マガジンのカバー画像

短編小説

160
運営しているクリエイター

#恋

あしとシャンプー

あしとシャンプー

「もう松葉杖とれたんだね」おじゃましますと部屋に入りテレビを観ていた直人が振りかえったと同時にいわれる。
 あ、うんと曖昧にこたえて直人の隣に座る。
 10日ぶりにあった直人はやはり10日前とは少しの変わりもないけれどそれでもやはり10日間の間でお互いに些細なニュースはあるし10日間の間でこうやって松葉杖もとれたり10日間の間にちょっとでも浮気をしているかもしれないという被害妄想にやられそうになり

もっとみる
うなぎ

うなぎ

『お昼くらいに行くね』日曜日の朝、なおちゃんにメールをする。なおちゃんはあまりスマホを触らない。なので自動的にメールも気がつかないことが多い。けれども返信はきちんと返してくれる。だから返信がなくてもなんら心配などはない。
 メールあるいはLINEなどの返事を待つもどかしさったらない。ある種の拷問いや嗜虐プレイに過ぎない。とくにLINEがそう。相手が既読にならないとどうにかなりそうになってスマホばっ

もっとみる
こい

こい

『暑い』
 彼からメールが来る。LINEでもショートメールでもないcloud経由でのメール。たったの2文字。されど2文字。このメールだけであたしは向こう3日だけ浮きだった気持ちで生きていける。
『熱中症に気をつけて』
 なんて殊勝な返事なのだろうか。そのあとに『あいたくて吐きそう』あるいは『あいたくて狂いそう』などという文面を付随させることは彼の眉間にシワを寄せるだけだ。そんなことは知っている。だ

もっとみる