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(バイサイドの弁護士からみた)LBOの実務・第2回 ①NDA締結→初期的情報開示、②MOU締結、③デューディリジェンス


はじめに

ども。弁護士の後藤慎吾です。

「(バイサイドの弁護士からみた)LBOの実務」第2回は、「M&Aフェーズのその1」について説明します。

前回の復習ですが、LBOは、①M&Aフェーズ、②ファイナンスフェーズ、③合併フェーズという3のフェーズを経てようやく最終形に辿り着く案件でした。

その中で、①M&Aフェーズについては、便宜上、2つの段階に分けて、
その1」では、M&A関連契約の交渉・締結の前段階のプロセスについて、
その2」では、LBOのスキーム的なところと各種のM&A関連契約について、
それぞれ取り上げようと思います。

「M&Aフェーズのその1」は、前回の投稿でアップしたスキーム図でいうと↓になります。

M&Aフェーズその1

それでは、①NDA締結→初期的情報開示、②MOU締結、③デューディリジェンスの順に説明していきましょう。

①NDA締結→初期的情報開示

M&Aの端緒

対象会社の株主(以下「対象会社株主」といいます。)が、対象会社の株式(以下「対象会社株式」といいます。)を売却したいと思ったら、買主候補者を探すことになります。対象会社株主が、同業他社や取引先などから自力で買主候補者を見つけ出すこともありますが(買主自力探索型)、それができない場合は、M&A仲介業者(以下「仲介業者」といいます。)に買主候補者の紹介を依頼することになります(仲介業者介在型)。仲介業者から勧誘されて初めて、対象会社株主が対象会社株式を売却しようとの思いに至ることもあります。

また、逆に、買主候補者の方で、公開されている情報などから対象会社の買収に興味を持ち、対象会社株主にアプローチすることもあります(買主アプローチ型)。

買主自力探索型と買主アプローチ型

買主自力探索型買主アプローチ型の場合は、すでに買主候補者は特定されていることから、
①対象会社株主と買主候補者の間でNDA(秘密保持契約)を締結
②対象会社が買主候補者に初期的な情報を開示
という流れで進んでいきます。上のスキーム図の「①NDA締結→初期的情報開示」ですね。

初期的情報開示というのは、買主候補者が対象会社の決算書などの基礎的な情報をもとに対象会社の企業価値などを評価し、弁護士、公認会計士、税理士などの専門家を入れたデューディリジェンス(買収監査)のプロセスに進むか否かを判断できるようにするための、買主候補者が対象会社株主から情報の開示を受けるプロセスをいいます。買主候補者が専門家にデューディリジェンスを依頼すると、その段階から専門家報酬の負担が発生することになるので、その前段階で、買主候補者が対象会社株主から一定の情報の開示を受けて案件成就の確度を独自に検証するわけです。

仲介業者介在型

対象会社株主が仲介業者に買主候補者の紹介などのM&Aアドバイザリー業務を依頼する場合、
①対象会社株主と仲介業者の間でNDAを締結
②対象会社株主が仲介業者に決算書等の情報を開示
③仲介業者が対象会社株主に企業価値評価書を提出
④対象会社株主と仲介業者の間でアドバイザリー契約を締結
⑤仲介業者が買主候補者にノンネーム(匿名)で案件を打診(ノンネームシートの提出)
⑥仲介業者と買主候補者の間でNDAを締結
⑦仲介業者が買主候補者に企業概要書(インフォメーションメモランダム)を提供
という感じで進んでいきます。

これを図に示すと以下のような感じです↓

仲介業者介在型

⑤のノンネームシートは、仲介業者が対象会社株主から入手した情報をもとに対象会社を特定できない形で作成した、対象会社の情報をごく簡単にまとめた書面です。ノンネームシートよりも詳しめに対象会社について説明した書面をティーザーということもありますが、いずれも対象会社が特定できないように記載されている点では共通します。買主候補者は、それらの内容を検討し、次のプロセス(⑥仲介業者との間でNDA締結→⑦仲介業者から企業概要書を受領)に進むべきか否かを判断します。

⑦の企業概要書(インフォメーションメモランダム)は、仲介業者が対象会社株主から入手した情報をもとに対象会社の名称を明かにした形で作成した、対象会社の組織構成、株主構成、業務内容、財務情報、業績予想、業界動向などの情報をまとめた書面であり、ノンネームシートやティーザーよりもかなり詳細な内容のものです。買主候補者は、企業概要書に記載された情報や仲介業者を通じて得たその他の対象会社に関する情報をもとに次のプロセス(上のスキーム図の②MOU締結→③デューディリジェンス)に進むべきか否かを判断します。

「NDA締結→初期的情報開示」の段階での弁護士の関与

「NDA締結→初期的情報開示」の段階で締結される契約としてNDA(秘密保持契約)がありますが、これは定型的なひな形を使用して締結されることから、バイサイドの弁護士が、買主候補者からNDAのレビューを依頼されることはあまりなく、次のMOUの作成・交渉の段階でお声がかかることが多いです。

