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私たちが望む働き方、暮らし方。「これからの“品川港南”」の未来を語る【イベントレポート】

日本有数のオフィス街、品川。

コロナ禍が日本全体に大きな転換をもたらす中、このまちも変わり始めています。働き方では、リモートワーク化に伴う通勤する人の減少、品川港南に住む人たちの暮らしに目を向ければ、他のまちに移動することなく1日中品川エリアで過ごす傾向が見られます。

この静かな変化を起点に、これから先どのようなまちになっていくのか? 手放しに未来を待つのではなく、私たちが望む「これからの“品川港南”」を共に見つけていきたい。その想いのもとに開催したのが、オンラインイベント 品川スタイル研究所「これからの“品川港南”」です。

今回の記事では、品川港南にご縁の深いまちの研究員の皆さまをお迎えし、地域で活動する上でのさまざまな観点から語り合ったイベントの内容をnoteにてご紹介します。

“品川港南”の未来を作る第1歩として、皆さまも気づいたことがあればご意見・ご感想をいただけると嬉しいです。

「市民主体」や「ボトムアップ」……キーワードから紐解く、まちのあり方

岡本 篤佳 氏(以下、岡本):本日のイベントでは、パネルディスカッションの前に各登壇者から自己紹介及びポイントトークをいただきたいと思います。モデレーターを務める私も、簡単に今後の品川について触れると……

岡本 篤佳 氏 
(NTT都市開発株式会社 商業事業本部 商業・ホテル開発部 担当課長)

1983年生まれ。千葉大学大学院工学研究科建築・都市科学専攻を卒業後、NTT都市開発へ入社。
商業施設およびホテルの開発とオフィス営業を担当。
都市計画視点から具体的な開発コンセプト作成・建築計画・実行を得意とし、過去に品川エリアマネジメントの立上げと推進、福岡での商業施設開発、数十年先の不動産の将来予測、東京大学との都市空間生態学の共同研究、次世代オフィスサービス検討などを担当。

まず、働き方や暮らし方において今までの状況と今後どうなるかのポイントが3つあると思っています。1つ目は、以前はオフラインの仕事が多く、先駆的なIT企業だけオンラインで仕事ができていたのが、コロナ禍になりオンラインの活用が先駆的な企業や人だけではなくなったこと。そして、今後、新型コロナウイルスのワクチンが普及した際はオンラインとオフラインを両方を使いこなすことになるのではないか。

2つ目は、デジタル化と相性が良いオンラインのワークが多様化していくこと。3つ目は、オンラインが発達しても、会うことでしか味わえない体験への渇望が生まれるのではないか。

それが今後やってくる未来なのではと思っています。その上で、今回のイベントでは品川港南にフォーカスして、各分野の専門家の皆さんに所属する企業の枠を超えて、個人的な意見も踏まえた意見を伺いたいと思います。

山下 正太郎 氏(以下、山下):私は品川で働き始めて約15年になります。品川は「日本の新しい姿を感じ取れる開放区」になってほしいなと思い、最初のポイントトークにまとめたいと思います。

山下 正太郎 氏 
(コクヨ株式会社 ワークスタイル研究所 所長/ WORKSIGHT 編集長)

コクヨ株式会社に入社後、戦略的ワークスタイル実現のためのコンサルティング業務に従事。手がけた企業が「日経ニューオフィス賞(経済産業大臣賞、クリエイティブオフィス賞など)」を受賞。
2011年、グローバルで成長する企業の働き方とオフィス環境を解いたメディア『WORKSIGHT(ワークサイト)』を創刊。また同年、未来の働き方を考える研究機関「WORKSIGHT LAB.(現ワークスタイル研究所)」を立ち上げる。
2020年、国内外の働き方/働く場に関するキュレーション・ニュースレター『MeThreee(ミースリー)』を創刊。
2016-17年 英RCA ヘレン・ハムリン・センター・フォー・デザイン 客員研究員、2019年より国立大学法人 京都工芸繊維大学 特任准教授を兼任。

コロナ禍以前のオフィス観を振り返ってみると、大きく2つのトレンドがありました。1つは、変化に対応するフレキシビリティを持って、より働きやすい環境を追求する「Activity Based Working(アクティビティー・ベースド・ワーキング:ABW)」。ABWは、今まで働く場所をオフィス内に限定していた働き方を、家でもカフェでも、いつ、どこで働いてもいいというスタイルを取り入れたのが特徴です。

