ドリルと穴の関係とKBF
顧客のニーズの話をする時、よくドリルと穴の例が出てくるかと思います。「ドリルを買う人は、ドリルが欲しいのではなく、穴が欲しいのだ」という話です。聞いたことがある人も多いのではないでしょうか?
これは、マーケティング近視眼に陥らないようにするための逸話で、ドリルのメーカーにとっては他のドリルメーカーだけが競合ではなく、穴が手に入る手段が全て競合になるという教訓です。
その辺の話はこちらでも書きました。
もどって、製品を購入してもらうためには顧客ニーズを満たす必要があるというのは当たり前ですが、「顧客ニーズ」というのが結構あやふやな言葉なのです。
ドリルメーカーにとって顧客ニーズは、根本的には、穴を得られる(ちょっと変な言い方ですが)ことです。しかし、顧客は穴が得られれば、なんでも良いのでしょうか?例えば既に穴の空いている木の板でも良いでしょうか?ドリルじゃなくてキリという選択肢もありますよね。大きな穴ならホールソーもあるでしょう。と言っても、自分が欲しい穴を得るためには、基本的顧客ニーズだけではなく、その製品を選んでもらうための条件を満たさなければなりません。
と、ここでやっと本題のKBF(Key Buying Factor : 重要購買決定要因)の話です。話をシンプルにするために、ドリルに絞って話しましょう。ドリルならどれでも穴を開けられますが、さまざまなドリルがあります。動力源だけ見ても、手回し式から電動、エアコンプレッサーを使用したものもあります。当然、重さも変わってきます。ブランドでいえば、無名のものから、マキタ、ボッシュ、リョービと言った有名ブランドのものもあります。価格も違ってきます。
もし、みなさんがドリルを買うなら、どのドリルを買いますか?「さあ、一斉に選んでみましょう!」と言ったら、おそらくみなさんバラバラのドリルを手に取ると思います。それは、みなさんがドリルを選ぶのに重要視する要素が異なるからです。これがKBFです。
人によって製品を選択する際に重要視する項目が異なります。世の中を見れば、色んな自動車が走ってますし、色んな服を着ています。家だって色んな家があります。これは、KBFが人によって異なるが故に、メーカーが異なるKBFを満たすための製品を提供しているのです。
言うなればポジショニングです。同じ基本的顧客ニーズを満たす製品でも重視するKBFを変えることで、ポジショニングを明確にして他の製品と差別化することができるのです。
ということで、ドリルを買う人はドリルが欲しいんじゃなくて穴が欲しいんだけど、なんだかんだでドリルを選ぶにはそれなりの理由がある。ということです。「顧客ニーズ」という言葉でざっくりまとめてしまうと、基本的顧客ニーズの話なのか、KBFの話なのか曖昧になってしまいます。マーケティング的には「混ぜるな危険」のふたつなので、顧客ニーズと言われた時はどっちの話をしているのか、注意深く考えましょう。
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