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マーケティングにはまって幸せだった1日

先日、よく遊びに行く駅に併設している本屋で、ある小説を買った。
その本屋から私がまんまと仕掛けられたマーケティングにハマり、そして幸せになってしまったことを書いていこうとおもう。

1日目 本を買う

最近はやることもあり、マンガは漫画喫茶でまとめ読みするので、小説自体買ったのは1年ぶりくらいだと思う。
その日も、別に本を買うつもりはなく、街をぶらつきPC作業するか帰るか迷っていつつ、「面白い本があったらいいなぁ」と思い入店した。
大抵ピンとくるものが無いので買わない。その日もピンとくるものはないんだろうなと思っていた。
ぐるっと店内を回っていたら入口の平積みのところで最近映画化された小説のPVと主演2人のメッセージが、DVDプレイヤーで繰り返し再生されていた。
その主演2人はわりかし好きなので、観ていると、どうやら最近映画化していること。話は恋愛っぽいけどそんなパッピーエンドな結末にはならなそうなことが分かった。

もうここからマーケティングにハマっているのだが、私は一度スルーして店内をもう一周した。思えば、その小説のマーケティングにハマるのを嫌がったのだと思う。
天邪鬼故、後お金を駄作に使いたくが無いゆえに抵抗したのだ。
しかし、抵抗むなしく「ピンと」来てしまったその本を手に取った。

映画仕様のカバーが重ね掛けされたそれは、表紙が主演2人室内の床に座っており、真ん中に作品名が書かれていた。

最近の書籍マーケティングでは映像化された際や重版がかかるとカバーを映像化したものや色合いを変える手法が流行っている。といっても2~3年前からだが。
本来小説は挿絵があるものもあるが基本絵という絵はない。あって表紙だかそれも抽象的で読者の想像と作風を表現する程度である。
「活字離れ」なんて言葉もあるくらいだから、それでは本屋で手に取ってもらえないのだろう。
テレビや街中で目に付くキャッチーなキャラクターや縁者、イラストで「装飾」する出版社の知恵だ

話がそれたが、手に取ったその小説は私が全く読んだことのないジャンルであった。後から知ったが作者はBL作品から筆を執るようになり、その小説が代表作に挙げられるほど著名な作家になったらしい。ちなみにその作品はBLではない。

その本を手に取ってからも5分くらい悩み。らちが明かないと思い、レジに持って行った。主演に惹かれ、映画を観たいと思ったので先に原作を読もうと思ったのだ。外れても700~800円の出費だ。たいしたことない。
(と思いつつ合計で15分以上悩んでいるのだから、よほど変なものを読みたくなかったのだろう)

その本を買い、帰りながら読もうと思ったが、その日は徹夜明けだったのでその気力はなく、帰りの電車は眠っていた。(日本はへいわである)

そのまま帰宅するも読む気力も湧かず、その日は寝た。

1日目のマーケティング

・映画化PVの店頭放映、主演2人のコメント付き
・主演2人の起用
・映画版カバーの重ね掛け
・店頭入口近くの小説配置

2日目 映画を観る

翌日。徹夜もダメージを感じつつ起床し、通院する支度をする。
昨日買った小説は枕元にあったが、「どうせ電車では読まないだろう」と思いかばんに入れずに家をでる。

電車に乗り、通院し、カフェで一息いれる。
担当の先生が異動とのことで、次回から新しい先生ということに不安を感じ、2時間くらいメソメソしていた。
その間にこの後どうするかを考えた。PC作業は気分的に集中できない。
かといってこのメソメソを引きづって一日を終えるのはもったいない。
と考え、「シン・ウルトラマン」を観ようかと上映時間を調べた。

その際に昨日買った小説の映画がやっていて間もなく上映終了なのが目に入った。
「ふむ。スクリーンで映画を観るのも久しぶりだし、先に終わるこっちを見よう」
4時間くらい上映時間まであるがそのコマしかなかったので、それを見に行くことにした。
目的が決まれば、それまでをどう時間をつぶすかだけである。深呼吸して一度家に帰って元々雑事をやる。

そして映画館に向かい、チケットを買う。映画も1年ぶりくらい。
「シン・エヴァンゲリオン」以来。ちなみにエヴァは3回くらい見た。
一緒に見た女の子は元気だろうか。もう顔も覚えていないけど。

久しぶりの映画館は何度も来たことあるところであったが、前来た時から大きくレイアウトが変わっていた。
グッズなどその時上映されているもの以外の物販が増えており、人も閑散としていた。「経営が厳しいのだろうか。潰れないといいな。」と思いながら、ぐるりと陳列を眺め、わずかな売上貢献として、ポップコーンとホットドック、コーラを頼んだ。久しぶりだし楽しむときは散財するが吉である。
残念ながら、観る映画のグッズはもうなかった。
映画グッズは得てして買わないけどないと寂しい。