②MOU締結

LOIとMOU

買主自力探索型買主アプローチ型の場合、買主候補者が、初期的情報開示のプロセスで入手した情報を踏まえ、デューディリジェンスのプロセスに進もうと判断した場合には、対象会社株主に対して、買収スキーム、譲渡価格、クロージング後の経営方針などを記載した書面LOI(Letter of Intent/意向表明書)といわれます。)を提出し、それについて対象会社株主が了承できる場合には(了承できない箇所がある場合には両者で交渉のうえ)、対象会社株主と買主候補者の間でMOUを締結することが多いです。買主候補者はその後のデューディリジェンスの結果などを踏まえて条件の変更ができなければいけませんし、そもそも案件を断念するべき場合もあるので、LOIに記載される事柄には法的拘束力がないことが前提となります。

他方で、仲介業者介在型の場合は、仲介業者は、多数の買主候補者に対して案件を打診するため、複数の買主候補者からLOIが提出されることもあります。デューディリジェンスの前の段階で、買主候補者からLOIの提出を受けて、買主候補者を一本化することもありますし、複数の買主候補者との関係でデューディリジェンスを走らせたあとに、LOIの提出を受けることもあります。仲介業者介在型の場合でも、買主候補者が一本化された場合には、対象会社株主と買主候補者の間でMOUを締結することが多いです。

いずれにしても、バイサイドの弁護士は、この辺りのプロセスで、クライアントから連絡をもらい、案件の概要について説明を受け、業務をスタートさせることになります。

MOUの内容

MOUは、Memorandum of Understandingの頭字語であり、日本語では、基本合意書といわれます。

MOUは、それまでのプロセスですり合わせた買収スキームや譲渡価格などの諸条件のほか、その後の買収プロセスについて書面で明らかにすることを目的として、対象会社株主と買主候補者の間で締結される法的文書です。

具体的には、M&Aに関するMOUでは、
買収スキーム
譲渡価格
譲渡対価の資金調達の方法
クロージング後の対象会社の経営方針
デューディリジェンスを含むMOU締結後のスケジュール
独占交渉権の付与
秘密保持
などの事項が定められます。

また、PEファンドがスポンサーとなるLBOでは、クロージング後に対象会社の役員の一部にSPCの株式を保有してもらい、対象会社の業績向上のインセンティブを持たせることが多いので、MOUに、
当該役員のSPCの株式の取得割合
当該役員とスポンサーとの間で締結される株主間契約の基本条件
といった事項も定めます。
このようなSPCを使った役員再出資型のバイアウトは、一般的に知られている取引ではないため、買主候補者が対象会社株主に対してスキームやその条件について説明し、対象会社株主から理解を得たうえで、その大枠についてMOUで定めておくことが重要です。

ただし、先ほど述べたLOIの提出のタイミングと同様、MOUが締結されるのはデューディリジェンスが行われる前(段取りが悪いとデューディリジェンス開始後にずれ込むこともありますが・・・)ですので、デューディリジェンスの過程で買主候補者に明らかになった情報次第では、譲渡価格を引き下げる必要が生じることもあるでしょうし、また、解決しないと買収プロセスを進められないような重大な問題が対象会社にあった場合には、スケジュールを変更するべき場合もあります。ですので、上記の①~⑤、⑧、⑨に関する合意は法的拘束力がないと定めるのが一般的です。法的拘束力がないのならわざわざMOUで定める必要がないじゃん!と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、法的拘束力がないにしても書面で明示されているとそれと違う条件を持ち出すには合理的な理由がないとやりにくいので、MOUで条件設定することにはやはり意味があるのです。

他方で、⑥独占交渉権の付与と⑦秘密保持は法的拘束力があるものと定めます。買主候補者からすると、MOUが締結された後に費用を負担してデューディリジェンスを実施しているのに、対象会社株主が勝手に第三者に対象会社株式を売却してしまうと困ったことになりますし、対象会社株主からしても、買主候補者がデューディリジェンスの過程で入手した情報を勝手に公にしてしまったら困るわけですので、これらの条項は法的拘束力のあるものとして規定する必要があるわけです。

対象会社株主と買主候補者との間でMOUが締結されると、両者の間でM&Aの大枠について意思確認ができて、その後のデューディリジェンスで大きな問題点が発見されなければそのままディールが成立する可能性が高いので、対象会社株主と買主候補者にとって、MOUの締結は、M&Aフェーズの中で重要なプロセスの一つになります。

③デューディリジェンス

デューディリジェンスの目的

M&Aの文脈でのデューディリジェンスDue DiligenceDD)とは、買主候補者や買主候補者が依頼した専門家が、対象会社から資料の開示を受けたり、役員に対してインタビューを行うなどの方法によって、M&Aの実行に障害となる事象企業価値評価に影響を与える事象の有無などの調査を行うプロセスをいいます。

