見出し画像

楽で簡単で楽しいけど脆い、匿名での関係性

 無料通話アプリ、「斉藤さん」。私はこのアプリに何度もハマり、何度も助けられ、そして何度も傷ついてきた。一応言っておくが、運営会社に傷つけられたのではない。私が傷つけられたのはその利用者からだ。

 「斉藤さん」といえば、すぐ思い浮かぶのは10年ほど前にあった大ブーム、あとは昔Youtuberがよくやってた『「斉藤さん」で女声をやって男をだましてみた』系動画だろう。
 私が中学生の時、「斉藤さん」が大流行してクラスの話題にも出ていたことを覚えている。そんな昔からあったこのアプリ、実は今でもゴリゴリあるのだ。

 このアプリは「変(態)な人が多い」とよく言われる。まあ確かに多いし利用者の6割以上はそんな人なんだけど、意外と普通の面白い人も多い。
 私が今まで話したことある人の中には、自称無名な俳優もいたし、自称弁護士、自称超高給取り不動産屋さんもいた。パイロットを目指している人もいたりして、自分が普通に生きていたら出会わないような人と話せて楽しい面もある。


 斉藤さんで話が盛り上がれば、フレンドになって繋がることも、連絡先を交換することもある。中にはさらに盛り上がって、実際に会った人もいた。
 しかし、どんなに盛り上がっても、どんなに話し込んでも、私はその関係性が三か月以上続いたことがない。どんな人でもだいたい(早くてその日には)自然音信不通か、突然のブロックだ。

 匿名通話アプリから始まった関係なのだから当然といえば当然なのだが、利用して間もない純粋な私は「なんてひどい人なんだろう」と何度も思ったし、人間不信になったこともあった。
 だって、三ヵ月も毎日のように話していて「今月末絶対会おうね!」と話していた人は顔写真を見せた瞬間ブロック音信不通にされたし(今考えてもひどすぎる)、一ヵ月くらい頻繁に電話していた人がめちゃくちゃ盛り上がった次の日に突然ブロックしてきたり、連絡先交換した人がしばらく連絡取れなくなったと思ったら窃盗で逮捕されてたり……。

 最後のはちょっと違うが、とにかくなんも脈絡もなく音信不通になることは、日常茶飯事であった。慣れるまではどんなに盛り上がっていても「明日音信不通になるんじゃないか?」と日々おびえていた。


 リアルな、匿名が通じない日常の関係性なら、人はそんな簡単に音信不通にならない。いやもちろんする人もいるが、そのような人がごくごくたまにだろう。
 せいぜい「アルバイトの子に着拒された、ブッチ退職だなこれは。」とか、「大学退学した途端連絡取れなくなっちゃったあの子。」みたいな?

 だが、リアルな日常の関係と、匿名を前提にした関係性は全く違う。それは私が斉藤さんでブロックされた、音信不通になった回数で実感する。



 最近、匿名を前提とした人とのつながりというのはかなり増えてきた気がする。
 SNSやマッチングアプリ、ゲーム上の出会いなど、だ。特にこのコロナ禍の中でそれらの関係性を築く人も増えただろう。

 だが、匿名を前提にしたオンライン上の出会いは、普段は出会わないような人に簡単に出会え、仲良くなれる分、簡単に離れられる。なぜならそこに責任はないからだ
 それは便利なようで、残酷だ。仲がいいと思っていれば思っていた関係ほど、壊れるのは突然だから。

 私が斉藤さんから学んだことは、オンラインで出会う人の関係は永遠と思わないこと。意味が分からないタイミングで、ある日突然、仲が良かったあの人は離れていくこと。
 「斉藤さん」の例で出すとわからない人も多いだろうが、ゲームでいう突然のフレンド解除、垢変え、SNSでいう突然の垢消し…意外とそういった責任のないさよならはすぐそこに転がっている。

 付き合いや話した長さは、信頼感に比例しない。これは責任感が伴わない、オンラインだからこその関係性だ。



 匿名を前提にしたオンライン上の関係は、楽しいし楽だし、リアルより簡単に友達ができる。
 けどそこに溺れすぎると、私みたいに突然死ぬ。

 コロナ禍で「全面リモートワーク!!」「全面オンライン!!!」「人と会わなくていいの最高!!!!」「引きこもりラブ!!!!」という意見ばかり目立っているが、それはすごく脆いものなのではないかと、私はどうしても思ってしまう。


椎名ゆず。


いただいたサポートでおいしいごはんを食べたり本を読んだりしようと思います。明日への生きる活力をつけたい