もう1つ、その対局にある働き方として、アメリカ・シリコンバレーの企業のように、在宅ワークをしないでなるべく長い時間オフィスにいることを重視したスタイルです。オフィス空間を快適なものにして、長い時間を過ごすことでコミュニケーションをふやすことでイノベーションを生もうという思想を持っています。

これは、どちらが良いか悪いかではなく文化の違いによって適しているか否かが変わります。日本においては、空気・文脈を共有するハイコンクストな状況を維持するためにみんなで集まる働き方を得意としていましたが、、コロナ禍で逆のローコンテクストに適したABWの分散型の働き方に対応できていない側面が見てとれます。

現在、日本ではジョブ型雇用はじめ、これまでの集団的な組織運営から、ワーカー一人ひとりの役割を明確にしていく動きが進んでいます。当然、オフィスの意味や機能が今よりも限定されるでしょうし、合わせて毎日何の疑いもなく通っていたオフィス街も、あえて行く理由が求められるようになるでしょう。

最近、私の勤めるコクヨ株式会社でも“働こう。街で、チームで。”をコンセプトに、みんなのワーク&ライフ開放区「THE CAMPUS」を立ち上げ、新しい品川港南を一緒に盛り上げていきたいと思っています。

竹内 雄一郎 氏(以下、竹内):私は株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所で研究員を勤めています。情報系の研究開発ということで、以前からPCさえあれば毎日通勤しなくても仕事ができるスタイルでした。

竹内 雄一郎 氏 
(計算機科学者/株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所研究員/一般社団法人ウィキトピア・インスティテュート代表理事)

計算機科学者。トロント生まれ。
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所研究員、および一般社団法人ウィキトピア・インスティテュート代表理事。
東京大学工学部卒業、同大学院新領域創成科学研究科博士課程修了、ハーバード大学デザイン大学院修士課程修了。
ニューヨーク大学クーラント数理科学研究所客員研究員、科学技術振興機構さきがけ研究者等を経て現職。
情報工学と建築・都市デザインの境界領域の研究に従事。

私を含め、研究員の多くは週の何日かは家やカフェなど社外で仕事をしていたため、コロナ禍になり原則リモートワークになってからも働き方はあまり変わっていません。

しかし、世の中が大きく変化していく中で、業務プロセス・社内制度の見直しなどは行われています。例えば、ハンコ文化が徐々に見直されていったり、これまでは口頭で伝えられていたような情報が明文化・ドキュメント化されるようになっています。こうした変化は、一時的ではなく恒久的な変化になるだろうと感じています。

今後、コロナ禍によって都市は大きく変化していくと思います。これまでは10年かかると思われていた変化が数年に圧縮される、そういった類の変化が起こるはずです。

品川を含む都心の未来を考えると、人口集中や経済格差の増大などは今後も変わりなく続くのではないかと思いますが、、同時にワークライフバランスの向上や、住むまちと働くまちの融合などが生まれてくるのでは。

最後に、私自身の活動を少し紹介すると、ウィキペディアになぞった「ウィキトピア」というプロジェクトを進めています。コンセプトは”街も「みんな」で作れるか”。例えば、アメリカ・サンフランシスコでは、アイデアと意思のある住民によるDIY的なまちづくりの制度化が進行しており、道沿いに「パークレット」という小さな公園が住民の手で作られていたりします。先進的なテクノロジーを用いることで、そうした市民参加がさらに一般化した未来都市像を追求していきたいと考えています。

木村 篤信 氏(以下、木村):私からは、コロナ禍の「濃・薄」「雑・整」を踏まえたまちのあり方というテーマで、ポイントトークをしたいと思います。私自身は、地域の人たちといっしょに次の時代の新しいまちづくりや社会課題解決につながるテクノロジー開発を実践しながらその方法論を研究しています。

木村 篤信 氏 
(NTTサービスエボリューション研究所 主任研究員/デザインイノベーションコンソーシアム フェロー/一般社団法人 大牟田未来共創センター(ポニポニ)パーソンセンタードリサーチャー)

大阪大学,奈良先端科学技術大学院大学を修了後,NTT研究所に入社,博士(工学).
主としてHCI、CSCW、UXデザイン、リビングラボの研究開発に従事.
現在は、大牟田市のポニポニや奈良市のTOMOSUとともに、次の時代の新しいまちづくり、地域経営、サービス開発のあり方を実践&探索中.
研究内容・出版物についてはこちら

