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アジアカップ・カタール2024 グループステージ 日本 対 ベトナム(2)

2024年1月14日(日)にカタール・ドーハのアルトゥマーマ・スタジアムで行われたアジアカップ・グループステージ初戦の日本対ベトナムについて、ゲームが終わった後、ベトナムリーグ1部(もちろんプロリーグです)のタインホアFCで監督を務めるブルガリア人、ヴェリザール・ポポフ氏と交わしたメッセージを日本語に抄訳します。

今回の日本のゲームは、1982年以降、自分が見てきた日本代表のゲームの中でワーストだった。
ACLでの浦和レッズのゲームも同じようにガッカリだった。日本サッカーに何が起きているのかわからないが、大幅に退行しているように見える。

ヴェリザール・ポポフ

「ACLでの浦和レッズのゲーム」というのは、2023年12月6日、ハノイのミーディン・スタジアムで行われたACLグループステージの最終節で、ハノイFCが浦和レッズに2-1で勝ったゲームのことですね。後でわからなくなるといけないので記しますが、この時はまだ、ハノイFCは岩政大樹監督ではありません。

(日本代表の)選手たちは、10%の力で、歩きながらプレーして勝てるとでも思っていたのだろう。しかしそれは、フットボールに対する敬意を欠いているし、そのうち大きな代償を払うことになるだろう。

ヴェリザール・ポポフ

私はある程度の賛同を示しつつ、欧州のビッグクラブでプレーしている選手たちはアジアカップでケガをしたくないという心理もあるだろうと答えました。これまでに、アジアでのゲームで選手生命を左右するような大ケガをさせられた選手が多いことも指摘しましたた。でも、イエローカードを受けたのは、日本1、ベトナム0というのも面白いねとも言いました。

彼らは目に見えて相手を過少評価していた。こういうことは、アフリカや南米の選手たちにはよくあることだが、日本の選手からこういうメンタリティを見るのは珍しい。これまでに見たことがなかった。

ヴェリザール・ポポフ

私はこれに対して、
・日本サッカーはまだ発展途上だ。
・日本の選手にとっても指導者にとっても、これほど高いFIFAランキングで「追われる立場」としてアジアに君臨するのは初めての経験だ。
・そのため、メンタリティの面でも迷いが生じることもある。世界のサッカー界で、初めて高い地位を得た今、アイデンティティを形成・構築する途上だということだ。
と答えました。

そうだね。今や200人以上の日本人選手が欧州でプレーしている。すごいことだ。

ヴェリザール・ポポフ

私は、「選手も、指導者も、解説者も、まだこの高い地位にある自分たちの立場を消化しきれていない。サポーターも同様だ」と答えました。

1998年のフランスW杯本大会に出られることが決まった時の「行っていいんですか? いいんです!」から25年。日本サッカー界は「欧州組100人超」まで発展しました。

ただ、ここまで高い地位に君臨するのが初めてだということを、日本のサッカー人は意識していなければなりません。今こそ、アイデンティティを確立する時期なのだと思います。今回のアジアカップは、優勝候補筆頭として、グループステージではなくノックアウトステージ以降に照準を合わせることになるといった事情もあるでしょう。ラフプレーや審判の基準の違いがある中で、ケガもしたくないでしょう。そういった事情の中で、どう強い代表チームを維持していくのかが問われています。

2022年のカタールW杯では、「新しい景色(ベスト8以上)」を見たいと望んで、それを果たすことはできませんでした。でも、今、日本サッカー界が手にした世界からの高評価は、新しい景色そのものです。その中でどう振舞うのか。どういう行動をとっていくのか。

「新しくJリーグができた」「初めてW杯本大会に出られた」「初めて…する日本人選手が出た」というようなわかりやすいことではありませんが、サッカーに携わる人は、日本サッカー界が「初めて高い地位にいる状態」であることを意識して、常に挑戦し続ける姿勢でいなければならないのだろうと思います。その中で、アイデンティティが形作られていくのでしょう。

追記(2024年1月20日)
昨日、第2節で日本代表がイラクに敗れたことを受けて、ポポフ監督に "Japan has been punished. As you said." と送ったところ、すぐに応答がありました。

彼らは対戦相手をかなり軽視していた。ノックアウトステージに進出できることはわかっているから、そこから真剣に戦えばいいということなのだろう。しかし、(相手を軽視して手を抜くような)このメンタリティのままでは、この大会でポジティヴなものを得ることはないだろう。

ヴェリザール・ポポフ

私は故ベッケンバウアーの「強いチームが勝つのではない。勝ったチームが強いのだ」という言葉を反芻していました。サッカーの強さの指標は、個々のゲームでのスコアと、それによる大会での成績こそが最大のもの。ポゼッション率で優っても、スコアで勝たなければいけません。どんなに良い選手が揃っていても、スコアで負けて、大会で上位に入らなければ、「強いチーム」ではないことになります。欧州で何人プレーしているかを競う競技ではありません。
もちろん、ポポフ監督に対しては、日本代表が今、置かれている「新しい景色」のことを強調したかったのですが、それはベトナム戦の後に「日本サッカーはまだ発展途上だ」という話をした中である程度表現していたので、それ以上言い訳がましいことを言うのはやめました。

以前から自分が日本のサッカーを高く評価していたのは、プレーのクオリティだけでなく、常に100%、最大のインテンシティで闘うメンタリティが好きだったからだ。ところが、この大会ではメンタリティの面で、悪い意味での驚きがあった。以前のような闘うメンタリティが見えない。この2試合は、直近5年間の日本の試合の中で最悪なものだ。

ヴェリザール・ポポフ

私は、「2021年12月に埼玉でやったカタールW杯アジア最終予選の最終節の日本対ベトナムも似たような感じだったよ。でも、あの時は、前のゲームでW杯本大会出場を決めたばかりだったわけだけど」と応じました。

あの時はそういう(W杯出場を決めた直後で勝ちが必須ではなかったという)事情があった。今回は違う。大会のスタート時だ。もし、スター選手たちがまだプレーしたくないということなら、代わりに闘える若い選手がたくさんいるはずだ。インドネシア代表を見るといい。彼らはU21の選手をたくさん使っている。

ヴェリザール・ポポフ

アジアカップや、W杯のアジア予選の一部では、欧州組ではなく国内組を主体にした代表選手選考をするのが良いのではないかとも言われています。どの大会を重視するのか、どの大会で一番強い日本代表を形づくるために、どんな選手をどこから招集するのか。無限にある組み合わせの中で、「これが日本のやり方」というものを作っていくのは難しい作業だと思います。試行錯誤しながら経験を積み、歴史をつくっていくしかありません。

とはいえ、今大会で一番、選手のクオリティが高いのは日本だと思うし、私も一番気に入っているチームだ。ノックアウトステージでは違った闘い方を見せてくれるだろうと思っている。

ヴェリザール・ポポフ

私もそのように祈っています。