海とスコーン

海とスコーン


 誰かとセックスした後

 風呂入っても鉄臭さが抜けない

 頭が痒い

 突かれてる最中ずっと

 ドゥルーズの『マゾッホとサド』のことを考えている

 「快感は、遅れて、迂回して、宙吊りになるからこそやってくるのであり」

 スコーン早く食いたい

 わたしは終わるとすぐに食べられるよう

 スコーンを焼いておくのが日常

 その角で誰かの喉を切っ裂けるよう

 わたしを乱暴に扱う貴様

 誰かれ構わず乱暴させるわたし

 終わった後のスコーンはひたすらに美味い

 遅れてようやく食えるからだ

 わたしは痩せ過ぎて妊娠しない

 みんな死ぬ

 膣内で行き場を失った精子達

 スコーンに貪りつくわたし


 だが彼はコンビニエンスな快楽だと言った

 誰かとのセックスはコンビニで買えると

 わたしと彼とはコンビニエンスな関係で出会った

 今泉公園のファミマ前は

 待ち合わせの聖地だと言われている

 ファミマで買えるお菓子ではなく

 彼はミスドのドーナツを買って来た

 Mr.ドーナツの穴

 わたしはそこに指を出し入れするのはまだかと

 早く終わればドーナツが食える

 しかし彼は手の甲にキスをしてわたしを抱きしめ

 その日精子は死ななかった


 わたしは女であり

 わたしは不感症である

 「肉体の感動というものがないのである。」

 坂口安吾が言う

 わたしは海である

 冷たく、暗い海である

 全てのいのちは海から来て海に還る

 わたしは女であり妊娠しない

 だからからだを誰彼もが求める

 快感は波

 寄せては引くを繰り返す

 わたしはとてもつまらないと思う


 コンビニで海は買えるのか


 「誰か」とのセックスだから

 スコーン早く食べたいのか

 快感が遅れてやって来るのなら

 幸せも迂回して、宙吊りになってやって来て良い

 彼の唇が手の甲にある

 額にある

 太腿の裏にある

 時間が終わらないのが

 永遠に続けば良い

 彼は丁重にわたしを扱う

 精子は死なずとも

 わたしは女でなくても良い


 わたしは海であって良いのだ

 精神の感動


 その瞬間

 不感症とスコーンはとても

 つまらなくなる

 「快感はほんのわずかな時間で終わり

 永遠に続く快楽のことを幸せと言う」というのは

 わたしの言葉

 わたしはひとつになる

 わたしの体を優しく抱きしめる

 遠い過去の母の温もり

 今現在の彼

 未来のわたしと何処までも続く

 海

 いつからもいつまでもある

 海


 取り敢えず水は買えた


 セックスの後はやはり

 頭が痒く それは

 わたしは天パとしか突き合ったことがなく

 風呂に入るのもスコーンを食べるのも

 後回しになるからで

 浴槽に湯を張る

 濡れたた髪が

 ドーナツ状の輪になり

 臍に届き

 海岸とわたしの体をつなぎ

 臍の緒になり

 波が寄せては返し鉄臭さが削れ

 血の臭いに

 段々と

 潮の匂いに変わり

 わたしは敢えてスコーンを口にし

 柔らかくホロホロと蕩ける切っ先で

 肉をつけ

 妊娠出来る体になることを思う


 快楽を永遠に続けていたい

 砂砂糖が口に

 海だ


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