これまでは「密」だったのがコロナ禍によって「疎」になっていくというトレンドがあります。これは人と人が会うという対面が前提だった社会が変わってきているということです。

加えて、本日はそれとは違う観点、「薄・濃」と「整・雑」について触れてみたいと思います。詳しくはNoteの寄稿に書かせていただきましたが、対面が避けられるようになったことで人と人との繋がりが希薄化し、自粛要請によって今まで雑然としていたまちが整然化されていく流れがあります。その結果として、自殺、孤立死、ひきこもりや児童虐待などの問題が生まれています。

密を避けることが重視されるべき状況ではあるものの、ソーシャルキャピタルを希薄化させないことやまちの雑然さを担保し続けることも同じくらい重視されるべき要素だと思います。しかし、「密→疎」のトレンドは、科学的根拠により強く主張しやすく、トップダウンの意思決定に活用されやすいのに対して、「薄→濃」「整→雑」のトレンドは、統計的根拠はあるものの科学的ロジックではないため強く主張しづらい特性があります。ですので、暮らしの豊かさにつながる「薄→濃」「整→雑」のトレンドを担保するには市民からのボトムアップの意思表明が重要になります。
 
そのような市民からのボトムアップの意思表明も組み込みながら“変えていけるまち”を目指すアプローチとして「リビングラボ」という方法論があります。企業や行政が単独でまちを作るのではなく、市民などのステークホルダーと一緒に共創していくやり方です。その共創の過程において、関係者それぞれが態度を開いていくこと、組織的な活動のプロセスを開いていくこと、社会的な思い込みを開いていくことなどが、これからの品川港南を考える上で大切なことだと思っています。

これから求められる「新しいオフィス街」とは

岡本:ポイントトークありがとうございます。それぞれの意見を受けて、皆さんはどう感じましたか?

山下:各自、違う分野の研究や事業をされていますが、共通しているのは「市民主体」や「ボトムアップ」というキーワードだと感じました。上からこうしろと計画を押しつけられるのではなく、自然発生的に湧き出るようなものが大事だという認識でしょうか。

岡本:そうですね。まちは行政からのトップダウンではなく、市民の想いから作られた方がいいと思っているのは共通していましたが、もう少し深堀ってディスカッションしてみたいですね。なぜ、そう思ったのか。
 
木村:行政は調整することが得意ですが、それだけでは新しいことが生まれてこないんですよね。もう少しボトムアップから実験をして試行錯誤する活動が開かれた社会には必要だと言われています。調整と実験、その2つの循環を回していくことが大事だという事です。3人には共通して今の社会に対して「実験」の機能が弱いという共通認識があるのかもしれません。

岡本:あと、働き方に関しても竹内さんのように完全リモートワークができている会社が増えると、今後はたしてオフィスがいるのかといった問題も出てくるように思います。

竹内:私たちも今はコロナ禍なので完全フルリモートで対応していますが、やっぱり実際に会うとテンションが上がって、今まで進まなかったものが前に進んだりするとは感じているんですよね。新しい人と信頼関係を築く上でも、リアルが重要だと感じます。なので、オフィスがあって、そこで会うことで代替できない価値は残るはずです。

岡本 :なるほど。その流れから、今回のパネルセッションの最初の問いに移りたいと思います。「今後、企業・ワーカーがまちを“ホームタウン”だと感じるにはどのようなことが必要でしょうか?もしくは企業にとってホームタウン感はそもそも必要でしょうか?」

事前に答えていただいた皆さんの回答を見ながら、ディスカッションできればと思います。

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山下:自分の働いている場所や会社に特別な感情を持てることはエンゲージメントの観点から重要です。コロナ禍で「働く」と「空間」が分離して、仕事の機能的なものだけを求めるのであれば家でもカフェでもできてしまう時代になりました。あえてオフィスに出社するのであれば、会社のカルチャーを感じたりチームビルディングができたりなどのより精神的な価値が重要になるのではないでしょうか。

木村:私の課題感としては、企業や行政の担当者がサービスを考えるときに、その地域で暮らす生活者のことを肌触りを持って知っているかが大事だと考えています。そのための一つのアプローチとして生活者との共創は有効です。共創する中でで、暮らしに実感を持ってサービス企画や政策立案ができる担当者が生まれ、地域の生活者との共創の中から価値が生まれる状況が積み重なってくると、結果として企業と地域の新しい関係性が紡がれていくことになると思います。