指定されたスクリーンに入り、指定席に座る。
平日ということもあって、他にお客さんは30人もいない。快適である。
同じ列で持ち込み品の缶チューハイとお菓子を食べる40代ごろの夫婦と水筒の飲み物を飲む20代にはちょっとイラっとした。
イラっとした理由は「売上貢献しろよ」だったのが、個人的にちょっと面白かった。映画館は飲食が主な収入源だ。お客さんが少ないのはうれしいが潰れては困る。せめてドリンクは買ってほしいものだ。
もちろん持ち込み品は物音がうるさいというのもある。

ま、気にしても仕方ない。スマホの電源を切り、ジーンズのポケットのものをかばんに移し、映画を観た。結論。めっちゃよかった。(語彙力)

映画の感想

内容は言わないが、久しぶりにまともで素晴らしい映画を観た。
韓国の監督が作っているからか、独特の雰囲気もありつつ、全てのカットに意思を感じられた。
特に主役が職場から自宅に帰るシーン。バスのカットが一瞬入ったのは感動した。
最近の日本映画は製作費の都合か、このような「余白のカット」が飛ばされることが多い。センスがない。意味のあるシーンだけを詰めるならそれは作品ではなく、情報の塊でしかない。

人の醜さと矮小さが全編を通して描かれていて、人はそれぞれ歪んで生きていることを思い出した。主役2人だけ歪んでいる話ではなく、助役もしっかり歪んでいて利己的で傲慢で偏見に満ちている描写があったのが個人的には気に入った。

そして主役2人(実際には3人)の演技も秀逸である。これは言葉にできない。この作品は役者の演技力がものを言うタイプなだけあって、茶番になりかねないシーンはいくつもある。それを全く伏線や嘘くささを感じさせずに表現した役者の皆さんには、拍手を送りたい。

一つ、私の記憶の為に書いておく。主役は全編通してセリフが伴わない表現が多い。それは「泣く」などの動作でもなく、感情をそのまま表現するのだ。あれは言葉にできない。 主役が怒りを助役にぶつけるシーンと、川で座り込むシーンあれだけは覚えておきたい。あれは本当に言葉にできない。

もう一つ。主役が嘘をつくシーンが終盤にある。観客はそれまでの情報では、それが嘘だと「その時点では」観客は分からないシーン。
それを役者の演技力一つで気づかせるのだ。あれは感動した。役者がただ感情の副産物を表現するのではなく、感情そのものを演じれることに感動した。

そして最後は全てがミスリードと気づくネタ晴らしがある。これは本当にわからなかった。そしてどう考えても初見ではわからない。あれも言葉にできない。そしてわからない人は分からないだろう。

総じて2022年最高の作品に出会った。

恐らく、この作品をいい作品と呼ぶ人は少ないと思う。内容的に決して観ていて楽しい感情にはならない。でも、それでも私は最高の作品だと思う。
演技、演出、カット割り、キャスト、原作との相違。すべてである。

惜しむらくはもう一回スクリーンで見たいが近くではもうやってなさそう。

原作の感想

映画を観た後、原作も読んだ。といっても終盤を少しだけ。前半はまだ読めていない。結論、原作も良い。
私は小説が映像化されるときに先に映像を見ることを進めるタイプである(よほど制作がやばくない限り)
なぜなら、映像の登場人物のイメージが原作を読むときにそのまま使えるからである。そして原作は映画では含まれなかったシーンがある。つまり頭の中でスピンオフを創れる。2度楽しいのだ。

全てを読み切ってはいないが、読んだ部分限りで言うと、監督は原作から映画への落とし込みを非常にうまくやっている。
映画は主に時間の関係上、「余白のカット」を減らさなければならない。
が、減らしすぎると話の展開のリズムが崩れる。その塩梅が難しいところである。
また、同じ理由で原作と同じ順番や設定、終わり方をできない場合もある。
しかしこの作品の監督はそこを非常にうまくやっている。
その設定があってもなくても成立する部分を枝葉切りしている。違和感が無さ過ぎて、原作を読んでなお、驚くくらいである。
是非、原作も読んでほしい限りである。

2日目のマーケティング

・上映終了の締め切り効果
・圧倒的なコンテンツ力
・(チケット代が安かった)知らなかったけどね…

マーケティングの感想

さて、こうしてまんまと駅隣接の本屋の入り口に配置されたPVから、
小説・映画・飲食代・そうしてこうやってUGCまで書いて、しっかりマーケティングにハマっている私だが、いかんせん、全く持って満足度が高い。
大体ひねくれものな為、マーケティングの意図が透けると若干満足度が下がるのだが、今回はそれが無かった。そんな理由を書いていきたいと思う。

