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[第1回]立ち合い出産できない?~パパたちの“産前産後”事情~

こちらの記事は,『チャイルドヘルス2023年1月号』に掲載されたものです.



【はじめに】


『チャイルドヘルス』は,子どもの保健と育児を支援する専門誌として,毎号,子どもにかかわる専門職の皆さんに役立つ情報をお届けしています.
本誌の2023年1~12月(26巻1~12号)にて,連載「奮闘するパパ,揺れるパパ」をご執筆いただいた渡邊先生は,産後ヘルパーの会社を運営されています.このほか,マタニティ夫婦向け講座の「両親学級」の講師を務められたり,男性育児に関する書籍を多数出版されたりするなど,幅広くご活躍されています.
子育てを頑張りたい,でも,世間にはびこる「性別役割分業」「子育て神話」に戸惑っている……そんな迷える男性にどう向き合ったらいい? 
渡邊先生が紹介してくださる事例をみながら,一緒に考えていきましょう!


【渡邊大地先生 プロフィール】


株式会社アイナロハ代表取締役。札幌市立大学看護学部助産学専攻課程非 常勤講師。1980 年,北海道札幌市生まれ。産婦人科や自治体などで産前産後の夫婦向けの両親学級,ワークショップを実施。受講者は累計 2 万人を超える。『産後が始まった!』(カドカワ,2014),『ワタナベダイチ式!両親学級のつくり方』(医学書院,2019)ほか著書多数。


『チャイルドヘルス』読者の皆様,はじめまして。札幌出身で,現在埼玉県在住の渡邊大地と申します。

株式会社アイナロハという産後ヘルパー会社を経営しており,私自身は,産婦人科や保健センター等で「両親学級」というマタニティ夫婦向け講座の講師をしています。

直接お会いしたことはなくても,よく拙著を産院の待合室に置いていただいているという話を聞きますので,

『産後が始まった!』『赤ちゃんがやってくる!』(カドカワ)などの漫画をご覧くださったことがある方はいるかもしれません。

このたび本誌にて,「子育て世代からよく挙がるパパの戸惑いエピソードを紹介しつつ,現場でそれにどう向き合っていくべきかを考える」というテーマで連載を務めさせていただくことになりました。

パパたちのこと,そして子育て真っ最中のご夫婦のことを考えるきっかけになれば幸いです。

コロナがよい波をさらってしまった?

 
 2019 年 7 月に医学書院から出ました『ワタナベダイチ式!両親学級のつくり方』という本があります。同社の助産師さん向け月刊誌で数年にわたって連載したものをまとめた,両親学級等の子育て夫婦向け講座運営のハウツー本です。

 このなかで,「いつかは両親学級がオンラインで開催される時代が来るかもしれませんね」というようなことを書きました。このときはコロナ禍が訪れる前のことで,まさか両親学級がオンラインで行われることなどないだろうという想定のもと,「両親学級も変化が必要だよ」という意味で,あえて対極にあるような世界を例に出したんです。
 それが,半年後には世界中がコロナパニックになり,“普通の”両親学級が軒並み閉鎖においやられ,あれよあれよとオンライン学級が浸透していったんですから,驚きです。

 両親学級だけではありません。出産事情もさま変わりしましたよね。
 これを執筆している 2022 年秋の時点でコロナ感染状況は徐々に落ち着いてきたものの,全国的に妊婦健診への夫の同伴を認めている産院は少なく,立ち会い出産は制限され,出産後の入院中の面会はできず,妻と赤ちゃんが退院するまでパパは会うことができない,というのが主流です。
 一時ほどではありませんが,感染を危惧して里帰り出産を控えるご家族もいます。

 私がマタニティ向け講座を始めた 2012 年,当時はまだ両親学級ではなく「父親学級」とよんでいました。世間からは「父親学級って何それ? 出産するのは母親なのに?」という反応でした。ですが,なかには「父親にこそ情報が必要だ!」と賛同してくださる方,産院,行政があり,徐々に認知されていきました。
 『ワタナベダイチ式!両親学級のつくり方』が出た2019 年には,両親学級に類する健康教育はすっかり認知され,独自に開催する産院や行政が全国に広がり,「妊娠中に両親学級を受ける」ことは珍しくなくなりました。マタニティ雑誌にも,パパ向けページがあるのが普通になりました。産院関係者さんは「妊婦健診に夫が付き添うことも,ここ数年でぐっと増えた」といいます。両親学級に出たり妊婦健診に来たりすると,情報が得られますから,パパたちも立ち会い出産に前向きになったり,積極的になったりしてくれる,という流れができてきました。
 パパたちにはよい波が来ていたんですよね。

 それが,コロナ禍で一気に閉ざされてしまいました。まあ,2020 年以降初めて妊娠したというご夫婦にしてみれば,以前も以後も関係ない話ですが私のようにパパの変遷を十年追いかけてきた人間からすると,「せっかく……」という思いが強いわけです。


