

小論文:『電子書籍が出版社を救う』

黒船来襲と呼ばれ、出版業界を潰すと言われる電子書籍。ところが、電子書籍台頭前の業界動向を見てみると、市場規模はピーク時より7000億円減って2兆円を割っている。これでは、電子書籍の影響を受ける前に、業界全体が大淘汰の津波に呑み込まれてしまう。現在の出版流通の構造は、かつては業界全体の発展のために必然的に出来上がったものであった。しかし、時代の流れやテクノロジーの変化の中にあって、同じ構造を保ち続けることは、もはや自ら衰退の道を選択するのに等しいのだ。

電子書籍は、出版業界にとって読者数を増やし、売上を拡大するための切り札である。

2010年に新刊書籍は年間7万8555点出版され、右肩上がりに増え続け、平均すると毎日200点以上が刊行されている。出版された書籍は、取次が一旦は買い取り、取次が全国の書店に卸している。書店数は、2000年が21,654店に対し、2010年では30%減の15,314店である。これは書籍を展示するスペースが減っていることを意味しており、毎日200点の新刊書が書店に届いたとしたら、在庫分を減らさなければ書店には足の踏み場もなくなってしまう。この仕組みが返本率40%という驚くべき状況を生み出している。展示もままならず、商品の入れ替えを余儀なくされる書店は、当然、売れ筋の本だけを平置きする。これでは、せっかく年間8万点が刊行されたとしても、読者の選択肢にあがるのはほんの一部のベストセラーだけということになってしまう。
返本率が40%という書籍が売れていない状況にあっても出版社が新刊書籍を出し続けるのは、新刊の発刊が効率よく大きな収益を生むからである。新刊書籍は、欲しい収益分だけ印刷してしまえば取次が引き取ってくれるため、たとえ後に返本されても、一時は売上獲得になる仕組みである。本来は、リスクを分散し、費用負担を軽くして書籍の流通を促進する流通構造であったが、今では読まれない本を大量に吐き出すいわば「壊れた輪転機」というのが実情である。

電子書籍の到来以前に、読者に本が届かなくなるこの委託販売制度によって、出版業界は宿命的に衰退の道を辿っているのである。それは、流通構造そのものに欠陥があるわけではなく、かつての構造がもはや機能しなくなっただけなのだ。

近代の印刷技術の祖はグーテンベルクであることは疑う余地もない。後のアルドゥス・マヌティウスは、ページの順序を示す番号を紙面の端につけ、イタリック体の採用などにより本のサイズ自体を小さくした。小型本の歴史はマヌティウスに始まるものであり、「持ち歩ける本」というものは現代からみれば当然であるが、これは書物の歴史における大転換であった。
紙の書籍は、場所を取る、流通コストがかかるという欠点がある一方で、一覧性や譲渡可能であるなどのメリットも合わせ持つ。電子書籍は、これと反対の特徴を持っている。マヌティウスの小型本が果たした役割を電子書籍に当てはめてみれば、「持たない本」である電子書籍は物理的な制約から開放され、本の爆発的な普及という大転換を可能にすると言ってもいいだろう。

保管場所の問題、重さの問題、大きさの問題といった、物理的な問題を抱える紙の書籍は、購読意欲の薄い読者にとって本への接触機会を減らす要因となっていた。それが、電子書籍になれば接触機会は劇的に増える。電子書籍では、お年寄りも文字を拡大して眼鏡無しで読めるし、資料性の高い分厚い稀覯本を何冊も持ち出すことが可能になる。

流通構造が変わるからといって、必ずしも出版社の存在が否定されるわけではない。むしろ、これまでの出版社の役割を再考すれば、流通以外の企画や編集また著作権管理といった役割の方が重要だと言える。電子書籍は返本が発生しないことから、既存の委託流通制度のまま流通量が減少すると捉えるなら、売上減に対する危機感が募るのは当然であろう。しかし、在庫リスク無く企画編集のノウハウをフルに発揮するという立場を取れば、出版社以上に相応しい存在はないはずである。また、絶版本や稀覯本も、電子化によって大量販売が可能になる。コスト割れを懸念して出版を控えていた作品も、電子書籍として流通させれば、思わぬ収益源となることも十分考えられる。
書籍の内容そのものを資産として扱い、積極的に電子化権を獲得して電子書籍の発刊点数を現状の新刊書籍の倍にするならば、返本無しの流通構造にあっても同等の売上規模を維持するのは難しくない。これは、音楽業界においてアップル社のiTunesStoreが前例を作ってくれている。iTunesStoreで公開された億を越える音楽データのうち、1回もダウンロードされなかったものは存在していないのである。

人の知識欲には際限が無い。ひとつを知れば、また次を知りたくなり、その知識を得る手段が電子だろうが紙であろうが、読者に取ってはあまり重要ではない。しかし、手に取る、目にすると言った機会がなければ、購入に到ることはないのである。

音楽を持ち出せるようにしたウォークマンが音楽の需要を高めたように、電子書籍は読める機会を著しく増やしてくれる。従来の業界構造が「読ませない仕組み」になった一方で、これまでのコンテンツ資産を活かし読者の飽くなき知識欲を満たす電子書籍は、出版業界にとっての福音となるはずである。
=========================ここまで

まとめ

興味のある方は、この論文から10年経った現在、出版業界がどのように変化したか調べてシェアしてもらえるととても嬉しいです。連歌みたいな小論文のセットが出来たら最高!

バーバラ・ミント著『考える技術・書く技術』で書かれたピラミッド原則に則した文章を書けるようになると、他者とのコミュニケーションや議論が生産性の高いものになります。さらに、自分の主張を、1分の立ち話でも5分のPitchでも2時間のセミナーでも即座に話せるようになるはずです。


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