まず、今回のマーケは、マルチメディア展開に類するマーケティングである。

小説を映画化して、原作ファンに映画を観てもらう
映画化PVで本屋の店頭で流し、主役のカバーでアイキャッチと興味を引く。

恐らく設計としては
・書店での接点から小説購入・映画鑑賞までやる顧客(ロイヤル)
・書店での接点から小説購入・映画鑑賞の片方をやる顧客
・原作好きで映画もみる顧客

の3つを下から順に獲得する設計になる。厳密には演者ファンも入るだろうが要素薄いので割愛する(単に俳優の影響力な話ですから)

この中で自分は一番上の
「書店での接点から小説購入・映画鑑賞までやる顧客(ロイヤル)」に該当する。

そしてマーケティング施策については1日目と2日目のマーケティングを参照していただきたいが大きく
書店・作品・映画館の3つに分けて施策が仕組まれている。
この中には作品のマーケティング担当が担っておらず、
各場所それぞれの独自の施策で行っているものもある。

それらは一貫した意図で設計されているわけではないが、
配給元、映画館、原作出版社、書店と関係各社が各々の利益を追求した結果自然と嚙み合う形で消費者の前に現れる。それを一つ一つ説明して、私にどう刺さったか説明していこう

・映画化PVの店頭放映、主演2人のコメント付き

私がハマったキッカケの施策である。
書店入口すぐの目に付く配架に書籍と共にDVDプレーヤーがおいてあり、PVと主演のコメントが流れていた。
行ったことがある人は分かると思うが、書店は総じて音、とりわけ人の声がほぼない空間である。そして視界には店員と他のお客さん以外に動くものが無い。
その中でPVを流すということは聴覚を独占でき、視覚に対して動的なアイキャッチを狙えるということだ。
(最近はノイキャンイヤホンが流行っているのが、それは見ないことにしたい)
取り分け、書店では表紙の文字を追うために、比較的視覚の注目度が上がる。よく見ようとするために注目しやすい所に動画を流せば、目には止まることだろう。
また、著名な主演2人の声は大半の人は一度は聞いたことがある声として音の中でもより注意をひきやすい。聞きなじみのある声は得てしてより聞こえやすいものだ。その声で「書店にお越しの皆さん」なんて言われたら立ち読みしてても耳に入るだろう。

これは配給元、出版社、書店の堅実かつ効果的なアプローチである。

・主演2人の起用

後述するコンテンツ力に含まれるが、主演の2人の起用に関しても、マーケティング効果があると私は考えている。
男女1組のこの主演2人は、顔やグループの知名度というより、演技力に定評がある2人だった。(それでもイケメン・美女なのは羨ましいかぎりである)それぞれこれまで様々な映画で様々な役をやってきた。その演技力の幅と深さは信頼に足り得る。
この時点で「ある程度まともな映画」であることが分かる。
原作がある映画は今回の作品のように感動作もあれば、キャストと原作のバランスがあってない作品、キャストの人気を100借りている作品、演出・監督がクソな作品など玉石混交である。(本好きとしては好きな作品はまともに映画化してくれるのを願うばかりである)
そんな中、キャストは名前が通っており、作品の期待値を明確に測る材料になる

私が個人的に好きな2人だったことも大いに影響しているが、
この2人では無かったら少なくとも原作小説は買わなかっただろう。

これは制作会社のマーケティング施策になる。

・映画版カバーの重ね掛け

また、この主演2人を表紙にして映画化を打ち出した映画版カバーを原作小説に重ね掛けしたのにも注目したい。
小説はジャンルにもよるが、人物写真ベースの表紙は少ない。これは前述した通り、小説は明確に登場人物の容姿を規定しない・規定しても現実的に存在する人がいないことが多い場合が多いからだ。(肖像権の問題もあるだろう)
その為、著名な人物が写った写真カバーはそれだけでアイキャッチになる。これは原作が映画化の力を借りる典型で5~6年前くらいからよく見るようになった。ついでに映画も観てくれたらラッキーだし、映画観た人の目には必ず留まるから、存在を2度刺ししやすい
表紙が変わるだけでこれまでスルーしていた人に再度目に留まるという点では、リターゲティングの効果も期待できる
出版社が仕込んだ施策である。