岡本:なるほど。木村さんがパネルで述べている「新しい価値創造の共同体験」というのは、企業が事業活動として生活を向上させるものやサービスを作っているのなら、もっと仕事の時間中にだって生活者を身近に感じられる距離感で仕事していると、新しい価値創造ができるのでは、と言っているようにも感じます。

竹内:これからのまちは、オフィスがドンドンと並んでいるだけだと人を呼ぶのが難しくなるんじゃないかと思うんです。地域の人々が協力する活動として、ポイントトークでも取り上げた事例ですが、米国西海岸では住民が共同で小型の公園(パークレット)を作り維持していたりします。これは、若い人も参加しやすい面白い試みです。アクテビティとして市民を巻き込むことが大事だと私は感じますね。

環境変化のなかで、まちにあると良いこと

岡本:次のセッションテーマに移りたいと思います。「コロナ禍をはじめ、この先の環境変化のなかで、まちにどのようなものがあると良いでしょうか?」

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岡本:まず木村さんは、「問いと対話」とありますが、これはどういう意味でしょうか?

木村:まさに、今回のイベントがそうだと思うのですが、何かを実践している人が未来はこうではないかという問いを立て、聞いている方々がそれをきっかけにしながら対話していく。そんな対話を多くのステークホルダーと積み重ねていくことが、まちを変えていく原動力になるのだと思います。

竹内:今後は通勤するまちと、生活するまちとの融合が予想されるので、今までよりも多様な人にアピールできる何かがあるといい気がします。思いつきですが、駅前に農園があるとか、品川港南広場に卓球台が並んでいるなんてどうでしょうか。働く場でも、仕事には全く関係ない遊びの要素があったらいいと思います。

岡本:なるほど。山下さんは「1.5 place / 2.5 place」とありますが、これは?

山下:1st placeは家で、2nd placeはオフィスで、3rd placeは家でも会社でもない自分がリラックスできる場所が大事だと社会学者のオルデンバーグが分類しました。でも、それは通勤を前提に作られた概念でした。職住近接が進むであろう今後は、いかにそれらが混ざり合っていくかがポイントではないでしょうか。1.5や2.5のような1つの役割に集約されない多義性のある場所があるといいなと。

岡本:混ざり合った方がいい理由って何なんですかね?

山下:自分が住んでいる場所、働いている場所に、より愛着を持てるためには、そこにいる人たちとの共通体験をつくることが重要です。混ざり合うことで、そこにいる人との繋がりだったり、新しい活動が生まれる多様性が育まれるのだと思います。

岡本:たしかに、そこにいるいろいろな人たちと混ざり合って接点がたくさんある場所を私たちは地元と感じるものであり、つまりホームタウンになるのですかね。一方でコロナ禍になって環境変化が起こった中で、今後どうなるのかは興味深いですね。

木村:1.5 place / 2.5 placeの表現は面白いなと思いながら聞いていました。これからは、整然ではなく雑然を大事にしたいという話を先ほど述べましたが、計画された形ではない、偶発的にうまれることが大事なのだと思います。目的ありきで作られるものは、目的自体は達成できても、偶発的な出会いや繋がりが生まれにくくなってしまう傾向にあるからです。

岡本:例えば、コロナ禍はオンライン化が進み、目的を持って参加しないと人と繋がれないような時代になったからこそ、逆に計画的に作られるものではないまちに身を投じたい気持ちになるのかもしれません。

竹内:私は、それぞれ短い間ですがベルリンやニューヨークに住んでいたことがありました。当時住んでいた地域は、計画的につくられたまちではなく、働く場所や暮らす場所が雑然と混ざり合った形で成り立っていて、そこにしっくり馴染める感覚があったんですよね。その街のコミュニティの中にいる感覚を味わえました。それに近いのかな。

岡本:たしかに、仕事と暮らしが近いのは、便利さを実感するだけでなく、まち全体と繋がっているという感覚が生まれるのかもしれないですね。

“品川港南”の未来を作る第1歩を探す

岡本:最後は、「港南⼝にある資源を活⽤して、住⺠・ワーカー・企業にとって魅⼒的なことができないでしょうか?」という質問です。

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竹内:品川港南の倉庫街に子ども向けの文化施設、たとえば小さな科学博物館などを作るのはどうでしょうか。品川の近隣にはNTTやSONY含めITテクノロジー系の企業も多いので、技術提供が期待できますし、カフェなどを併設すれば大人の居場所にもなりますよね。

