金融政策決定会合における主な意見(2017年9月20、21日)を拝読

日銀審議委員の片岡剛士さんが、もっと緩和すべきということから、現状維持に反対票を投じた決定会合の「主な意見」(*1)が公開されました。

 “「金融政策決定会合における主な意見」は、①各政策委員および政府出席者が、金融政策決定会合で表明した意見について、発言者自身で一定の文字数以内に要約し、議長である総裁に提出する、②議長はこれを自身の責任において項目ごとに編集する、というプロセスで作成したもの“(*1 P.1)

だそうです。

気になった箇所を抜き出してコメントします。

(*1) 金融政策決定会合における主な意見 (2017年9月20、21日開催分)( 日本銀行, 2017.09.29 )

http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/opinion_2017/opi170921.pdf

◾️国内経済情勢

“家計部門では、将来の家計負担の高まりが見通される状況下、現在の所得増加が持続的な所得増加期待につながりにくい。企業部門では、設備稼働率や期待成長率が十分に高まっていない。こうした点から、国内民需の増勢テンポは緩やかなものにとどまる可能性が高い。 ”(*1 P.2)

将来の消費税率引き上げが「安心」どころか「不安」につながっているかもしれませんね。民需の増勢テンポが緩やかですと、需給ギャップから物価上昇への経路へ働くプラスの力も緩やかになると考えることができます。

政府の消費税率引き上げテンポが早過ぎた、増税すべきではなかった、とも取れます。

◾️物価

“消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、2%に向けて緩やかに上昇していくとみられる。しかし、企業のデフレマインドは根強く、価格設定行動も慎重で、2%に達するには暫く時間がかかると見込まれる。 ”(*1 P.3)

“物価は、原油価格や為替の影響により当面上昇すると見込まれるものの、資本・労働市場に過大な供給余力が残存していることから、来年以降、2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低い”(*1 P.3)

私も物価上昇率が高まっていくペースには疑問を感じています。

2017年の7月の展望レポートおける物価見通しの図表を見ると、現状維持(しかも、最近は国債の買入ペースが年間80兆円に満たないペース)を繰り返し、物価安定目標達成時期を6度も先送りした「コミットメント」の団体が、です。黒田東彦総裁の任期ちゅ〜の達成は困難な見通しですね。

図表出典:(*2)経済・物価情勢の展望 基本的な見解

( 日本銀行, 2017.07 )

http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1707a.pdf

◾️金融政策運営に関する意見

“2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されている。もっとも、その実現までにはなお距離があることから、現在の強力な金融緩和を粘り強く推進していくことが重要である。”(*1 P.3)

現状維持総裁が仰りそうなコメントです。

距離があるのに現状維持を続ける、と。

雇用環境の数字を見て、完全雇用だと思っているとか?

“2%のインフレ目標にコミットする一つの理由は、景気の実勢や構造失業率を正確に把握することはできないことにある。構造失業率を3.5%とする推計値を前提として金融緩和を止めていたら、現在の2.8%の失業率は実現していない。直接物価を目標にしたことにより、より低い失業率や賃金の上昇が実現し、バブルにもなっていない。人手不足から、企業はビジネス・プロセスの改善や省力化投資にも取り組んでいる。 “(*1 P.3-4)

原田泰審議委員は、かつて、構造失業率2.5%程度という推計を出されていました。このコメントは、もしかして、原田さん!?

”2019年10月に消費税の増税が予定されている中、「物価安定の目標」の達成・安定化に向けて、追加金融緩和によって総需要を一段と刺激することが必要である。“(*1 P.4)

追加緩和を主張なさった委員も!

片岡剛士さんでしょうか?

片岡剛士さんは前回の金融政策決定会合で、金融緩和が足りないとして現状維持に反対票を投じられました。(*3)

”(注1)賛成:黒田委員、岩田委員、中曽委員、原田委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木 委員。反対:片岡委員。片岡委員は、資本・労働市場に過大な供給余力が残存しているため、現在のイールドカーブのもとでの金融緩和効果は、2019 年度頃に2%の物価上昇率を 達成するには不十分であるとして反対した。

(注2)片岡委員は、物価の前年比は、原油価格や為替の影響により当面上昇すると見込まれるも のの、来年以降、2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとして反対した。“(*3)

(*3)当面の金融政策運営について ( 日本銀行 , 2017.09.21 )

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/k170921a.pdf

金融政策決定会合で、全員が賛成となることへ「不安」を述べる記事(*4)もありましたが、デフレ維持という実績を残した白川日銀時代は、ほとんどが「満場一致」で遅く小さな金融緩和(または現状維持)が決定されていましたが、「不安」は聞かれませんでした。

デフレ維持の実績を誇った旧日銀時代には、日銀の金融政策に意見を言うと「日銀の独立性がー」などと騒がれました。

中央銀行の独立性には目標と手段があり、前者は政府(もしくは政府と中央銀行で共同)に独立性があり、後者が中央銀行にあるとされます。ご興味のある方は、前FRB議長のバーナンキ氏の講演などをご一読されると良いでしょう。

(*4)3年ぶり「満場一致」への不安:日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXLASFS19H0M_Z10C17A7ENK000/

金融政策決定会合に計量経済学による分析を基にした勇者が参加していることを心強く思います。

消費増税を推し(増税しないと「ドえらいリスク」などと発言)の黒田東彦日銀総裁が交代しないと、金融政策が大きく動くことは難しいかもしれません。

日銀正副総裁人事(安倍政権の継続が望まれます)に注目すると共に、勇気ある片岡剛士さんのメッセージにも注目していきます(^-^)

https://comemo.io/entries/1952

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