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【ショートショート】眼科医の苦悩

「あなた相当、目が悪いのでは・・・これじゃあ何も見えないでしょう?」
「いえ、多少は見えてますよ。目先の事ぐらいは見えてるつもりですけどね。」
「でも、将来的な事は見えてないんでしょう?」
「そうですね・・・真っ暗です。」
「それでは、こちらの計画書をお渡ししますので、家に帰ったらここに人生プランを記入してください。そして毎日忘れずに眺めて、目標に向かってまずは行動してみてください。ではお大事に。」

「最近多いですね。この手の相談。」
「多いですよ。現代病でしょうね。」

「先生先生!私ずいぶんと目が良くなったみたい!結婚も決まって、将来も見えてきて幸せMAXって感じ!」
「それは何より、おめでとう。だけど・・・見えてるかな?周り。自分の事も大事だけど、周りも見えてないと、車と同じで事故っちゃうからね。まだ完治というわけではないから、引き続き客観的に見るリハビリは続けた方がいいよ。ではお大事に。」

「今の方、最近リハビリさぼってましたからね。」
「まあ、周りが見えてないのは一過性のものかもしれないから様子見だね。」

「次の検査待ちの方、お入りください。」
「それでは、今から私が手にする物を見てどんな形をしているか答えてくださいね。はい、どうぞ。」
「長方形の紙?」
「そうですか、もう少し近寄っても良いですよ、いろんな角度からもう一度よく見てください。」
「そう言われても・・・ちょっと厚みのある長方形の白い紙ですかね。何度見ても同じですよ。」
「あれ?あなたその眼鏡いつからかけてます?まずいですね、すぐ外した方がいいですよ、その色眼鏡。」
「えっ?いつからって知りませんよ。そんなものこっちだってかけてるつもりなんてなかったんだから。」
「じゃあ、私が外しますよ。こちらに来てください。さっきあなたが長方形の白い厚い紙とお答えしたこちらの物体は、紙ではなく立体です。裏は赤色です。しかも上から見ると丸です。つまり円柱なんです。」
「えーっ!まじかよ!って俺何見てたんだ、恥ずかし・・・」
「あんな眼鏡をかけていたら、物事を立体的に見ることができなくなり間違ったままで良し悪しを決めつけてしまうことになりかねない。これは非常に危険な眼鏡です。億劫がらず、多方面の情報を収集することが真実に近づける唯一の方法です。あなたも、自分の悪い面だけ見て判断されたくないでしょう?」
「たしかに・・・」
「視力矯正用に、この円柱の置物を差し上げますので、いつでも多角的に物事を見られるように意識してトレーニングしてみてください。ではお大事に。」

「円柱、発注しておきますね。」
「そうだね。よろしく頼むよ。」

「先生・・・見えないんです。だから認定書くださいよ。もう次々と色んな事が起こるし私の体は一つしかないんだから。目だって悪いんだから。お願いしますよ。」
「何度もお伝えしてますが、あなたの場合は見えないのではなくて、見ようとしていないんです。人は面倒な事や辛いことから目をそらしがちです。でも、いくらそらしても、見えないふりをしても、事実は変わらないのです。それにあなたもわかっているでしょう。解決できるのは私ではなく、あなたしかいないのです。あなたの心が決まれば、必然的に見れるようになります。見たいものしか見たくないなんてそんな都合の良い話は・・・」
「イタタタタタ!」
「どうしたって言うんですか今度は。」
「痛いんだよ耳が。」
「どれどれ、あー、タコができてるね。良い耳鼻科医を紹介してあげるよ。」

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