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ラグビー選手のランニングフィットネスに関する考察

◆はじめに

ラグビーというスポーツでは、選手の体力と時間の配分が非常に重要です。
選手ひとりひとりには1日、1週間、そして数週間といった期間で利用できる

"バジェット : 予算"

が存在します。

これは体力、走行距離、精神的エネルギー、時間など選手の有限なリソースを指します。

このリソースの配分には慎重になる必要があります。なぜなら、ラグビー選手にはトレーニングだけでなく、他にも多くの課題が待ち受けているからです。


◆なぜ持久力が必要なのか?

ラグビー界では持久力全般のことを"フィットネス"というローカルなスラングで表現しますが、こちらの記事では"キャパシティ"と定義します。

走動作を可能な限り高速で長時間、高頻度にて実施できる状態を"ランニングのキャパシティが高い"と表現します。このキャパシティは1日の許容量に限らず、高い要求があった日の翌日における回復の度合いも含みます。

強度の高い身体の衝突を多く繰り返すラグビー選手にとって、ラグビー界では"コンタクトフィットネス"というコンタクトのキャパシティも要求されます。今回の記事では、ランニングのキャパシティに焦点を当てて説明していきます。

持久力に欠ける選手をただ単に走らせることが、本当に効果的なのでしょうか?追加で提供するプログラムの運動形態に頭を悩ませるより、まずは状況を整理しなければいけません。


◆リスクとリターン


ランニングのキャパシティを高めるプログラムは、身体にかかる負担と得られるリターンのバランスをしっかりと考慮して設計されている必要があります。

負担が大きすぎれば選手は消耗し、リターンが少なければトレーニングの意味が薄れます。回復が追いつかずにパフォーマンスは日に日に落ちていきます。

カテゴリーやポジション、さらにはトレーニング歴などの文脈によって異なりますが、1試合で5000m前後走るプロップの選手が1週間で30000m以上走るようなプログラムはリスクとリターンが釣り合っていません。
ランニングのキャパシティが向上する前に、身体の構造的な耐性を超えて慢性障害を発生するリスクがあります。

そのリスクを冒すのであれば、リカバリーに多くの時間を割いて高い要求に耐え抜く準備をしなければいけません。


◆モニタリングで陥りやすい罠

また、ある選手が"平均よりも走行距離が低い"という理由だけで追加のランニングプログラムを課すのは、必ずしも最適な方法とは言えません。

個々の選手における要求を"チームまたはポジションの平均値"に設定することも一考の余地があります。平均値よりもGame Demandsに近づけるべきではないでしょうか。

Game Demandsから算出したチーム目標の平均値であれば、その値を日々の負荷として要求することは目的に合っているかと思います。

試合データのダッシュボード

つまり、実際の試合で求められる能力や状況に合わせたトレーニングを行うことが重要です。

そもそもなぜその選手が走っていないのか、その原因を探ることに時間を費やす方が遥かに価値があるかもしれません。

原因が明らかになれば、それに応じた適切な対処法を見つけることができます。
たとえば技術的な問題、体力の問題、または戦術的な理解の不足など、多岐にわたる可能性が考えられます。


◆モニタリングの有効活用

以前の記事でまとめたように、まずはGame Demandsを明らかにすることでGPSデータの"バジェット"を推定します。

そのバジェットをどのような配分で使うか、進捗を確認するためにダッシュボードを作成してGPSデータを可視化します。

選手ごとの負荷を可視化したダッシュボード



選手の過去〜現在における状況を正確に把握し、未来を予想します。

それでも尚、ランニングプログラムでランニングのキャパシティを高める必要があれば、バジェットの範囲内でプログラムを提供していきます。

次回以降の記事ではランニングのキャパシティを高める方法として、ランニングのプログラムとバイクのプログラムについて具体的な例を紹介します。

◆まとめ

このように、ラグビーのトレーニングにおいては、単純な量の追求よりも、質的な側面と戦術的な要素を総合的に考慮することが不可欠です。
トレーニングは、選手の個々のニーズに合わせてカスタマイズされ、継続的なパフォーマンス向上を目指すものでなければなりません。
選手一人一人のキャパシティ、スキル、戦術理解度を考慮し、それぞれに最適なトレーニング方法を見つけることが、チーム全体のパフォーマンス向上に繋がるのです。

最終的に、ラグビー選手のトレーニングにおいては、個々の選手が持つ能力と限界を理解し、それに基づいて最適なトレーニングプランを策定することが肝要です。

このアプローチによって、選手たちは自身のリソースを最大限に活用し、試合において最高のパフォーマンスを発揮することができるでしょう。

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