ステーブ・ジョブスも13歳の夏休みにIT企業のヒューレット・パッカードにてアルバイトの経験を積んでいましたが、そういうことが品川でもできないかな。

木村:子どもたちが、この地域で好きなものを見つけ、将来は研究者になっていった……みたいなことができる場所になるといいですよね。私が挙げたのは、みんなの「やってみたい」が羽ばたいていく場ですが、竹内さんのおっしゃたことに近いと思います。品川にはたくさんの企業がありますし、広場などもある。そういった場は、対話したり、多様な活動が生まれる資源とみることができます。そしてその資源を活用するためには、子どもたち本人が内発的にやってみたいと思った時に、周りが後押ししてくれる環境があるかが大事で、そんな場づくりが品川港南にもあるとよいですね。

岡本:品川には共創的なものを意識している人や企業も多いと思います。そういったものも品川の資源なんだと思います。木村さんの言うように、その人や企業の活動がまち中に表出されているといいかもしれませんね。

山下:私は「都市の寛容性を上げる実験基地」と挙げさせていただきました。欧州のスタートアップ都市ベルリンを例にとると、冷戦終結後の何もない廃墟から新しいカルチャーが育ったことが大きい。

まちって良くも悪くも特定の文化があり、面白そうなことをやると地元の誰かが反対することもありますよね。ベルリンはその点、しがらみが少なく、市内の空き地に勝手に市民農園ができたりします。行政は、杓子定規に規制するのではなく役に立っているなら追認するスタンスを取っており、こうしたことからも都市は挑戦が許容されるために寛容であることが重要だと思っています。
品川港南エリアも、無色透明でキャラクターがないところがあるので、何か実験する余地があるのでは。

岡本:品川港南って、運河や海に至近で、都市構造的にアイランドといえる地域。企業も住民もいて、都心の割にオープンスペースもまだまだあります。まちづくりについては、誰がリードをとるかわからない状態でもあると思います。実際、何から始めたらいいのでしょうか?

山下:イノベーションを生み出す人は、一般的に見ればちょっと変わったアクティブな人だと思います。先ほど挙げたベルリンでそういったイノベーション人材が集まったのは活動のための土地が劇的に安かったから。品川でも安くて誰でも使っていいよという場所を企業がスポンサードしてあげてもいいのでは。

竹内:品川港南駅前広場は、どこか殺風景な雰囲気があり、何かストリートカルチャーが生まれるイベント的に使えたらいいかもしれませんよね。

木村:お二人は場の話をしていたので違う観点から話すと、私の研究している「リビングラボ」の方法論で、価値が生まれるために大事にされているのが、主体性があるか、新しいことに挑戦できるか、対等であるかなどなんですよね。

例えば、対等であるかの例として、デンマークでは国会議員が講演したときに、子どもがフラットに自分なりの意見を言うんですね。それが十分に練られた意見でないとしても、質問された議員もそれにフラットに答え、周りの大人たちも当たり前のやり取りとして受け止めるんですよね。そういう子どもたちや大人たちが少しずつ増えていけば、品川港南エリアもよりよく変わっていくのではないでしょうか。そのような対等な態度のあり方は明日からみんなでトライしていけることかと思います。

岡本:まちづくりについては、もっとみんなが自由に意見を言ってもいいと思うんですが、自分も含め……なんでやりづらいのでしょうかね。関心がないのか、住んでいる場所だからこそ言いづらいのか、あるいは自分の住まうエリアではないと言いづらいのか。そこを活性化していくにはどうすればいいでしょうか?

竹内:まちの取り組みへの参加のモチベーションを高めるには、小さな声を拾えるようになったらいいなと思うのです。

木村:東京大学の梶谷先生が「哲学対話」というアプローチに関して言われている話ですが、世の中には、普通の状態では自由にものを言うことや考えることを阻害する力がいたるところで働いています。なので、フラットに対話してくださいと言ってもなかなかできないのが普通なのです。逆にフラットに対話をするためには、「哲学対話」にある9つのルールのようなものが参考になるかもしれません。例えば、何を言ってもいい、喋らなくてもいい、話がまとまらなくてもいいなどで、喋らなくても考えていること自体が対話の1つだと捉えられています。

岡本:このイベントもあえて、話がまとまらなくてもいいのかもしれませんが(笑)、そろそろまとめて行く上で、コメンテーターの方の質問も紹介させてください。港南小学校の校長先生の船木様からで、住人・地域・企業をつなげて子どもたちが「ふるさと」と思えるようなまちづくりができないでしょうか?

