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ラグビー選手のフィットネスを高める方法 -ランニングプログラム① Broken Bronco

◆はじめに
10年ほどラグビー界で仕事をしてきて、特に持久力を高めるプログラムは良くも悪くも"追い込む"や''ハードワーク"というワードで表現される傾向があると感じてきました。
以前、バイクを用いたプログラムを紹介しましたが今回はランニングのプログラムに焦点を当てます。
ラグビー界では持久力全般のことを"フィットネス"というローカルなスラングで表現しますが、こちらの記事では"キャパシティ"と定義します。

走動作を可能な限り高速で長時間、高頻度にて実施できる状態を"ランニングのキャパシティが高い"と表現します。このキャパシティは1日の許容量に限らず、高い要求があった日の翌日における回復の度合いも含みます。



◆本当に追い込まなければいけない?

限られたバジェットをうまく活用するためには、内的負荷だけにとらわれないプログラムを考えなければいけません。
目的はGame DemandsとWorst Case Scenarioに適応し、チームのゲームプランを実行するためのキャパシティを身につけることです。

また、他のプログラムとの兼ね合いが重要です。疲労困憊までランニングプログラムをやって回復が遅くなるのと、Submaximalな設定でトレーニング自体を高頻度に実施する方を比較すると、高頻度の方が結果的にキャパシティを高めている印象があります。

そもそもの大前提として、持久力と筋力は互いに抑制する関係にあります。
走って、コンタクトして、重い重量も挙げて…と理不尽の究極であるラグビー選手の能力を高めるには、リターンと表裏一体のリスクをきちんと把握して管理すべきです。
無闇に追い込まないという表現は誤解を生みますが、選手が疲労困憊になっている姿を見て満足感を得るのは避けましょう。


◆プログラムを考える上でのポイント

まずは現状を把握するためにテストを実施します。ラグビー界ではBronco Test、1km Time Trial、Yo-Yo IR1 Testが主に使われていますが、今回はBronco Testについて記述していきます。

Bronco Testのタイムを基準に、Broken Broncoの設定タイムを決めていきます。
シーズン序盤であったり、初めて接する選手の設定タイムを決めるのは非常に難しいです。そういったシチュエーションで怪我のリスクを抑えながら、適切な負荷をかけていくためにはBronco TestとBroken Broncoが効果的です。

Bronco Testを実施したら、MAS 最大有酸素性速度 を算出しましょう。

MASを算出したら、一覧表から各選手の設定タイムを決めます。今回はMAS110% で各選手の設定タイムを算出していきます。

Bronco TestとMAS

この時、MASから算出した設定タイムが上手くフィットしないケースに注意しましょう。

脚が速いのにBronco Testのタイムが遅い

という選手は、MASから算出したタイムだと主観的な強度は低く感じる設定になってしまいます。
これは Anaerobic Speed Reserve というものが原因で、現場における設定では主観的な努力度が概ね揃うように微調整が必要となります。

Broken Broncoの設定タイムを決めるうえでMASは大枠を示すものであり、狙った強度から著しく外れる選手がいないように注意してください。

走速度(設定タイムまたは距離)が決まったら、プログラムで実施する総ボリュームと、ラグビー選手としての走行距離バジェットを照らし合わせて、その日に実施するプログラムを決めます。

プログラムとして効果がある強度およびボリュームと、バジェットとの兼ね合いは非常に難しい作業です。学術論文と現場での経験知をフルに使い、可視化されたデータを見ながらプランを考えます。  

わざわざ"素走り"で時間と体力を投資するので、基本的にはラグビーの練習では賄えない走速度のゾーンに刺激を与えていきます。

最大公約数となるプログラムを考えながらも、個別性も併せて考慮していきます。

High Speed Run : 5m/s以上のランニングを1日で1000m以上走っても全く問題ない選手もいれば、HSRが600mで下肢の強いタイトネスを訴える選手もいます。
同じポジションでも、同じ選手が違う日に実施するだけでも、外的負荷と身体の反応については注意深く観察しましょう。

◆ランニングプログラムの例

どんなプログラムも対象を評価してから処方しているので、プログラム自体を丸々コピー&ペーストしないことが非常に重要です。
身につけるべきスキルは、課題を見つけだして解決する汎用性のあるフレームワークを身につけることです。今回の記事で紹介するプログラムも、必ず実施する対象の現状を把握してから実施するようにしてください。

MAS110%が基準のBrokenBronco プログラム例


チームでBroken Broncoを実施する際の例


タイム順に並べば、ゴールするタイミングも概ね端から順番になります。必ずビデオを撮ってもらい、設定が狙い通りであったか確認するようにしましょう。

集団内で最も速い選手と最も遅い選手の差が大きく、速い選手たちのレストが狙った以上に長くなる場合は、グランドを縦半分に割って左右でグループを分けるのもアイデアです。
また、一度に50人以上が走ってグランドの横幅が狭くなる場合は①先発 ②後発の2グループに分けて、先発がスタートした75秒後に後発がスタートすれば走っている最中に先発と後発が接触するリスクも回避できます。

Broken Broncoを実施する際はMAS110%程度から始めて、Lv4でも全てのrepでタイムをクリア出来たらMAS115%の設定にタイムを縮めましょう。
設定タイムはそのままでrestを縮めるProgressionは、回復が追いつかなくなり外的負荷の強度と内的負荷のギャップが大きくなる傾向がみられます。
現場では目的に合った変数を微調整してください。


◆おわりに

個人的に、ランニングプログラムの種類は走速度のゾーンと運動時間が異なる3種類もあれば足りると考えています。週に3回実施するとしても、ひとつの種目を週1回しかやりません。
適切なプログラムを実施できていればそれ以上走る必要は基本的にありませんし、バイクも併用すればキャパシティを向上させる"投資"としてはかなりの時間と体力を費やしています。
プログラムの種類が増えると、適切な設定で実施できるようになるまでの"捨てレップ"が生まれます。捨てレップは、現状に対して強度が高すぎたり低すぎたりするものです。
漸進的に負荷をコントロールさせるためには、MASや心拍数に基づいてシンプルな種目の変数を細かく調節する方が望ましいと考えています。

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