デューディリジェンスの目的は、上述の①M&Aの実行に障害となる事象と企業価値評価に影響を与える事象の有無を確認することにありますが、それ以外にも、買主候補者に対して、②クロージング後に対象会社を運営するうえで必要又は有用な情報を提供することという目的もあります。ただ、②の目的をどの程度充足させるかによって、デューディリジェンスの範囲や深度が異なり、それに応じて専門家報酬の金額も異なってくることから、デューディリジェンスを実施する前の段階(実際には専門家の買主候補者への専門家報酬の見積書の提出や両者間の委任契約の締結の段階)で、買主候補者と専門家の間で目線を合わせる必要があります。

デューディリジェンスの種類

デューディリジェンスでは、①ビジネスの観点、②法務の観点、③財務の観点、④税務の観点から、それぞれ調査・分析を行うことが一般的です。
①のビジネスDDは、買主候補者自ら行う場合のほか、買主候補者に対象会社の業務について知見がない場合には、コンサルに依頼して行わせる場合もあります。
また、②の法務DDは、買主候補者から依頼を受けた弁護士事務所が行い、
③の財務DDと④の税務DDは、買主候補者から依頼を受けた会計税務事務所が行います。

デューディリジェンスの方法

デューディリジェンスは、
①買主候補者と各専門家が対象会社株主に資料開示依頼リストを提出
②対象会社株主/対象会社が資料開示依頼リストに基づいて資料を開示
③買主候補者と各専門家が開示資料の内容を検討し、追加の資料開示の依頼やQ&Aシートで質問をする
④対象会社株主/対象会社が追加資料の開示やQ&Aシートの質問に回答する
⑤買主候補者と各専門家が・・・
という感じで進んでいきます。

上記の③と④のやりとりを何度か繰り返すと、買主候補者と各専門家の方で対象会社について粗方理解できる状態になります。このようにある程度調査が進んだ段階で、対象会社の役員に対して対面やオンラインで質問し、回答を得るマネジメントインタビューというプロセスを実施することが多いです。それまでの書面上でのやりとりだけだと互いの真意が伝わらないことがありますし、口頭での臨機応変な質疑によってそれまでの調査の間隙を埋めることもできますので、私は必ず実施してもらうようにしています。

デューディリジェンスが進むと、依頼を受けた専門家は、買主候補者に対して中間報告を行い、調査終了の段階では最終報告を行います。いずれも、デューディリジェンス報告書を作成し、それに基づいて対面又はオンラインで報告するのが一般的です。

法務デューディリジェンス

法務デューディリジェンスでは、
会社組織ー機関、役員、組織構成、社内規則、組織再編、子会社など
株式ー株式の発行状況、株主構成、新株予約権など
資産ー重要資産の所有・賃貸借状況、知的財産、保険、ITなど
負債ー銀行借入れ、偶発・潜在債務など
業務・許認可ー商流、事業上の契約、許認可、コンプライアンスなど
労務ー従業員、労務関係規則、労使協定、労働時間、労務紛争など
紛争ー訴訟その他の紛争、クレームなど
といった分野について調査・分析を行います。

バイサイドの弁護士としては、法務デューディリジェンスを開始する段階では企業概要書ぐらいしか対象会社に関する情報がないので、対象会社株主に対して網羅的な資料開示依頼リストを提出し、そのリストに基づいて対象会社から開示された資料で粗々ながらも対象会社の概要を把握し、その検討の過程で生じた疑問点などをQ&Aシートのやり取りなどで一つ一つ潰していって最終的にデューディリジェンス報告書に調査結果をまとめることになります。

LBOとの関係での特殊性としては、スキームの特性上、SPCと対象会社とが合併することが予定されていることから、そのことが対象会社の権利関係などに何らかの法的な影響を及ぼさないかについて検討することが必要になります。例えば、業務・許認可の分野との関係では、事業上の契約を検討する際には、Change of Control条項(対象会社の支配権の移転が契約の効力などに影響を与えることを規定した条項)がないかを検討することはM&Aのデューディリジェンスで一般的に必要となりますが、LBO案件のデューディリジェンスでは対象会社の合併が契約の有効性などに影響を及ぼさないかを併せて確認することになります。また、対象会社が許認可を受けて業務を行っている場合には、対象会社が合併によって消滅することで、その許認可は無効となってしまうのか否かも検討する必要があります。

おわりに

ようやく「(バイサイドの弁護士からみた)LBOの実務」の第2回の最後までこぎつけましたが、意外と書くことが沢山あって、ここまでくるのにかなり時間をとられて今回も大変でした。。
果たして最終回の第5回まで辿り着けるのだろうか。。
めんどくさくなって途中で放り出してしまいそうな。。

ではでは。。

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