「立ち合い出産って,いいモンですか?」


 先日,あるプレパパ(パートナーが妊娠中の男性)か ら「渡邊さん,立ち会い出産って,いいモンですか?」と尋ねられました。
 この質問に答えるには少し慎重さが必要です。
 コロナの前は,「立ち会いしようかどうしようか迷っていて,よいものならしてみたい」というニュアンスで受け止められた質問ですが,今となっては「立ち会いしてみたかったけどできないので,感想だけでも聞きたい」という意味合いをもつんですよね。
 「立ち会い出産はいいよ~」と迂闊に答えるのもはばかられますよね。

 コロナ禍で情報不足になってしまったパパたちに,私たちはどのようにかかわっていくべきなのでしょうか?

 先ほど,私の本のなかで「いつかは両親学級がオンラインで開催される時代が来るかも」と述べたら,果たしてそのとおりになってしまった,と書きましたが,実はこの本で私はもう一つ「予言」(?)をしていました。
 「いまどき両親学級が団体指導なんて古い。個別受講にするべき―という時代が来るかもしれない」というものです。
 これもコロナ禍の前だったため,そんな非現実的なことは起こり得ないでしょ~と思って書いたものでした。ところが,オンライン学級を始めた際に,どうせ事務所からいつでも実施できるから,お客さんの都合で開催日程を決めようと思い,個別開催に踏み切ったところ…… これが人気が出たという。
 弊社で行っているオンライン両親学級は,グループ受講(月 1 開催)と個別受講(都度開催)と両方あり,個別のほうが料金が高いのですが,個別受講の申し込みは絶えません。
 どうやら最近は,集団指導よりも,個別受講でリラックスして学べるほうがいい,という子育て夫婦が少なくないようです。


「来月なんかどうですか?」


 では,なぜ個別受講が好まれるのでしょうか。
 それは,産婦人科や健康教育の場が,パパたちにとって「アウェー」だからですよね。
 ただでさえ近寄りがたい場所だったのに,コロナ禍で健診の同伴に制限が出て以来,パパにとって産婦人科のアウェー感は増しています。
 女性が,初めて「妊娠したかもしれない」と思って産婦人科を受診するときって,緊張感があると思うんですよ。どんな先生かな,診察室はきれいかな,同じくらいの年の患者さんもいるのかな……などなど。それでもまだ患者さんは皆さん女性ですから,いくらかマシかもしれません。入ってみたら,スタッフさんも女性が圧倒的に多いですしね。
 その環境にパパが放り込まれるとしたら,これはなかなかの大冒険です。 
 よく「両親学級に来るパパは合格。問題なのは,来ないパパだ」という意見を聞きますが,何が合格かは置いておいて,まず来ることへのハードルがとても高いことは知っておくべきです(コロナ禍以降,さらにハードルが上がっています)。
 産婦人科で集団指導となると,“女性のため”の場所で,多くの女性のなかに,パパが数名いる……「女性と男性」という構図になりがちです。ですが個別受講の場合,「夫婦と講師」という構図です。
 どちらがパパにとって心強いかというと,間違いなく後者ですよね。それが人気の理由なんだと思います。

 何の話をしていたのかというと,産前産後のパパたちへの専門職のかかわり方について,このような考えを大事にしていくときではないか,という話です。
 情報の少ないパパたちに対して,「いつでも相談に来てください。両親学級も毎月やってます」という,産婦人科側で待つ姿勢ではなく,「いつでもお話を聞きに行きます。来月なんかどうですか?」という,パパたちのホームに招いてもらう姿勢でかかわりを増やしていってみませんか。
 実際に,コロナ禍以降,オンラインで妊婦相談を受けるようになった産婦人科もあると聞きます。もちろん, パパも同席できます。そんな機会に,パパへの情報提供とコミュニケーションを通して,パパの不安の解消や, モチベーションを上げるサポートができるのではないでしょうか。

 マンパワーの関係で,すべての夫婦にオンライン相談していられない,という施設もあると思います。その場合は,妊婦健診に来てくれたママに,「ここはパパと一緒に考えて書いてみて。次回の健診でもってきてね」という形でワークのようなものを渡すのもよいと思います。こちらからパパの懐に入っていって,わずかでも思いを共有できれば一歩前進じゃないですか。

 出産・育児へのパパのかかわりを強めたいと思ったら,ぜひ,パパに会いに行きましょう。
 情報を渡しに行きましょう!

 本連載では,皆さんからの「こんな状況のパパとのかかわりに悩んでいる」という声を求めています。現場の悩みを教えてくださいね。


【おわりに】


連載第1回目の記事,いかがでしたでしょうか?
次回もどうぞお楽しみに!

※雑誌『チャイルドヘルス』では,他にも子どもの健康や育児に役立つ情報を掲載しております.
また,電子書籍を販売している号もございますので,そちらもぜひご覧ください.



 


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