空白の数年

一番心が無になれるのは車の運転をしている時だと思う。

散歩をしたりコーヒーを飲んでいる時もぼんやりとはしているが、結構次から次へと考え事が浮かんでくる。
「あの仕事、そろそろ手をつけないとな」
「あの曲、続きの展開をこうしようかな」
「そろそろペーパーフィルターのストックが切れるな」
「あれ、今日何曜日だっけ、まあ何曜日でもいいんだけれど...」

車を運転していると、多少の緊張感もあるせいかあまり考え事は浮かばない。ラジオを聴く時もあるけれど、大抵は無音で過ごす。流れていく景色に身が溶け込み、ただただハンドルを操作し、アクセルとブレーキの感触を確かめている。
(一応ちゃんと運転に集中しているのでご心配なく...)

都内のスタジオへの行き帰りの小一時間、車に乗っている間に自分の中のスイッチがオンにされ、オフにされる。この時間が意外と愛おしい。

よく運転をするようになったの30歳を過ぎてから。
18歳ですぐ免許を取ったんだけれど車を持っていなくて、2,3年後に中古車を手に入れて乗り始めたものの、なぜか乗るたびにいつも細い路地に迷い込み、一方通行を逆走しそうになり、狭い駐車場で無限に切り返しをするはめになった。
実家のすぐそばのブロック塀が鬼門で、何度もあの忌まわしい「ガリガリ」という音を聞くうちに、あまり運転したいという気持ちが起きなくなった。

「自分には運転は向いてないんだな」
と、さっさと気持ちを切り替えて車を手放し、電車移動で読書を楽しむようになった。

しかし、家族が増えて「やっぱり車が必要だなぁ」と思い、再び車を手に入れて運転するようになったら、不思議なことに以前のように路地に迷い込むこともなく(たまにはあるけど)、進入禁止の標識を見逃さなくなり、狭い駐車場でも冷や汗をかくことはほとんどなくなっていた。

最初にも書いたように今では運転している時間は貴重な気分転換にもなっていて、どちらかといえば運転が好きな方かもしれない、とさえ思っている。なんだか不思議なものだなぁ、と。
きっとこの空白の数年の間に、上手くいかなかった何かが解け、ゆっくり歩み寄っていたのかもしれない。

でも残念ながら、縦列駐車は相変わらず苦手なままだ。



目指せ書籍化📓✨ いつかライブ会場のグッズ売り場にエッセイ集を平積みにしたいと思います。