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【ショートショート】浮遊層スーツの開発

「できたぞ!今度こそ完璧だ。」人型のデロンデロンのゴムのような生地のスーツを高々と掲げ博士は満面の笑みで叫んだ。
「まだ喜ぶのは早いのでは?前回の件もありますし、試着してみない事には・・・」
「わかっている。今着てみるから、見ていてくれ。」博士はそのスーツを慎重に、かつワクワクしながら身にまとっていった。完全に着終わると、博士は体操のような動きを見せた後、それっ!と床を強く蹴り跳ね上がった。
「まさか・・・」助手は空中に浮かび上がった博士を見て、今度こそ大きな拍手をした。
 博士は右へ左へ自由に飛び回り、最後は得意げにくるりんぱと回転し地面に着地した。
「博士よくぞやりました!すばらしい!人類の長年の夢がまさか目の前で叶うなんて、あなたは天才だ!ぜひ、私にも試着させてください!」
「そうだな。ついに完成して、天にも昇る気持ちだよ。あ、本当に昇っちゃおうかな!なんちって!ガハハハハ」博士は上機嫌でスーツを脱ぐと助手に渡した。
 私もはたして飛べるのだろうか・・・ちょっと怖いし信じがたいが、これで飛べたら世界で二番目に飛んだ人間となる。さあ、やるぞ。助手は心の中で色んなことを考えながらスーツに着替えた。「では、心して・・・それっ!」助手は勢いよく床を蹴り上げると、そのままジャンプして着地した。「あれ、あれれ?」それから何度もジャンプしているが、まったく浮かぶ様子は見られなかった。
 博士は、汗だくになっている助手のもとへ近づき「おかしいな・・・君飛ぶ気ある?」と言うとまたガハハハハと笑った。

 その後、各機関へ人類初の人力飛行に成功した旨を連絡すると、世界中から取材のオファーが殺到した。
 博士は屋外でも試してみた。何度も飛んでるうちに要領がつかめたのか、鳥のように優雅に飛べるようになった。しかし、助手は何度やってもダメだった。この不具合を調査すべく、色んな人にスーツの試着と浮遊実験を行い、結果をまとめていった。

「はっきりとは言い切れませんが、大まかな原因がわかりました。」博士は調査結果の報告を世界会議で発表した。
「私は1000人にも及ぶ実験と調査を行いました。その対象者は、人種、性別や年齢、運動神経の良し悪し、病気や障がいの有無など多岐にわたるものです。その結果、ひとつの仮説にたどり着きました。」会場の大きなスクリーンモニターには、実験成功した動画が映し出された。
「えー、人類が浮けるか浮けないかは、浮ついた気持ちがあるかどうかです!」会場は一瞬にしてざわつき始めた。
「博士、冗談はほどほどにお願いします。地球の未来がかかっているんです。」
「諸君、私は冗談など言ってるのではありません。スーツの生地は重力の操作をする特殊な素材を使っております。その素材は人体から発せられるエネルギーを受けて初めて特別な力が働くようにできているんです。開発当初私は、そのエネルギーは本人のやる気など強い熱意からくるエネルギーをイメージしていたのだが、どうやら違ったようだ。気持ちがウキウキして危なっかしい、嬉しい気持ちでそわそわして落ち着きがないような、そんな浮ついた心がエネルギーだったんです。」博士の発言が終わると、会場はざわつきを増した。
「お静かにお願いいたします。博士、その仮説が正しかったとして、いったいどんな人が浮遊を体験したのでしょうか?」
「ま、主に・・・子供や、付き合いたてのカップルなんかが多いね。あとは、私のように年寄りでも、体が不自由でも、気持ちがウキウキしている人は浮いたがね。そんなやつらが浮遊層ってわけだな。」参加者は皆、首をかしげいかにも呆れた表情を浮かべた。
「他に質問がある方?無ければ以上を持ちまして『人口増加に伴う土地開発及び空中移住計画世界会議』を終了いたします。」

「博士、今度はどんなスーツを開発しているのでしょうか?」
「浮遊層向けのスーツがひと段落したんでね、今度は、君たち浮かない人たちに向けて海の底を歩けるように、海底スーツを作っているんだよ。・・・待てよ?浮かないんだから、スーツが無くても歩けたりして・・・んなわけないかっ!ガハハハハ」


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