・店頭入口近くの小説配置

これは書店に限らないが店頭入口に配置するのは、とても良い施策になる。
メタメッセージで、売り出し中や今流行りのもの(人気=名作)だと伝えることもできるし、空間が変わる入口に置くことでその空間内で最も早く認知を獲りやすい。
前述したPV、映画化カバーと組み合わせれば、ほぼ確実にリーチでき、メタメッセージも発信できる。
これは書店の工夫だろう。出版社が依頼している場合もあるが。

人の行動を促す最後の施策としてはとても強力である。

・圧倒的なコンテンツ力

今回のマーケティングの中で最も注目してほしいのがこの章である。
「いいものを創れば売れる時代は終わった」とよく言われ、事実である。が!それは「いいものを創っても売れない」とは異なる。
販促も重要性は高まったが、そもそも「いいもの」でなければ、訴求の仕様もないのである。腐ったミカンはどうやっても売れない。
そのこの作品は圧倒的なコンテンツ力を持っていた。
少なくとも私に映画と原作を買わせて、読み終わった後大切に保管しようと思わせ、こうやってNoteを書いているくらいには強力なコンテンツであった。
前述した通り、原作がある映画は当たりはずれがある。
だが、この作品はキャスト・演出・原作すべてが良かった。
しかも原作の伝えたいことをしっかりと監督が纏め上げてそれを演出と演者が的確に表現した。その結果、私の心は震えた。

コンテンツ力が強いかどうかはざっくりいうと
「有益性があるか」か「心の振れ幅が大きく動くか」
どちらかまたは両方を満たすことである。
要は受け手が価値を感じればいい。そして感じた価値の量が強く、感じた人が多いほど、いいコンテンツと世間では呼ばれる。

分かりやすい例は子供が書いた両親の絵だろう。あれの価値は親にしか話からないが、親にしてみたら強力なコンテンツである。

まずこのコンテンツを創ったことが、マーケティング施策の最初かつ最大の施策である。

・上映終了の締め切り効果

続いては映画館での施策になる。Web上の上映スケジュールで「○月〇日に上映終了」と書いてあると限定効果が生まれ、興味なくとも注目してしまうし、興味があれば、「いつ見に行くか」という「観賞するしない」の検討フェーズをスキップして「いつ見るか」に脳内を切り替えさせるので効果的である。
ちなみに後日調べたらまだ都内であれば複数の場所で上映しているようだ。
くそぅ。。と思いつつこの締切効果が無ければ映画観なかったかもしれないので感謝である。

これは作品問わずに映画館各館がやっている独立した施策であるが、作品に興味を持った

・シネマデーなどのチケット代割引

そして最後は映画館のチケット割引だ。私は今回これを知らずに見に行ったので実際はハマらなかったのだが、一応触れておきたい。
この施策は要は条件限定の値引きである。値引きは施策としては利益率を落とすため好ましくはないが、お客さんが支払う対価が減る分強力である。

今回はシネマデーという日付限定の割引であった。
これは前述の締切効果と組み合わせると「いつ行こうか」から「安いからこの日に行こう」と意思決定を強力にプッシュする。
つまり何となく映画を見に行こうとしている見込み層を刈り取るのである

みなさんも映画に限らず、「安くなったら買おう」、「お金入ったら買おう」と思い結局買わないものが合ったりしないだろうか。
そういう人にリーチするためには強力に作用する。
反面、利益を削る為、やりすぎたりすると価値の毀損や投資資金が減り、質の低下を招くから注意が必要な施策である

マーケティングは顧客を幸せにする

そしてこの日にこの作品を観れたことがとても想い出深いものになった。担当医の変更などもろもろでメソメソしていたのが、
いいコンテンツといいマーケティングにハマったことで、払しょくされた。

マーケティングはよく営業と同様に「ものを売り込むこと」や「価値の低いものを高く見せること」など、ある種いやらしいイメージを持たれがちだが、それはマーケティングそのものが失敗していて届けるべきではない顧客や、持っててほしい価値観を育て切れない状態で買ってもらっているから起きる事象である。
今回の私の体験のように、「いいもの」を「いいマーケティング」で売り込み、買ってもらうことが出来れば、
売り手の売上や利益はもちろんだが、なにより顧客に幸せの感情を体験してもらえる最良の手段になりうるのだ。これが本来のマーケティングである。

願わくば、これから出会うマーケティングにも同様の感覚を味わいたいものである。

そして最後に今回私が観て・読んだ作品を発表しよう。
「流浪の月」
是非、映画を観た方は小説を、両方読んでない方は映画→小説の順に読んでほしい。
監督もインタビューで仰っていたが、「言葉にできない」ものが心に浮かぶだろう。

最後まで読んでいただいた方、ありがとうございます。全文無料ですので、この後には何もありませんが、良かったなと思えば、応援していただけレば幸いです。次の映画やマーケティング施策の体験に使わせていただきます。

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