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木村:今までの品川は企業と市民との対話や共創の機会が開かれていなかったのかもしれません。しかし、それが実現できるだけでもお互いの学びになると思うし、子どもたちや、地域の人たちにとっても素敵な経験になるはずです。

山下:前提として人間の移動はこれからもありますし、生まれた場所に居続けない人も少なくないはず。そうなると、その都度住んでいる場所にシビックプライドを持てるかという視点が重要では。シビックプライドを持つには、自分がそのまちに変化を与えることができたかどうか、が問われます。子どもたちに向けてであれば、学校で完結するのではなく、企業がサポートすることもできるのではないでしょうか。

岡本:ここでも、企業の協力体制ですね。「ふるさと」と言えるためには、一つの要素として、自分が関与してまちが変化していく実感を得られるのは大事なんですね。

竹内:品川は駅やオフィスの近くに大きい小学校があるのも、まちの特徴だと思うので、企業との交流やワークショップなど積極的にやってみてもいいのではと感じますよね。

岡本:まちとの関わりの作り方については、企業側からのアプローチでできてもいいですよね。ウィキトピアもそうだと思いますが、繋ぎ方を変えるだけでわがまちを「ふるさと」と感じられるようなことができるかもしれません。住と職が近づいている品川だからこそ、それがやりやすいのか……正解はないかもしれませんが、少しヒントの種が見えてきたかもしれません。

品川港南の未来に向けたメッセージ

岡本:今回のイベントを通じて、皆さんはどんな感想を持ちましたか?

山下:品川でいろいろな人の営みがあることを改めて感じられるいい取り組みでした。アメリカ・シリコンバレーの企業は、経済的には成功しているけど、経済格差などで地元の住人たちを苦しめていたりと、企業自体の社会に対する想像力が及ばなくなってきているんですよね。気候変動もそうです、実害なく人生を終えられる年配の人と、子どもたちでは、危機意識や捉え方も違ってくる。そういう想像力の分断を起こさないような対話をコンパクトな品川港南エリアの中で引き続きできたらいいと思います。健全な大企業が育つ場所になれるという期待を抱きました。

竹内:私は、これからの地方は心配していますが、品川はどう転んでもいいまちになるので、未来は明るいと思っています。心配があるとすれば、再開発がもっと進み、どんどん便利になってお金持ちだけのまちににはなって欲しくないなということくらいです。

木村:自分たちがやりたいと言って集まり、何かを作っていけるといいと思いますし、そこがまちの誇り=シビックプライドに繋がるのだろうと思います。

でも、無理をして新しい何かを始めなくてもいいと思っています。例えば、企業は日々商品を開発しているし、公園をつくりなおしたり、ビルが建設されたり、いつも地域の身の回りには社会の活動があるはずです。なので、その既存のプロセスを少し開いて、地域の人たちに参加してもらうなど、今ある活動を開くことも大事なのだと思います。

例えば、リビングラボでも幼稚園を建てかえるときに「じゃあどうしたい?」とプロセスを開いて子供たちに参加してもらうことで、子どもたちからは「3階から1階まで一気に降りられる滑り台がほしい」といった意見が出て、それが実現されました。このようなことが品川港南でも起こったら面白いですよね。

岡本:ありがとうございます。今日は主に企業側の視点にて話してもらいましたが、住民の方もいろいろな感情が出てきたのではないでしょうか?「私もこうしたい!」と話すと、「実は企業としてもこんなことができる」などが生まれるかもしれません。そういった対話がシビックプライドに繋がるし、今回のイベントがそういうきっかけになればいいなと思って終わりにしたいと思います。

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いかがでしたでしょうか?
イベントにご参加いただいた皆さま、本記事をお読みくださった皆さま、心よりありがとうございました。
また近い機会に、皆さまにお会いできますことを⼼より楽しみにしております。

ー 品川スタイル研究所

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